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Later story
10.カリムの決断
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半年間も消息不明になっていた子供たちの現実が、皆を不安にさせた。
「また帰ってこれなくなるのでは……」「あの扉を壊してしまえば……」
そんな声が聞こえてくる。
カリムは、ぐっと拳を握って、皆に言った。
「幾何学大学は、規則を守って行動すれば何の問題もありません。大学内は学長が変わってからは十分安全な状態です。それに僕は毎日のように幾何学大学へ行っています」
「カリム!」
カリムの父と母は、息子がそれ以上語らない様、制止した。
幾何学大学に反感を持っている一部の村人を刺激しない様に、言葉を選ぶ必要があった。
毎日幾何学大学に行っている――その一言だけで周囲から奇異な子供とみられてしまうのだ。
「カリム君が、この村に危険を呼んだのではないか?」
心無い一部の村人が、カリムと良心を睨みつける。
しかし、そんな目で見られるのは一度や二度じゃない。
カリムは慣れてしまっていた。
「勝手に大学に乗り込んで来て、向こうの住人を襲ったのはカーティス村の人間です。危険を自らでつくったのは、
この村の人たちだ!」
大勢の村人の前で、怒気を含んだ声で言い放ったカリムに、集会場は騒めいた。
カリムに共感する者もいたが、大多数はその言葉を受け入れられず、困惑している。
「カリム君は、もうこの村の住人ではない!」
「そんなに幾何学なんちゃらが良いなら、もう帰ってくるなよ」
カリムに否定的な同級生、ゼロまでそんな事を言い出す始末だ。
どちらが先に手を出すのか――一触即発の事態に大人たちは二人を止めに入った。
すると、リルがカリムの裾を引っ張る。
「何?リル」
「カリム、一緒に幾何学大学に行って謝って来ようよ」
リルはカリムの瞳をじっと見つめた。
カリムはリルの青い瞳を見て、すうっと怒りが引いていくのを感じた。
一度は、ゼロに対して振り上げた手を、ぱたりと落とす。
「分かったよ。リル、僕らだけで行こう」
「うん!」
そう言ったリルの母親は、カリムやリルに反対する意志はなく、皆の中に紛れて「行ってらっしゃい」と心の中で囁いた。
☆
「また帰ってこれなくなるのでは……」「あの扉を壊してしまえば……」
そんな声が聞こえてくる。
カリムは、ぐっと拳を握って、皆に言った。
「幾何学大学は、規則を守って行動すれば何の問題もありません。大学内は学長が変わってからは十分安全な状態です。それに僕は毎日のように幾何学大学へ行っています」
「カリム!」
カリムの父と母は、息子がそれ以上語らない様、制止した。
幾何学大学に反感を持っている一部の村人を刺激しない様に、言葉を選ぶ必要があった。
毎日幾何学大学に行っている――その一言だけで周囲から奇異な子供とみられてしまうのだ。
「カリム君が、この村に危険を呼んだのではないか?」
心無い一部の村人が、カリムと良心を睨みつける。
しかし、そんな目で見られるのは一度や二度じゃない。
カリムは慣れてしまっていた。
「勝手に大学に乗り込んで来て、向こうの住人を襲ったのはカーティス村の人間です。危険を自らでつくったのは、
この村の人たちだ!」
大勢の村人の前で、怒気を含んだ声で言い放ったカリムに、集会場は騒めいた。
カリムに共感する者もいたが、大多数はその言葉を受け入れられず、困惑している。
「カリム君は、もうこの村の住人ではない!」
「そんなに幾何学なんちゃらが良いなら、もう帰ってくるなよ」
カリムに否定的な同級生、ゼロまでそんな事を言い出す始末だ。
どちらが先に手を出すのか――一触即発の事態に大人たちは二人を止めに入った。
すると、リルがカリムの裾を引っ張る。
「何?リル」
「カリム、一緒に幾何学大学に行って謝って来ようよ」
リルはカリムの瞳をじっと見つめた。
カリムはリルの青い瞳を見て、すうっと怒りが引いていくのを感じた。
一度は、ゼロに対して振り上げた手を、ぱたりと落とす。
「分かったよ。リル、僕らだけで行こう」
「うん!」
そう言ったリルの母親は、カリムやリルに反対する意志はなく、皆の中に紛れて「行ってらっしゃい」と心の中で囁いた。
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