森を抜けたらそこは異世界でした

日彩

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第二章

9.罪なき手

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「じゃんけんぽい、あいこでしょー」

  桂樹とカリムとゼンの「じゃんけん大会」は続いていた。
  桂樹に勝とうと必死になるが、なかなか勝敗がつかない。
  それと言うのも、カリムとゼンの背後には鏡があり、動体視力の良い桂樹には、全て分かってしまうからであったが……。

 「ちっくしょう、全然勝てねー」
 「何であいこばかりなんだ?」
 「♪」

  カリムとゼンは、床にぺとりと座り込んでしまった。

 「ふわはははは! オレに勝つには百年早いな」

  桂樹が不敵に笑うと、カリムがきっ、と睨みつけてきた。

 「まぁまぁ、カリム君。十樹先生がきっと見つけて帰ってきますよ。僕も捜しますから」
 「ちょっと待て。橘はこの研究室にある盗聴器を探して貰おうか」

  未だ、桂樹は橘が神崎と接触している可能性があると考えている。その疑いが晴れない限り、橘を野放しに出来ないのであった。

 「じゃあリルは」
 「オレが捜しに行く。お前らはここで待ってろ……橘は、こいつらの面倒を見てやってくれ」

  橘の肩をぽんっと叩くと、手首につけていた盗聴センサーのランプが瞬いた。

 「あ? 今」

――何か、光ったような。

 「二人の持ってる盗聴センサーは同じヤツ?」
 「ああ、そうだが?」
 「橘の持ってる盗聴センサー、ずっと赤いランプがついてるんだけど……」

  カリムは桂樹と橘の手首を合わせ、見比べた。

 「ほらここ」
 「何でだ?」
 「本当ですね……気づきませんでした」

  桂樹は自分の身につけていた盗聴センサーを橘に持たせると、やはり赤いランプが点灯した。

 「橘! お前やっぱりスパイだったのか!」
 「ええ! 何故僕が!?」
 「着てる服を全部脱げ! パンツ一枚もだ!」
 「えぇぇ!?」

――そして、五分後、すっかり身包みをはがされた橘がいた。

 「ひどいですよ、ひどいですよ。何故僕が……」

  しくしく泣いている橘の手首を見ると、先程と同じように、盗聴センサーが赤く灯っている。

  桂樹は橘が脱いだ服にセンサーをかざすが、何の反応もなかった。

 「何で?」

  これでは、まるで橘自身が盗聴器であるかのようだ。
  ついでに言うと、オレが変態のようだ。
  桂樹は橘に服を渡すと「考えろ考えろ」と頭をフル回転させた。

                ☆

 神崎は用を済ませて、自身の生体医学部の研究室に戻り、お茶を飲んでいた。
  丁度その時、身包みをはがされた橘の声が聞こえて来て、神崎は思わずむせてしまった。

  吹いたお茶をふきんで拭いている間、神崎は大笑いし、周囲の者は研究室のトップに何かあったのかと心配して、その様子を見ていた。

 「神崎さん、携帯が鳴っていますよ」

  神崎の助手の一人が、デスクの上に置いてあった携帯を手渡した。

 「あぁ、すまない……はい、神崎です」

  着信ナンバーは父だった。私用に違いないと思い、神崎は研究室から出た。

 「何の御用ですか? 父さん」
 「話がある」
 「そりゃなければ、電話なんてかけて来ないでしょう」

  神崎の父、保は上層部からの指示を息子に伝えた。

 「実はな、今度、上層部の方で軍事用クローンを造って、四季との紛争に備えようとする動きがあるんだ」
 「はあ」
 「それで、この国では初のクローンを誕生させる為、父さんは計画を練らなくてはならない立場にたった――そこで、あの二人の名前があがった。

  神崎亨は、あの二人という人物について、すぐに察しがついた。

 「お前は聞くところによると、白石兄弟と仲がいいらしいじゃないか」
 「…………確かに、仲はいいですよ」

  言葉に語弊があるようだが、神崎にとってはどうでもいいことだった。
  父、保は、一通りの用件を息子に伝えた。

 「軍事用クローンね……」

  かねてから、タブーとされていた、人のクローンが解禁になったと言う事か。
  白石兄弟が、妹のクローンを造っていることは明白だ。そこまで噂が広がっていながら、上層部が何の手も打たない事を疑問に思っていたが――

 倫理委員会に突き出しても、果たしてまともな判決が下るかどうか。
  神崎の父には、大した実績がないことは知っていたが、上層部の言いなりになっている現状に、父は満足していないことは確かだろう。

 「じゃあ、何ですか。今更、白石兄弟と手を組んで、軍事用クローンの製造でもしろと。そう、お考えですか?」
 「お前には、苦労をかけると思うが……」
 「分かりました。僕は僕なりの考えで、何とかさせて貰います――例の盗聴器は、素晴らしい出来でしたしね」

  そう言って、神崎は携帯を切った。

 「神崎先生!」

  噂をすれば影、と言わんばかりに、その時廊下から走りよってきたのは、白石十樹だった。

 「白石……珍しいな。君の方から、僕を訪ねてくるのは」
 「リルを……いや、小さな女の子を知りませんか?」

  余程、急いで来たのだろう。息を切らせて十樹は言った。

 「知らないな」
 「嘘をついていませんか?先程、食堂へ行って話を訊いてきました」
 「知らないと言っている――それより僕は、君が知っていることについて、訊きたいことがある」
 「何のことでしょう?あなたに何か訊かれるような心当たりはありませんが」

  神崎は思った。お互いに知らぬ存ぜぬを貫いてしまえば、一歩も先へは進めないだろう。

 「取引をしないか?」

  しばしの沈黙の後、口火をきったのは神崎のほうだった。

 「君の造っている亜樹ちゃんのことだが、倫理委員会に訴える用意は出来ているんだが」
 「――何のことですか? 私は今、小さな女の子を捜しているんです。失礼」

  白石十樹はクローンの製造について、倫理委員会が動かない可能性があることを、未だ知らない。それを利用し、取引材料に出来れば、と神崎は思ったのだが、「なかなか、思い通りにならないな」と舌打ちした。

                  
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