森を抜けたらそこは異世界でした

日彩

文字の大きさ
上 下
88 / 94
Later story

8.宝物

しおりを挟む
「やったあ、僕ロイヤルストレートフラッシュ!僕の勝ちだ!」
「フルハウス……畜生、仕方ない。桂樹の宝物だけどやるよ」

どうやら先刻のポーカーは、一樹が勝ったらしい。

「桂樹の宝物?」
「ちょっと待て!『オレ』オレはそんな事聞いてないぞっ!」

衣服を探っている『オレ』に、桂樹は慌てた。

「はい、一樹、手ぇ出して」

一樹は素直に小さな手を広げる。
その手のひらに、『オレ』は大きなゴキブリの死骸をのせた。
周囲にいた研究員たちは、ひっと小さな悲鳴をあげ、青ざめて身をひく。

「うちのキング・オブ・ゴキブリだ。こいつが一番でかくてさ」
「……何か貰っても嬉しくないよ」

一樹は特にこれといった感動もなく、ゴキブリの足を掴んだ。
それとは裏腹に大げさとも言える反応をしめしたのは、桂樹だった。

「一樹、何て事を言うんだ。そのゴキブリは10年に一度出るか出ないかの逸材だぞ!」
「ふーん」

一樹が、自分の目線の高さでそのゴキブリを見ていると、当然掴んでいた足が胴体からふつりとちぎれた。

「うああああ!」

桂樹が「オレの大事なミーシャが」と叫んでいるのを見て、周囲は呆れた。

「一歳児検診だからと来てみれば、またバカな事をしているな」

その時、先程まで死体だったはずの神崎が現れた。
瞼には、先程桂樹が残した『第二の瞳』がいつもはない存在感を放っている。

「バカはお前だ」


周囲は桂樹のその言葉に、こみ上げてくる笑いを隠し切れず、くっくっと苦しそうに笑った。
疑問を抱いた神崎は、周囲が自分の顔を見て笑っている事に気づいて、桂樹から渡された手鏡を受け取り、手鏡に映る自分の姿を見て、呆然とする。

「何だこれは!」
「普段の行いが招いた結果だろう。神崎チームの中でお前に恨みを持っている奴がやったんだな」

桂樹は、自分がやった事は口にせず、チームの誰かのせいにした。
その時、眠っていた神崎は、桂樹のせいだと知る由もない。

「犯人は誰かつきとめてやる!」

神崎は小走りで育児研究部を出て行こうとして、瞬間、振り返って十樹を見た。

「白石十樹!頭のこのケガはお前のせいで出来たものだ!その責任はとって貰うぞ!」

神崎は十樹を指さして、そう怒号を浴びせ育児研究部から出て行った。

「責任か……」

やれやれとため息をついて、十樹は呟く。

「神崎の野郎、せっかく人が見舞いに行ってやったのに。あの時、とどめを刺しておくべきだったか」

桂樹は、不穏な事を言いながらも、楽し気に拳を打ち合わせた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。

白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。 *外部サイトにも掲載しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...