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後から増えた編
幼き日に2(2)
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瑞穂に桂樹が異論を唱えると、瑞穂は桂樹からぷいっと視線を反らせた。
「桂樹、いいじゃないか。そうしようよ。ここは、両親や小さい頃一緒だった友人もいないんだ。皆、僕達を見分けることなんてしないよ」
「そーよ! 年長者の言う事をよく聞きなさい」
「何だよ十樹、お前この女の味方かよ」
どうやら口の悪い方が弟の桂樹だと言う事に瑞穂は気付き、ようやくほっとした。
性格まで同じだったら、瑞穂は発狂してしまう。
「別に僕は、誰の味方でもないよ」
「もういい! オレは学食を見学しに行く。ついて来るなよっ!」
そう言うと桂樹は、十樹と瑞穂を残して学食を探しに走って行ってしまった。
恐らく桂樹は、見学のついでに何かおいしいものでも食べてくるのだろう。
「お腹が減ってるなら素直に言えばいいのに……」
「さっき桂樹、お腹の音が鳴ってたからね」
☆
「おっ! 二手に別れた」
良の仕掛けた発信機の光が、モニターに映し出されていた。
天才的な新入生が、何に興味を持ち、どの科を目指すのか。
良は、それが気になっていた。
勿論、それは遊び半分であったのだが。
「昇、お前こっちの光を追ってくれ。オレはここで監視してるからさ」
「オレは良の使い走りか? まあ、オレもあの新入生は気になるけどね」
そう言うと、昇は良から手渡されたハンディコンピューターを手に、走り出した光を追いかける為、部屋を出た。
「ガキは動くの早えーな」
全く知らない研究所の中を、突っ走っている光の持ち主は、脇道をすいすいと縫って、目的地に向かっている様だった。
(――こいつ!)
この光の持ち主は、来たばかりの大学の施設や、入り組んだ道全てを熟知しているのではないか、と昇は思った。
昇が通ったことのない道まで容易に走り抜けている。
(流石、IQ170――!)
光を追いかけて走っていた昇は、はあはあと息を切らせて壁に手をついた。
昇には通ることの出来ない細い通路や、看板に頭をぶつけながら追いかけた為、白衣は汚れ、その姿はとても研究員には見えない。
(あれ?)
昇が息を整えていると、コンピューター上に映し出された光も同時に動かなくなった。
(目的地に着いたのか?)
昇は動かなくなった光を、慎重に確かめに行った。
しかし、そこは。
(食堂……?)
「おばちゃーん! おかわりくれよ!」
IQ170は、どこの科に行くとか、何に興味があるのか、とか、そういう問題ではなかった。
まだ、昼食の時間には早すぎる食堂で、おかずをずらりとテーブルに並べて、ご飯をおかわりしている双子の一人の姿が、そこにはあった。
昇は、がっくりと肩を落す。
「よく食べるねぇ、幾何学大学病院の子だろ? 病院の食事は、そんなに足りなかったのかい?」
調理師のおばさんが少年に声をかけた。
「違う! オレは病院の子じゃなくて、ここに入学したんだよ」
「何を冗談言ってんだい。こんな小さな子が大学に入れる訳ないだろ?」
調理師のおばさんは、少年の言葉を信じることもなく、あっはっはと愉快に笑った。
その間も少年は、ご飯とおかずを勢い良く口の中にかっ込んでいる。
「ふぃてろ! オレはこの大学にふぇきしを残ひてやるからな!」
口に食べ物を入れたまま喋っている為、昇や調理師のおばさんは、少年が何を言っているのか知る機会はなかった。
☆
「オレには、あのIQ170が凄い奴には見えなかった」
打ちのめされたボクサーの様な表情で、部屋に帰った来た昇は良に言った。
「いや、確かに凄い所もあった。走るスピードとか、昼間に米を十杯も食べるあの食欲とか……」
「食欲?」
良は、何か見当はずれの昇の言葉を聞いて、「じゃあ、オレも見に行こう」と軽く遊びに行くような感覚で部屋を出た。
「オレはもう一人のIQ170にしようか」
どちらを追いかけても顔は同じだ。
昇は、凄い奴等ではないと言った。
それほど期待は持てないな。
良はそう思いながら、もう一人のIQ170をハンディコンピューターを見ながら、居所を探った。見ると、もう一人は、すぐ近くの図書館で止まっている。
少し歩いて、パスカードで図書室の扉を開けた。
「桂樹、いいじゃないか。そうしようよ。ここは、両親や小さい頃一緒だった友人もいないんだ。皆、僕達を見分けることなんてしないよ」
「そーよ! 年長者の言う事をよく聞きなさい」
「何だよ十樹、お前この女の味方かよ」
どうやら口の悪い方が弟の桂樹だと言う事に瑞穂は気付き、ようやくほっとした。
性格まで同じだったら、瑞穂は発狂してしまう。
「別に僕は、誰の味方でもないよ」
「もういい! オレは学食を見学しに行く。ついて来るなよっ!」
そう言うと桂樹は、十樹と瑞穂を残して学食を探しに走って行ってしまった。
恐らく桂樹は、見学のついでに何かおいしいものでも食べてくるのだろう。
「お腹が減ってるなら素直に言えばいいのに……」
「さっき桂樹、お腹の音が鳴ってたからね」
☆
「おっ! 二手に別れた」
良の仕掛けた発信機の光が、モニターに映し出されていた。
天才的な新入生が、何に興味を持ち、どの科を目指すのか。
良は、それが気になっていた。
勿論、それは遊び半分であったのだが。
「昇、お前こっちの光を追ってくれ。オレはここで監視してるからさ」
「オレは良の使い走りか? まあ、オレもあの新入生は気になるけどね」
そう言うと、昇は良から手渡されたハンディコンピューターを手に、走り出した光を追いかける為、部屋を出た。
「ガキは動くの早えーな」
全く知らない研究所の中を、突っ走っている光の持ち主は、脇道をすいすいと縫って、目的地に向かっている様だった。
(――こいつ!)
この光の持ち主は、来たばかりの大学の施設や、入り組んだ道全てを熟知しているのではないか、と昇は思った。
昇が通ったことのない道まで容易に走り抜けている。
(流石、IQ170――!)
光を追いかけて走っていた昇は、はあはあと息を切らせて壁に手をついた。
昇には通ることの出来ない細い通路や、看板に頭をぶつけながら追いかけた為、白衣は汚れ、その姿はとても研究員には見えない。
(あれ?)
昇が息を整えていると、コンピューター上に映し出された光も同時に動かなくなった。
(目的地に着いたのか?)
昇は動かなくなった光を、慎重に確かめに行った。
しかし、そこは。
(食堂……?)
「おばちゃーん! おかわりくれよ!」
IQ170は、どこの科に行くとか、何に興味があるのか、とか、そういう問題ではなかった。
まだ、昼食の時間には早すぎる食堂で、おかずをずらりとテーブルに並べて、ご飯をおかわりしている双子の一人の姿が、そこにはあった。
昇は、がっくりと肩を落す。
「よく食べるねぇ、幾何学大学病院の子だろ? 病院の食事は、そんなに足りなかったのかい?」
調理師のおばさんが少年に声をかけた。
「違う! オレは病院の子じゃなくて、ここに入学したんだよ」
「何を冗談言ってんだい。こんな小さな子が大学に入れる訳ないだろ?」
調理師のおばさんは、少年の言葉を信じることもなく、あっはっはと愉快に笑った。
その間も少年は、ご飯とおかずを勢い良く口の中にかっ込んでいる。
「ふぃてろ! オレはこの大学にふぇきしを残ひてやるからな!」
口に食べ物を入れたまま喋っている為、昇や調理師のおばさんは、少年が何を言っているのか知る機会はなかった。
☆
「オレには、あのIQ170が凄い奴には見えなかった」
打ちのめされたボクサーの様な表情で、部屋に帰った来た昇は良に言った。
「いや、確かに凄い所もあった。走るスピードとか、昼間に米を十杯も食べるあの食欲とか……」
「食欲?」
良は、何か見当はずれの昇の言葉を聞いて、「じゃあ、オレも見に行こう」と軽く遊びに行くような感覚で部屋を出た。
「オレはもう一人のIQ170にしようか」
どちらを追いかけても顔は同じだ。
昇は、凄い奴等ではないと言った。
それほど期待は持てないな。
良はそう思いながら、もう一人のIQ170をハンディコンピューターを見ながら、居所を探った。見ると、もう一人は、すぐ近くの図書館で止まっている。
少し歩いて、パスカードで図書室の扉を開けた。
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