森を抜けたらそこは異世界でした

日彩

文字の大きさ
上 下
90 / 94
Later story

10.カリムの決断

しおりを挟む
半年間も消息不明になっていた子供たちの現実が、皆を不安にさせた。

「また帰ってこれなくなるのでは……」「あの扉を壊してしまえば……」

そんな声が聞こえてくる。
カリムは、ぐっと拳を握って、皆に言った。

「幾何学大学は、規則を守って行動すれば何の問題もありません。大学内は学長が変わってからは十分安全な状態です。それに僕は毎日のように幾何学大学へ行っています」
「カリム!」

カリムの父と母は、息子がそれ以上語らない様、制止した。
幾何学大学に反感を持っている一部の村人を刺激しない様に、言葉を選ぶ必要があった。

毎日幾何学大学に行っている――その一言だけで周囲から奇異な子供とみられてしまうのだ。

「カリム君が、この村に危険を呼んだのではないか?」

心無い一部の村人が、カリムと良心を睨みつける。
しかし、そんな目で見られるのは一度や二度じゃない。
カリムは慣れてしまっていた。

「勝手に大学に乗り込んで来て、向こうの住人を襲ったのはカーティス村の人間です。危険を自らでつくったのは、
この村の人たちだ!」

大勢の村人の前で、怒気を含んだ声で言い放ったカリムに、集会場は騒めいた。
カリムに共感する者もいたが、大多数はその言葉を受け入れられず、困惑している。

「カリム君は、もうこの村の住人ではない!」
「そんなに幾何学なんちゃらが良いなら、もう帰ってくるなよ」

カリムに否定的な同級生、ゼロまでそんな事を言い出す始末だ。
どちらが先に手を出すのか――一触即発の事態に大人たちは二人を止めに入った。
すると、リルがカリムの裾を引っ張る。

「何?リル」
「カリム、一緒に幾何学大学に行って謝って来ようよ」

リルはカリムの瞳をじっと見つめた。
カリムはリルの青い瞳を見て、すうっと怒りが引いていくのを感じた。
一度は、ゼロに対して振り上げた手を、ぱたりと落とす。

「分かったよ。リル、僕らだけで行こう」
「うん!」

そう言ったリルの母親は、カリムやリルに反対する意志はなく、皆の中に紛れて「行ってらっしゃい」と心の中で囁いた。

                      ☆


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...