森を抜けたらそこは異世界でした

日彩

文字の大きさ
上 下
94 / 94
Later story

14.理事長会議

しおりを挟む
理事会室では、定例となっている会議が開かれていた。
会議に参加しているメンバーの中に当然の事ながら、学長である十樹の姿もある。
学長という地位が疎ましい十樹であったが、それとは逆に「あの日」の事件から責任を問われる事のなかった理事長は、十樹の隣の席で議題を読み上げた。

「本日の議題は、今後の幾何学大学について」

理事長は予め用意されていたプリントを女性事務員の手に渡し、参加者に配らせた。

「……!」

十樹はそのプリントを見て目を丸くした。

「クローンの派遣制度の確立?」

書かれている内容は要約するとこうだった。

現在、育児研究部で育てられている子供に英才教育を施し、この国の法的期間に送り、その仕事に見合った報酬を得る事で幾何学大学の運営資金とする。
十樹が研究に没頭している間にそんな法案を通そうとしていたのだ。

「ちょっと待って下さい、理事長」
「何かね?白石学長」
「これではまるでブレインではありませんか」
「私はクローンの子供たちを有効活用しようとしているだけだよ。無駄に幾何学大学にいる必要もないだろう」

理事長は十樹の顔を見て、にやりと笑った。
気づいてみれば、会議室にいる理事会の参加者はその法案を最初から知っていたようだ。

裏側で、十樹だけを省いた会議が秘密裏に行われていたのだ。

ーーーやられた

「この中で、クローンの派遣制度に反対なのは学長、白石十樹君だけですぞ」

理事長は勝ち誇った笑みを浮かべて周囲を見回した。
すると十樹以外、その場にいたメンバーがそれぞれ片手を挙げて「賛成」と口を揃えた。
それを見て十樹は黙ってはいなかった。

「幾何学大学の法案は、学長の私が賛同しない限り、通過することはありません。クローンの子供たちは自由意思で人生を選択する権利があることは、既に決定事項です」

机上に手をついて、十樹は淡々と話す。
周囲のざわめく声など気にしてはいなかった。

「よって、理事長が作成したプリントは、各々の手で破棄してください。くれぐれも子供たちの目に触れるような真似はしないでいただきたい」
「く…、白石学長、それは横暴ではないかね。私はこの大学のために良かれと思ってーー

理事長は十樹を睨みつけた。

「横暴なのは理事長の方です。それが本当に良いことだと思うのなら、何故私に隠す必要があったのです。全ての決定権は私にあります」
「しかし……っ」

理事長は、最初から口裏を合わせることで、十樹が同じくそれを通すと思っていたらしい。

「とにかく、理事長の提案を却下いたします。以上」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...