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14.理事長会議
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理事会室では、定例となっている会議が開かれていた。
会議に参加しているメンバーの中に当然の事ながら、学長である十樹の姿もある。
学長という地位が疎ましい十樹であったが、それとは逆に「あの日」の事件から責任を問われる事のなかった理事長は、十樹の隣の席で議題を読み上げた。
「本日の議題は、今後の幾何学大学について」
理事長は予め用意されていたプリントを女性事務員の手に渡し、参加者に配らせた。
「……!」
十樹はそのプリントを見て目を丸くした。
「クローンの派遣制度の確立?」
書かれている内容は要約するとこうだった。
現在、育児研究部で育てられている子供に英才教育を施し、この国の法的期間に送り、その仕事に見合った報酬を得る事で幾何学大学の運営資金とする。
十樹が研究に没頭している間にそんな法案を通そうとしていたのだ。
「ちょっと待って下さい、理事長」
「何かね?白石学長」
「これではまるでブレインではありませんか」
「私はクローンの子供たちを有効活用しようとしているだけだよ。無駄に幾何学大学にいる必要もないだろう」
理事長は十樹の顔を見て、にやりと笑った。
気づいてみれば、会議室にいる理事会の参加者はその法案を最初から知っていたようだ。
裏側で、十樹だけを省いた会議が秘密裏に行われていたのだ。
ーーーやられた
「この中で、クローンの派遣制度に反対なのは学長、白石十樹君だけですぞ」
理事長は勝ち誇った笑みを浮かべて周囲を見回した。
すると十樹以外、その場にいたメンバーがそれぞれ片手を挙げて「賛成」と口を揃えた。
それを見て十樹は黙ってはいなかった。
「幾何学大学の法案は、学長の私が賛同しない限り、通過することはありません。クローンの子供たちは自由意思で人生を選択する権利があることは、既に決定事項です」
机上に手をついて、十樹は淡々と話す。
周囲のざわめく声など気にしてはいなかった。
「よって、理事長が作成したプリントは、各々の手で破棄してください。くれぐれも子供たちの目に触れるような真似はしないでいただきたい」
「く…、白石学長、それは横暴ではないかね。私はこの大学のために良かれと思ってーー
理事長は十樹を睨みつけた。
「横暴なのは理事長の方です。それが本当に良いことだと思うのなら、何故私に隠す必要があったのです。全ての決定権は私にあります」
「しかし……っ」
理事長は、最初から口裏を合わせることで、十樹が同じくそれを通すと思っていたらしい。
「とにかく、理事長の提案を却下いたします。以上」
会議に参加しているメンバーの中に当然の事ながら、学長である十樹の姿もある。
学長という地位が疎ましい十樹であったが、それとは逆に「あの日」の事件から責任を問われる事のなかった理事長は、十樹の隣の席で議題を読み上げた。
「本日の議題は、今後の幾何学大学について」
理事長は予め用意されていたプリントを女性事務員の手に渡し、参加者に配らせた。
「……!」
十樹はそのプリントを見て目を丸くした。
「クローンの派遣制度の確立?」
書かれている内容は要約するとこうだった。
現在、育児研究部で育てられている子供に英才教育を施し、この国の法的期間に送り、その仕事に見合った報酬を得る事で幾何学大学の運営資金とする。
十樹が研究に没頭している間にそんな法案を通そうとしていたのだ。
「ちょっと待って下さい、理事長」
「何かね?白石学長」
「これではまるでブレインではありませんか」
「私はクローンの子供たちを有効活用しようとしているだけだよ。無駄に幾何学大学にいる必要もないだろう」
理事長は十樹の顔を見て、にやりと笑った。
気づいてみれば、会議室にいる理事会の参加者はその法案を最初から知っていたようだ。
裏側で、十樹だけを省いた会議が秘密裏に行われていたのだ。
ーーーやられた
「この中で、クローンの派遣制度に反対なのは学長、白石十樹君だけですぞ」
理事長は勝ち誇った笑みを浮かべて周囲を見回した。
すると十樹以外、その場にいたメンバーがそれぞれ片手を挙げて「賛成」と口を揃えた。
それを見て十樹は黙ってはいなかった。
「幾何学大学の法案は、学長の私が賛同しない限り、通過することはありません。クローンの子供たちは自由意思で人生を選択する権利があることは、既に決定事項です」
机上に手をついて、十樹は淡々と話す。
周囲のざわめく声など気にしてはいなかった。
「よって、理事長が作成したプリントは、各々の手で破棄してください。くれぐれも子供たちの目に触れるような真似はしないでいただきたい」
「く…、白石学長、それは横暴ではないかね。私はこの大学のために良かれと思ってーー
理事長は十樹を睨みつけた。
「横暴なのは理事長の方です。それが本当に良いことだと思うのなら、何故私に隠す必要があったのです。全ての決定権は私にあります」
「しかし……っ」
理事長は、最初から口裏を合わせることで、十樹が同じくそれを通すと思っていたらしい。
「とにかく、理事長の提案を却下いたします。以上」
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