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第五章
1.叶う夢、叶わない夢
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「白石十樹さん、宅急便です」
シロクマ宅急便が宇宙科学部へ来たのは、事件から一週間後だった。
十樹が中身を見てみると、中に入っていたのは携帯電話だった。
見たことのあるデザインに、十樹は桂樹を呼んだ。
「桂樹、こっちに来てくれ」
「何だ、十樹」
朝からゴキブリの世話をしていた桂樹は、十樹の持つ携帯を見て「ああ!」と嬉しそうな声を出した。
「オレの携帯じゃないか。暗殺屋の奴等、案外律儀なトコあるなあ」
あの時、リーダーの千葉とか言う奴に奪われてしまったのものだ。
しかし、奪われたからこそ、十樹と千葉の交渉が可能になり、亜樹と桂樹、二人の命が助かったのではあるが……。
「送り主は、千葉祥、日付指定してあるな。何でだ?」
「日付指定の意味は理解出来ないが、色々落ち着いてきてから送って来たんじゃないか?」
「しっかし、本名が書いてあるってどうなんだ? 随分、堂々としている暗殺屋だな」
桂樹は十樹から携帯を受け取ると、パスワードを打ち込み起動させて、どこにも故障がない事を確認した。
「よっしゃ、オレの携帯ちゃん♪」
送ってくるとは思っていなかった桂樹は、携帯に軽くキスをすると自分の懐に収めた。
その時、宇宙を構成するために必要な材料を買いに行っていた橘が帰って来た。
「白石先生、大変です!」
研究室に入って来るなり、橘はそう言って二人を驚かせた。
橘はいかにも走って来たといわんばかりに息を切らせている。
「どーしたんだ? 橘」
「学長代理が先日、銃殺されたことはご存知ですか?」
「ああ、ニュースで見たな」
桂樹は何となく聞いていたニュースを思い出す。
先日の面会室で、学長代理が大事な客だとSPに告げ、その場からSPを遠ざけたことで起こった殺人事件。
「大事な客」は身分を証明するものを一切持たず、未だ氏名は公表されていない。
全容解明されないまま、このまま忘れ去られるだろう事件だ。
「それがどうかしたのか?」
十樹は自分達との関わりのない事件で、何故橘が慌てているのかが分からなかった。
「この幾何学大学では、今、学長代理がいません」
「それで?」
「白石十樹先生が学長代理の候補として、名前が挙がっているんです!」
「はぁ?」
桂樹は目を丸くして、橘の報告を聞いた。
「何でオレじゃなくて、十樹なんだよ」
「問題はそこにあるんじゃない」
十樹は近くにあった下敷きでぺしっと桂樹を叩いた。
「私は、まだ若いし学長代理なんて柄じゃない。一体、誰が候補に入れたんだ」
「――で、その他にも候補として名前が挙がった人物がいるんですが……」
橘は顔を伏せた。
「誰だ?」
「桂樹、橘君のこの態度を見れば、言わなくても分かるじゃないか」
「神崎か」
「その通りです」
恐らく、先日の軍事用クローンの制作者として、上層部から目にとまったのであろう。
十樹に関しては、この前のテレビ中継の際か、それ以前にクローンを製造しているという噂から、この話が持ち上がっただろう事が推測される。
「私は申し出を辞退させてもらうよ」
十樹はそう言うと、研究室から出て行こうとする。
それを桂樹は言葉で引き止めた。
「ちょっと待てよ! お前が辞退して、もしも選挙の結果、神崎が学長代理を務めることになったら、この研究室だって、このままじゃいられなくなる可能性が……」
「何を心配している? もうここは宇宙科学部の研究室じゃないか。ここにある宇宙は誰にも動かせないし、壊せない」
「オレのゴキブリはどうなる!?」
「――その時は処分しろ」
桂樹は十樹の非情とも思われる一言に、よよよっと泣き崩れた。
桂樹は「カロリーヌが、メリッサが……」とゴキブリにつけた名前を呆然とした様子で呟いていた。
☆
研究室を出た十樹は、理事長のいる執務室へ向かっていた。
選挙が始まるのであれば、理事長は理事長室ではなく会議室にいる可能性が高い。
それはそうと――あの十億円で雇った暗殺屋はどうしたのだろう。未だ亜樹の暗殺を企んだ依頼人を私の元へ送ってこないが……
十樹はふと足を止めて、今来た道を振り返った。
――まさか……
いや、でもそう考えると全てが合致する。
十樹は執務室に向かうのをやめて、別の道を歩き始めた。
☆
「学長代理殺人事件」
そう名づけられた一週間前の事件を、大学警察はまだ調べていた。
十樹がその現場につくと、「お騒がせしております」と大学警察は恭しく頭を下げた。
室内を覗くと、数人のSP達と検察官が何やら話をしていた。
「学長代理は、君達SPに何か隠し事をしていた――そう言うことか?」
「はい……学長代理は、私達に部屋を出て行くように指示しました」
「その間、何か言い争いをしていた形跡は……」
「言い争いといいますか、中からガタガタと椅子を引きずるような音がしたので、様子を見ると男が銃を学長代理に向けていました」
検察官はSP達が語るそれらの証言を、一つ一つメモを取り、言った。
「君達の証言によると……ふむ、「白石桂樹」と言う名が出て来たんだな?」
「はい。確かに。白石桂樹の前に引きずり出す……とか何とか」
十樹はそれを聞いて、はっとした。
やはり、あの亜樹の誘拐事件は――故学長代理が絡んでいる。
「どうやら、白石桂樹の事情聴取が必要なようだな……おや、君は」
検察官は十樹を見て、SPに周りを囲ませた。
「白石桂樹です」
十樹は胸ポケットの名札を引きちぎると、白衣の中に隠した。
亜樹と桂樹が誘拐された際、十樹は桂樹のふりをし、桂樹は十樹のふりをした。
もしあの時、依頼人を引き渡せと十樹が発言することがなかったら、亜樹と桂樹は暗殺屋に抹殺され、この世にいないはずだ。
亜樹と桂樹が生き残る代わりに、暗殺屋の一人と学長代理が共倒れすることになったのだ。
――すなわち、亜樹の誘拐、殺害計画を立てたのは、故学長代理と言う事になる
桂樹に罪を背負わせるつもりはない。
全ては自分の復讐心が招いた結果であるように思えた。
「白石桂樹に間違いないな。君が何か知っているのなら、話してくれないか?」
「お話させて頂きます」
十樹はSP達に囲まれながら、大学警察の取調室へ誘導された。
その際、携帯で桂樹に連絡した。
「桂樹だ。すまないが、急用が出来て、選挙辞退の報告が出来そうにない。私の代わりに手続きをしておいてくれ」
「はあ!? 十樹が何でオレの名前――あ、また何かあったんだろ。そうだろ……」
十樹は桂樹が全てを言い終えない内に、携帯を切った。
「結構、双子も便利なものだな」
そう呟き、SPに誘導されて、取調室に入った。
☆
滅多に人を頼ることのない十樹が、桂樹に頼みごとをした。
その事実に、桂樹は浮かれていた。
「選挙辞退ね。何かちょっと勿体ないなぁ」
「何が勿体ないの?」
桂樹が独り言を言うと、斜め下横からカリムが訊いて来た。
「わっ! びっくりしたぞ、オレは……いつの間に帰って来たんだ、お前等」
「ただいま」
カリムとリルが揃って言うと、桂樹に何が勿体ないのか、その理由を再度訊いて来た。
「今度、幾何学大学の学長代理になるための選挙があるんだよ。それで十樹が候補に選ばれて――」
「学長代理って、偉いの?」
「十樹が偉い人になるの?」
リルがきらきらした瞳で桂樹に詰め寄る。
「偉い人になったら、リル達、光虫にならずに村に帰れるんだよね!」
「それは気が早いぞ、十樹はその偉い人になるのを嫌がっている……辞退するってさ」
「ええ――――っ! それじゃ僕達、村に帰れないじゃないか!」
二人は大声を上げると桂樹に言った。
「何とかしてよ! 桂樹」
「何とかって言われてもなぁ……」
桂樹はぼりぼりと頭をかく。
「十樹はしばらくいなくなるそうだから、後を任されているんだ。悪いが……」
「いないなら、桂樹が偉い人になれば?」
カリムは突拍子もないことを桂樹に提案する。
リルは「それいいっ!」とカリムに向かい小さな手で拍手をした。
「お前等なぁ」
ふざけているならとにかく、真面目にそんな事を言っているのだから尚更タチが悪い。
桂樹は十樹にカリムとリルの帰還を知らせようとしたが、携帯の電源を切っているのか、繋がらなかった。
☆
「千葉はいつ帰ってくるの?」
のえるは暗殺メンバーの一人の袖を引っ張って、いつになっても帰って来ない千葉を気にしていた。
千葉が学長代理を殺害してその日、「青山羊荘」にあるデスクの上に、遺書らしきものがあるのを発見した。
そこに書いてあったのは、白石桂樹から振り込まれた十億円の使い道と、皆への感謝の言葉だった。
手紙のラストには「のえるを頼む」の一言で結ばれている。
「のえる。千葉は帰ってこられないかもしれない」
施設のテレビのニュースで、身元不明の男の特徴等を話していたが、千葉が出て行った時の服装と、まるで同じだった。
「何で? 何で千葉は帰って来ないの?」
のえるは両目からぽろぽろと大粒の涙を流した。
幼いながらも、千葉の死を理解しているように思えた。
「のえる。千葉がいなくなっても、俺達がのえるを守ってやる――だから泣くな」
腰をかがめると、ぎゅっと小さな手が、メンバーの一人の背にまわされ、のえるはしがみつく。
すると暗殺屋の一人から、すすり泣く声が聞こえて来た。
千葉はもう帰って来ないのである。
シロクマ宅急便が宇宙科学部へ来たのは、事件から一週間後だった。
十樹が中身を見てみると、中に入っていたのは携帯電話だった。
見たことのあるデザインに、十樹は桂樹を呼んだ。
「桂樹、こっちに来てくれ」
「何だ、十樹」
朝からゴキブリの世話をしていた桂樹は、十樹の持つ携帯を見て「ああ!」と嬉しそうな声を出した。
「オレの携帯じゃないか。暗殺屋の奴等、案外律儀なトコあるなあ」
あの時、リーダーの千葉とか言う奴に奪われてしまったのものだ。
しかし、奪われたからこそ、十樹と千葉の交渉が可能になり、亜樹と桂樹、二人の命が助かったのではあるが……。
「送り主は、千葉祥、日付指定してあるな。何でだ?」
「日付指定の意味は理解出来ないが、色々落ち着いてきてから送って来たんじゃないか?」
「しっかし、本名が書いてあるってどうなんだ? 随分、堂々としている暗殺屋だな」
桂樹は十樹から携帯を受け取ると、パスワードを打ち込み起動させて、どこにも故障がない事を確認した。
「よっしゃ、オレの携帯ちゃん♪」
送ってくるとは思っていなかった桂樹は、携帯に軽くキスをすると自分の懐に収めた。
その時、宇宙を構成するために必要な材料を買いに行っていた橘が帰って来た。
「白石先生、大変です!」
研究室に入って来るなり、橘はそう言って二人を驚かせた。
橘はいかにも走って来たといわんばかりに息を切らせている。
「どーしたんだ? 橘」
「学長代理が先日、銃殺されたことはご存知ですか?」
「ああ、ニュースで見たな」
桂樹は何となく聞いていたニュースを思い出す。
先日の面会室で、学長代理が大事な客だとSPに告げ、その場からSPを遠ざけたことで起こった殺人事件。
「大事な客」は身分を証明するものを一切持たず、未だ氏名は公表されていない。
全容解明されないまま、このまま忘れ去られるだろう事件だ。
「それがどうかしたのか?」
十樹は自分達との関わりのない事件で、何故橘が慌てているのかが分からなかった。
「この幾何学大学では、今、学長代理がいません」
「それで?」
「白石十樹先生が学長代理の候補として、名前が挙がっているんです!」
「はぁ?」
桂樹は目を丸くして、橘の報告を聞いた。
「何でオレじゃなくて、十樹なんだよ」
「問題はそこにあるんじゃない」
十樹は近くにあった下敷きでぺしっと桂樹を叩いた。
「私は、まだ若いし学長代理なんて柄じゃない。一体、誰が候補に入れたんだ」
「――で、その他にも候補として名前が挙がった人物がいるんですが……」
橘は顔を伏せた。
「誰だ?」
「桂樹、橘君のこの態度を見れば、言わなくても分かるじゃないか」
「神崎か」
「その通りです」
恐らく、先日の軍事用クローンの制作者として、上層部から目にとまったのであろう。
十樹に関しては、この前のテレビ中継の際か、それ以前にクローンを製造しているという噂から、この話が持ち上がっただろう事が推測される。
「私は申し出を辞退させてもらうよ」
十樹はそう言うと、研究室から出て行こうとする。
それを桂樹は言葉で引き止めた。
「ちょっと待てよ! お前が辞退して、もしも選挙の結果、神崎が学長代理を務めることになったら、この研究室だって、このままじゃいられなくなる可能性が……」
「何を心配している? もうここは宇宙科学部の研究室じゃないか。ここにある宇宙は誰にも動かせないし、壊せない」
「オレのゴキブリはどうなる!?」
「――その時は処分しろ」
桂樹は十樹の非情とも思われる一言に、よよよっと泣き崩れた。
桂樹は「カロリーヌが、メリッサが……」とゴキブリにつけた名前を呆然とした様子で呟いていた。
☆
研究室を出た十樹は、理事長のいる執務室へ向かっていた。
選挙が始まるのであれば、理事長は理事長室ではなく会議室にいる可能性が高い。
それはそうと――あの十億円で雇った暗殺屋はどうしたのだろう。未だ亜樹の暗殺を企んだ依頼人を私の元へ送ってこないが……
十樹はふと足を止めて、今来た道を振り返った。
――まさか……
いや、でもそう考えると全てが合致する。
十樹は執務室に向かうのをやめて、別の道を歩き始めた。
☆
「学長代理殺人事件」
そう名づけられた一週間前の事件を、大学警察はまだ調べていた。
十樹がその現場につくと、「お騒がせしております」と大学警察は恭しく頭を下げた。
室内を覗くと、数人のSP達と検察官が何やら話をしていた。
「学長代理は、君達SPに何か隠し事をしていた――そう言うことか?」
「はい……学長代理は、私達に部屋を出て行くように指示しました」
「その間、何か言い争いをしていた形跡は……」
「言い争いといいますか、中からガタガタと椅子を引きずるような音がしたので、様子を見ると男が銃を学長代理に向けていました」
検察官はSP達が語るそれらの証言を、一つ一つメモを取り、言った。
「君達の証言によると……ふむ、「白石桂樹」と言う名が出て来たんだな?」
「はい。確かに。白石桂樹の前に引きずり出す……とか何とか」
十樹はそれを聞いて、はっとした。
やはり、あの亜樹の誘拐事件は――故学長代理が絡んでいる。
「どうやら、白石桂樹の事情聴取が必要なようだな……おや、君は」
検察官は十樹を見て、SPに周りを囲ませた。
「白石桂樹です」
十樹は胸ポケットの名札を引きちぎると、白衣の中に隠した。
亜樹と桂樹が誘拐された際、十樹は桂樹のふりをし、桂樹は十樹のふりをした。
もしあの時、依頼人を引き渡せと十樹が発言することがなかったら、亜樹と桂樹は暗殺屋に抹殺され、この世にいないはずだ。
亜樹と桂樹が生き残る代わりに、暗殺屋の一人と学長代理が共倒れすることになったのだ。
――すなわち、亜樹の誘拐、殺害計画を立てたのは、故学長代理と言う事になる
桂樹に罪を背負わせるつもりはない。
全ては自分の復讐心が招いた結果であるように思えた。
「白石桂樹に間違いないな。君が何か知っているのなら、話してくれないか?」
「お話させて頂きます」
十樹はSP達に囲まれながら、大学警察の取調室へ誘導された。
その際、携帯で桂樹に連絡した。
「桂樹だ。すまないが、急用が出来て、選挙辞退の報告が出来そうにない。私の代わりに手続きをしておいてくれ」
「はあ!? 十樹が何でオレの名前――あ、また何かあったんだろ。そうだろ……」
十樹は桂樹が全てを言い終えない内に、携帯を切った。
「結構、双子も便利なものだな」
そう呟き、SPに誘導されて、取調室に入った。
☆
滅多に人を頼ることのない十樹が、桂樹に頼みごとをした。
その事実に、桂樹は浮かれていた。
「選挙辞退ね。何かちょっと勿体ないなぁ」
「何が勿体ないの?」
桂樹が独り言を言うと、斜め下横からカリムが訊いて来た。
「わっ! びっくりしたぞ、オレは……いつの間に帰って来たんだ、お前等」
「ただいま」
カリムとリルが揃って言うと、桂樹に何が勿体ないのか、その理由を再度訊いて来た。
「今度、幾何学大学の学長代理になるための選挙があるんだよ。それで十樹が候補に選ばれて――」
「学長代理って、偉いの?」
「十樹が偉い人になるの?」
リルがきらきらした瞳で桂樹に詰め寄る。
「偉い人になったら、リル達、光虫にならずに村に帰れるんだよね!」
「それは気が早いぞ、十樹はその偉い人になるのを嫌がっている……辞退するってさ」
「ええ――――っ! それじゃ僕達、村に帰れないじゃないか!」
二人は大声を上げると桂樹に言った。
「何とかしてよ! 桂樹」
「何とかって言われてもなぁ……」
桂樹はぼりぼりと頭をかく。
「十樹はしばらくいなくなるそうだから、後を任されているんだ。悪いが……」
「いないなら、桂樹が偉い人になれば?」
カリムは突拍子もないことを桂樹に提案する。
リルは「それいいっ!」とカリムに向かい小さな手で拍手をした。
「お前等なぁ」
ふざけているならとにかく、真面目にそんな事を言っているのだから尚更タチが悪い。
桂樹は十樹にカリムとリルの帰還を知らせようとしたが、携帯の電源を切っているのか、繋がらなかった。
☆
「千葉はいつ帰ってくるの?」
のえるは暗殺メンバーの一人の袖を引っ張って、いつになっても帰って来ない千葉を気にしていた。
千葉が学長代理を殺害してその日、「青山羊荘」にあるデスクの上に、遺書らしきものがあるのを発見した。
そこに書いてあったのは、白石桂樹から振り込まれた十億円の使い道と、皆への感謝の言葉だった。
手紙のラストには「のえるを頼む」の一言で結ばれている。
「のえる。千葉は帰ってこられないかもしれない」
施設のテレビのニュースで、身元不明の男の特徴等を話していたが、千葉が出て行った時の服装と、まるで同じだった。
「何で? 何で千葉は帰って来ないの?」
のえるは両目からぽろぽろと大粒の涙を流した。
幼いながらも、千葉の死を理解しているように思えた。
「のえる。千葉がいなくなっても、俺達がのえるを守ってやる――だから泣くな」
腰をかがめると、ぎゅっと小さな手が、メンバーの一人の背にまわされ、のえるはしがみつく。
すると暗殺屋の一人から、すすり泣く声が聞こえて来た。
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