上 下
23 / 48

操られし者

しおりを挟む
「フレイア!!どうしたの??・・・船酔いは大丈夫なのか?」

出港して間もない船の上でクラウスが驚きの声を上げた。
私・・船酔いは酷くないですし、ヒレあるんで何かあったら泳げます。

なんて言える筈もなく。

「薬を飲んで参りましたので。それよりも、フィヨルド様の生誕を祝うお歌を歌うことは
私にしか出来ないことなので、精一杯歌わせて頂きますので!!」

「そうだね・・!!フィヨルドも喜んでいただろう?!私も君の「歌」、
楽しみにしているね。」

そう言って、宴の準備へと戻って行った。

出向して間もない船は凪いだ海の上で気持ちよさそうに漂うばかりだった。

空は星が輝き出し、美しい満月の光が海に映り水面が煌いていた。

「フィヨルド!!18歳のお誕生日おめでとう!!」

皆で、酒やワインを持ち乾杯の音頭はクラウスが務めた。

身分など関係なく、貴族である者や騎士である者、船を作り動かす者達もみんなで
歌い騒ぐ夜。

「フレイア!!さぁ君の歌を・・・聞かせて!!」

クラウスに引っ張られて、ピアノの前に歩み出た私は、伴奏を始め歌いだす。

その美しい音色に皆が躍るのを止めて、聞きほれ涙する者までもいた。

クラウスもビールを飲みながら、近くの椅子に座り嬉しそうに彼女を眺める。

フィヨルドは、ワインに軽く口をつけ、その光景を見守っていた。

フレイアの蒼い瞳と、金の髪が美しくライトに映えていた。

「フレイア・・・。いや、アウリーテ・・。
君の歌声はまるでセイレーンだな。
運命まで惑わせて、こんなにも変わってしまっているのは君のせいか・・。
クラウスも、アウリーテもここには予定だったのに、
・・不思議と・君の歌はいつも私の不安を拭う。」

眉を顰めて、グッとワインを頬張った。
喉に通したワインの渋みが苦く感じた・・・。

歌い終わった彼女には盛大な拍手が注がれた。

クラウスは歌の終わりに、仕掛け花火を点火した。

バシュウバシュウ!!次々に灯る花火の光の点滅に皆が見惚れていた。

夜の海の上での花火は月とのコラボレーションが美しく、余韻が残るものだった。

フィヨルドの生誕の宴は、とても素晴らしい宴であった。

・・・・この後の急な悪天候により、舵を失い迷い込むように波の狭間に揺らり揺れて
人間の力では、どうにもならなくなってしまうまでは・・・。




「うわぁあああ!!何なんだ?!舵が効かない?!!」

「帆が折れそうです!!この大雨も強風も・・・急な悪天候も無茶苦茶だ!!」

急にザァァァァァアっと振り出した大雨と、揺れだす波。

想像以上の強風を一気に浴びた帆船は、自分の力ではどうにも出来ない浮遊感と進路の取れない
状況とで混乱が起きていた。

「王子、このままでは船が沈みます!!」

「フィヨルド!!帆を急いで畳もう!!」クラウスは苦しそうに叫ぶ。

バタバタ行きかう、作業員たちに紛れ必死でフィヨルドは作業を続けていた。
私も帆を畳む作業の手伝いをしようと甲板にあがる。

クラウスが蹲り、青い顔をしていたのに気づいた!!

「大丈夫?クラウス様・・。どうなさったの?」

そう問うと、「すまない・・・。どうしても・・、嵐の海は苦手で・・。」

次の瞬間、気を失って・・倒れてしまった。

船室へと運ばせ、ベッドで寝かせると冷や汗を滲ませながら苦しい顔で唸っていた。

「クラウス様、嵐を止ませなければね。大丈夫。皆、助かるわ・・。」

そう言って、彼を船員に頼む。

私は、自分の鞄の中の物を持ち出してもう一度甲板へと飛び出した。

バンと扉をあけ放ち、甲板の上降り注ぐ雨の視界の先に目を眇める。

人間では無い物。

それは人間の肉体物達だった。

フィヨルドや船員はそれらの敵襲に驚き、剣で応酬するも、刺すことも貫くことも出来ないで
驚愕の表情で混乱した状態であった。

ミシミシミシッ。

帆もすぐに畳み終えないと折れてしまいそうな惨状であった。

私は、銃を構え、もはや命無き者たちに向かい鉄製の球の数々を発射した。

数十、数百の海の魔に当たり、次々消滅していく。

「フィヨルド様!!すぐに帆を畳んで岸へ!!!あとは私に任せて。」

大声で叫ぶと、フィヨルドは非常に驚いた顔で動揺していたが、「わかった!!ありがとう。」
すぐに部下に指示し、船を岸へと向かわせた。

次から次へと襲い掛かる魔をマシンガンの玉切れなしに、消滅させ続けた・・・。

腕は痛くなり、自分の足が捕まれた時はもうダメかと思ったが、フィヨルドが鉄製の
剣を持ち、切り払ってくれた。

「遅くなってすまない・・。手伝うよ。」「フィヨルド様!!・・た、助かります・・・。」
二人は、魔を払い、悪しき物の呪縛に縛られた命なき者たちのすべてを消滅させたのだった。

気づいた時は、荒れ狂う海の顔から、静かな海の様相を取り戻していた・・・。
しおりを挟む

処理中です...