森を抜けたらそこは異世界でした

日彩

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Later story

9.村の集会

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                        ☆


一方、その頃、カーティス村では幾何学大学へ向かった男たちが帰って来ないと、広場で集会が行われていた。
その集会には、カリムやリルやゼンも参加していた。
通常、大人たちだけで行うはずの集会なのだが、幾何学大学をもっとも良く知る者として子供たちが呼ばれた。

「幾何学大学へ向かった男たちは、皆、身寄りがない者たちばかりじゃ。しかし、このまま放っておく訳にはいかん」

村長が皆を前にして言った。
皆の姿が光虫から元の姿に戻ったあの日、何十年も外の世界では時間が経過しているにも関わらず、光虫たちの姿は当時の姿のままだった。

その為、姿が戻っても既に家族や親戚等は他界しており、また時代の移り変わりによる文化の変化等について行けず、村長の制止を聞かなかった。

「村長、では私たちがあの世界に行って、連れ戻す事を約束します」

一部の村人がそう言ったが、村長は首を横に振った。
そして子供たちを見た。

「子供たちが言う所、その男たちは、あの世界の人間一人を殺害したそうじゃ。あの世界で罪を問われているのじゃろう。むやみに行ってはならん」

村長は、リルの背にそっと手を当てた。
すると、リルは自分の力で出来る限りの説明を始めた。

「おっきな男の人たちが、どかんばたんて入ってきて、ばしゅばしゅってかけて、どっか行っちゃったの」

身振り手振りで話すリルの言葉に、村人の一人が「村長、良く分かりましたね」と羨望の眼差しを向けた。

「……カリム君、代わりに説明してくれるかのう?」
「はい」

皆の顔にクエスチョンマークが浮かんでいる様を見て、村長がカリムに説明を求めた。

「幾何学大学では、少し有名な人を、おじさん達は殺してしまったんです。向こうは罪人を収容する場所があって、おじさん達はきっとその中にいるだろうと思います」

神崎が生きている事を未だ知らないカリムは、村人にそう説明した。
そして――

「僕たちが、幾何学大学の学長に掛け合って、向こうにいるおじさん達をカーティス村に帰します」
「そうだな、そうしようぜ」

ゼンがカリムに同意した。
すると村人たちは、不安気な顔をし、ざわざわと騒ぎ始めた。

「何だよ!オレたちなら大丈夫だって」
「しかしのう、ゼン君、子供たちだけで危険な場所へ行かせる訳にはいかんでのう」

村長は、迷った瞳で子供たちを見た。



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