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第03話 ≪負≫ロジック
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【摩訶不思議?東京青春冒険活劇×第3話“《負》ロジック”】
《富士ロック・フェスティバル!日本最大級の音楽の祭典!オアシス・ビョーク・レディオヘッドが夢の競演!宿泊プランで気分はヒッピーじゃ~ん!》
こんなにノリノリの一番は見たことがない。何処からかチラシを貰ってきて、大はしゃぎしている。
《三咲も来るだろ?な?》
正直、ライウ゛で熱狂する明星一番の姿が想像できなかった。まあいい。
意外な組み合わせからどんな化学反応が生まれるのか楽しみでもある。
「サマソニじゃなくて富士ロックなんだ、ウッドストックみたいにグルーウ゛ィーになりたいんだ」
音楽に興味があるというより、その文化に身を浸したいらしい。
《それに、“奴”も来るとも思うしな》
負の感情を溜め込んだ悪玉、明星一番の真のネメシス、私たちの永遠の敵、未来を蝕む最恐の害虫。
「どうしてそう思うの?」
“負”ロジック
★
富士ロック、前日。
【深夜特急】
ガタンゴトン、と電車に揺られて寝呆け眼で目を覚ます。知らないオジサンの膝を枕にして眠っていた!
「ア!チョッ!すみません!」
『い…いいんだよ』
向かいの席でクスクス笑う明星一番。
彼に触れることができないのは承知しているけど、こんな状況を黙認するなんて信じられない!
「この…」
悪口を言おうとしたけれど浮かばない。
でも酷くムカついたので膨れっ面して中指を立ててやった。
《ごめん》
素直な一面、これが一番憎めない。
【同刻、夜のコンサート会場】
白い化け猫が仮設ステージのパイプを伝って器用に歩く。
「まぁー、ニャンコちゃん!ここで何してるの?ゴロゴロゴロ……」
イベントスタッフの女性が猫を撫でる。途端に痺れたように痙攣して、冷たい表情で背筋を伸ばした。
〈まったく、人間って奴は!毛のない肌!二足歩行!いつまで経っても慣れないにゃ~〉
『それは人間を忌み嫌っているという意味か?はたまたお前が、進化というものの真価を解せぬ大バカ者ということか?』
暗闇から顔を出すベーシストは告げる。
『難しい表現を使い過ぎた、何、ただの言葉遊びさ』
猫は身を翻してソッポを向いた。
〈ん~!もぅ!イライラするにゃ~!〉
1人で鉄筋の前でツメを磨ぎはじめる。
本能は否定できない。
日和ミーシャ。
触った人間に魂を転移させる、猫。
『所詮猫は猫か、フン』
ベーシストの名前は、鋼アルゼ。
今をときめく鋼3兄弟の次男坊だ。
『弾いてやろうか?お前のために』
因みに、語尾にアルゼと付けるのは怒った時だけらしい。
関係ないが、髪の色は淡いピンク色である。
〈決めゼリフは敵に向かって言うと決まってるにゃ〉
フフフ、とアルゼは笑う。
『俺がお前の味方だと、誰が言った?』
おもむろにベースを振り上げると、横たわる白い猫に向かって打ち下ろす。
〈ヒィ…酷いにゃ!〉
白い毛が赤く染まった。
『これでお前は、元の身体には戻れない。……サァ、言うことを聞いて貰おうか』
移ろいやすいこの世の中で、1つだけ確かなことがある。
鋼3兄弟は、無慈悲と冷血の塊だ。
★
《がはは!》
と下品に明星一番が笑う。3回目にして絶対にキャラが崩れている。
でも、人のことは一緒に旅に出ない限り分からないとも言われているし。
《それじゃあ富士ロックで夜露死苦!みんなでワイワイ盛り上がろうゼィ!》
「一体誰と話していたの?」
おしとやかに、私は訊く。
すると一番は秘密めいた表情で、会えば分かると小声で答える。
《会えば分かる、俺と話せるお前なら、彼とも話が合うだろう》
謎かけ問答に厭きてきた私は拗ねて一番の足を踏む。
バチバチと電流が奔る。
《痛てて…》
頬をつねる。
短距離走者の顔みたいに、ブルブルと歪んで感電している。勿論、私も少し痛い。
《あ、わっ、わぁった、わぁった、分かったってば!》
「嘘つかない?謎かけしない?私に秘密を作らない?」
何度も小刻みに頷く一番。少し可愛い。
《つかない、かけない、作らない。約束する》
ゆ、許す!
「で、電話の先にいるのは、誰?」
私はもう、何を言われても驚かないだろう。
《猿渡わをん。中二病で死んだ友人さ》
きっとあのビリビリという電流であの世と通信しているんだ!
だが、これが意味する本当の“種明かし”は最終話にお預けだ。
「ふぅん、一番は、死んでる人とも話せるんだ」
そう、次の言葉。
《俺たちは皆、中二病だからな》
★
陽が昇る。
会場前に長蛇の列ができる。
「なんか違う、私の知っている富士ロックとイメージが違う……」
並んでいる人たちがみんなオタクだし、私もきっと腐女子だと思われている。
《誰かアニソンでも歌うのかな?》
否が応でも疑ってしまう、ロックにしては漂う空気がむさ苦しい。
「人種が何億ターブも違うって感じ。ひょっとしてオタクの祭典夏コミと入れ替わっちゃったって感じ?」
と、そこに現れる恋敵。
『いちばーん!いちばーん?』
青い髪の巫女!
「誰?」
異彩を放つ鼻つまみ者、箒を持って掃除を放棄、送辞を待つ死人、自認する希有な偉才。
受けなのか。攻めなのか。
心に百合を持つその女、名前を神崎るれろと言う。
『宜しくね!』
言うなり、私は唇を奪われた。
【第4話 “足し算の効用” に続く!】
《富士ロック・フェスティバル!日本最大級の音楽の祭典!オアシス・ビョーク・レディオヘッドが夢の競演!宿泊プランで気分はヒッピーじゃ~ん!》
こんなにノリノリの一番は見たことがない。何処からかチラシを貰ってきて、大はしゃぎしている。
《三咲も来るだろ?な?》
正直、ライウ゛で熱狂する明星一番の姿が想像できなかった。まあいい。
意外な組み合わせからどんな化学反応が生まれるのか楽しみでもある。
「サマソニじゃなくて富士ロックなんだ、ウッドストックみたいにグルーウ゛ィーになりたいんだ」
音楽に興味があるというより、その文化に身を浸したいらしい。
《それに、“奴”も来るとも思うしな》
負の感情を溜め込んだ悪玉、明星一番の真のネメシス、私たちの永遠の敵、未来を蝕む最恐の害虫。
「どうしてそう思うの?」
“負”ロジック
★
富士ロック、前日。
【深夜特急】
ガタンゴトン、と電車に揺られて寝呆け眼で目を覚ます。知らないオジサンの膝を枕にして眠っていた!
「ア!チョッ!すみません!」
『い…いいんだよ』
向かいの席でクスクス笑う明星一番。
彼に触れることができないのは承知しているけど、こんな状況を黙認するなんて信じられない!
「この…」
悪口を言おうとしたけれど浮かばない。
でも酷くムカついたので膨れっ面して中指を立ててやった。
《ごめん》
素直な一面、これが一番憎めない。
【同刻、夜のコンサート会場】
白い化け猫が仮設ステージのパイプを伝って器用に歩く。
「まぁー、ニャンコちゃん!ここで何してるの?ゴロゴロゴロ……」
イベントスタッフの女性が猫を撫でる。途端に痺れたように痙攣して、冷たい表情で背筋を伸ばした。
〈まったく、人間って奴は!毛のない肌!二足歩行!いつまで経っても慣れないにゃ~〉
『それは人間を忌み嫌っているという意味か?はたまたお前が、進化というものの真価を解せぬ大バカ者ということか?』
暗闇から顔を出すベーシストは告げる。
『難しい表現を使い過ぎた、何、ただの言葉遊びさ』
猫は身を翻してソッポを向いた。
〈ん~!もぅ!イライラするにゃ~!〉
1人で鉄筋の前でツメを磨ぎはじめる。
本能は否定できない。
日和ミーシャ。
触った人間に魂を転移させる、猫。
『所詮猫は猫か、フン』
ベーシストの名前は、鋼アルゼ。
今をときめく鋼3兄弟の次男坊だ。
『弾いてやろうか?お前のために』
因みに、語尾にアルゼと付けるのは怒った時だけらしい。
関係ないが、髪の色は淡いピンク色である。
〈決めゼリフは敵に向かって言うと決まってるにゃ〉
フフフ、とアルゼは笑う。
『俺がお前の味方だと、誰が言った?』
おもむろにベースを振り上げると、横たわる白い猫に向かって打ち下ろす。
〈ヒィ…酷いにゃ!〉
白い毛が赤く染まった。
『これでお前は、元の身体には戻れない。……サァ、言うことを聞いて貰おうか』
移ろいやすいこの世の中で、1つだけ確かなことがある。
鋼3兄弟は、無慈悲と冷血の塊だ。
★
《がはは!》
と下品に明星一番が笑う。3回目にして絶対にキャラが崩れている。
でも、人のことは一緒に旅に出ない限り分からないとも言われているし。
《それじゃあ富士ロックで夜露死苦!みんなでワイワイ盛り上がろうゼィ!》
「一体誰と話していたの?」
おしとやかに、私は訊く。
すると一番は秘密めいた表情で、会えば分かると小声で答える。
《会えば分かる、俺と話せるお前なら、彼とも話が合うだろう》
謎かけ問答に厭きてきた私は拗ねて一番の足を踏む。
バチバチと電流が奔る。
《痛てて…》
頬をつねる。
短距離走者の顔みたいに、ブルブルと歪んで感電している。勿論、私も少し痛い。
《あ、わっ、わぁった、わぁった、分かったってば!》
「嘘つかない?謎かけしない?私に秘密を作らない?」
何度も小刻みに頷く一番。少し可愛い。
《つかない、かけない、作らない。約束する》
ゆ、許す!
「で、電話の先にいるのは、誰?」
私はもう、何を言われても驚かないだろう。
《猿渡わをん。中二病で死んだ友人さ》
きっとあのビリビリという電流であの世と通信しているんだ!
だが、これが意味する本当の“種明かし”は最終話にお預けだ。
「ふぅん、一番は、死んでる人とも話せるんだ」
そう、次の言葉。
《俺たちは皆、中二病だからな》
★
陽が昇る。
会場前に長蛇の列ができる。
「なんか違う、私の知っている富士ロックとイメージが違う……」
並んでいる人たちがみんなオタクだし、私もきっと腐女子だと思われている。
《誰かアニソンでも歌うのかな?》
否が応でも疑ってしまう、ロックにしては漂う空気がむさ苦しい。
「人種が何億ターブも違うって感じ。ひょっとしてオタクの祭典夏コミと入れ替わっちゃったって感じ?」
と、そこに現れる恋敵。
『いちばーん!いちばーん?』
青い髪の巫女!
「誰?」
異彩を放つ鼻つまみ者、箒を持って掃除を放棄、送辞を待つ死人、自認する希有な偉才。
受けなのか。攻めなのか。
心に百合を持つその女、名前を神崎るれろと言う。
『宜しくね!』
言うなり、私は唇を奪われた。
【第4話 “足し算の効用” に続く!】
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