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初恋は泡のように。

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美貌の王子。

生まれながら父や母の美しさを持ち合わせた
フィヨルド=メンデル=フオン=ヴァイレンは、
産まれて直ぐに母を亡くした。

数年の月日が経ち、新しい母として召した女性は私には冷たく無関心だった。

父には媚びを売り、私を見ると嘲るような笑みを見せた。

下に生まれた二人の娘たちを大層可愛がっていた。

王子として、他の者は優しく接してくれていたが、新しい王妃に男の赤ん坊が産まれてからは皆、変わってしまった。

人は都合のいい相手を敬い、媚を売る。

幼心に冷めた見方をするようになっていた。

隣国、イエリングの王妃はそんな私を気にかけ
城によく招いてくれていた。

隣国の王子と王女であった、同じ年齢のクラウスと二つ年下のエリーネは私の唯一無二の友人であった。
王妃のように、いつも変わらず優しく接してくれていた。

エリーネは薔薇のような深紅の髪に、グリーンの瞳。
色白で小柄な娘だった。
明るくお転婆でよく木登りをしたものだった。

しかし、時の流れは残酷だった。

元気だったエリーネは、しっとりと奥ゆかしい落ち着きを宿した麗しい王女の落ち着き宿すようになった。

彼女のそばにいると妙に落ち着かないことが多くなっていった。


13才の夏、避暑地の湖畔に出掛けた際にこの想いを打ち明け、彼女の反応を仰ぐと困惑した表情で
「私には他に好きな方がおります。
ごめんなさい・・。」
とキッパリ振られてしまったのだった。

悔しくて、辛かった。

でも、ずっと彼女を諦めることが出来ずにいたのだった。

ある舞踏会で、クラウスと、エリーネを伴い参加した際に、沢山の令嬢に私が取り囲まれている光景を見たエリーネは眉をしかめる様を見せた。


その時から、彼女に意識をさせる目的で女性を侍らすような行動を始めるようになったのだった。

しかし、月が登る夜の静寂が襲う頃になると
私は一人が寂しくなり、城を抜け出して浜辺へと歩みを取る。

諦められない思いと、自分のしたくもない幼稚な行動とに苦しむ心を海と月だけが知っているような・・・。

この時だけが、唯一の自分であるような気持ちになるのだった。


その様子をいつも蒼い美しい瞳が切なそうに見つめていたことは、知らなかった。

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