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Later story
8.宝物
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「やったあ、僕ロイヤルストレートフラッシュ!僕の勝ちだ!」
「フルハウス……畜生、仕方ない。桂樹の宝物だけどやるよ」
どうやら先刻のポーカーは、一樹が勝ったらしい。
「桂樹の宝物?」
「ちょっと待て!『オレ』オレはそんな事聞いてないぞっ!」
衣服を探っている『オレ』に、桂樹は慌てた。
「はい、一樹、手ぇ出して」
一樹は素直に小さな手を広げる。
その手のひらに、『オレ』は大きなゴキブリの死骸をのせた。
周囲にいた研究員たちは、ひっと小さな悲鳴をあげ、青ざめて身をひく。
「うちのキング・オブ・ゴキブリだ。こいつが一番でかくてさ」
「……何か貰っても嬉しくないよ」
一樹は特にこれといった感動もなく、ゴキブリの足を掴んだ。
それとは裏腹に大げさとも言える反応をしめしたのは、桂樹だった。
「一樹、何て事を言うんだ。そのゴキブリは10年に一度出るか出ないかの逸材だぞ!」
「ふーん」
一樹が、自分の目線の高さでそのゴキブリを見ていると、当然掴んでいた足が胴体からふつりとちぎれた。
「うああああ!」
桂樹が「オレの大事なミーシャが」と叫んでいるのを見て、周囲は呆れた。
「一歳児検診だからと来てみれば、またバカな事をしているな」
その時、先程まで死体だったはずの神崎が現れた。
瞼には、先程桂樹が残した『第二の瞳』がいつもはない存在感を放っている。
「バカはお前だ」
周囲は桂樹のその言葉に、こみ上げてくる笑いを隠し切れず、くっくっと苦しそうに笑った。
疑問を抱いた神崎は、周囲が自分の顔を見て笑っている事に気づいて、桂樹から渡された手鏡を受け取り、手鏡に映る自分の姿を見て、呆然とする。
「何だこれは!」
「普段の行いが招いた結果だろう。神崎チームの中でお前に恨みを持っている奴がやったんだな」
桂樹は、自分がやった事は口にせず、チームの誰かのせいにした。
その時、眠っていた神崎は、桂樹のせいだと知る由もない。
「犯人は誰かつきとめてやる!」
神崎は小走りで育児研究部を出て行こうとして、瞬間、振り返って十樹を見た。
「白石十樹!頭のこのケガはお前のせいで出来たものだ!その責任はとって貰うぞ!」
神崎は十樹を指さして、そう怒号を浴びせ育児研究部から出て行った。
「責任か……」
やれやれとため息をついて、十樹は呟く。
「神崎の野郎、せっかく人が見舞いに行ってやったのに。あの時、とどめを刺しておくべきだったか」
桂樹は、不穏な事を言いながらも、楽し気に拳を打ち合わせた。
「フルハウス……畜生、仕方ない。桂樹の宝物だけどやるよ」
どうやら先刻のポーカーは、一樹が勝ったらしい。
「桂樹の宝物?」
「ちょっと待て!『オレ』オレはそんな事聞いてないぞっ!」
衣服を探っている『オレ』に、桂樹は慌てた。
「はい、一樹、手ぇ出して」
一樹は素直に小さな手を広げる。
その手のひらに、『オレ』は大きなゴキブリの死骸をのせた。
周囲にいた研究員たちは、ひっと小さな悲鳴をあげ、青ざめて身をひく。
「うちのキング・オブ・ゴキブリだ。こいつが一番でかくてさ」
「……何か貰っても嬉しくないよ」
一樹は特にこれといった感動もなく、ゴキブリの足を掴んだ。
それとは裏腹に大げさとも言える反応をしめしたのは、桂樹だった。
「一樹、何て事を言うんだ。そのゴキブリは10年に一度出るか出ないかの逸材だぞ!」
「ふーん」
一樹が、自分の目線の高さでそのゴキブリを見ていると、当然掴んでいた足が胴体からふつりとちぎれた。
「うああああ!」
桂樹が「オレの大事なミーシャが」と叫んでいるのを見て、周囲は呆れた。
「一歳児検診だからと来てみれば、またバカな事をしているな」
その時、先程まで死体だったはずの神崎が現れた。
瞼には、先程桂樹が残した『第二の瞳』がいつもはない存在感を放っている。
「バカはお前だ」
周囲は桂樹のその言葉に、こみ上げてくる笑いを隠し切れず、くっくっと苦しそうに笑った。
疑問を抱いた神崎は、周囲が自分の顔を見て笑っている事に気づいて、桂樹から渡された手鏡を受け取り、手鏡に映る自分の姿を見て、呆然とする。
「何だこれは!」
「普段の行いが招いた結果だろう。神崎チームの中でお前に恨みを持っている奴がやったんだな」
桂樹は、自分がやった事は口にせず、チームの誰かのせいにした。
その時、眠っていた神崎は、桂樹のせいだと知る由もない。
「犯人は誰かつきとめてやる!」
神崎は小走りで育児研究部を出て行こうとして、瞬間、振り返って十樹を見た。
「白石十樹!頭のこのケガはお前のせいで出来たものだ!その責任はとって貰うぞ!」
神崎は十樹を指さして、そう怒号を浴びせ育児研究部から出て行った。
「責任か……」
やれやれとため息をついて、十樹は呟く。
「神崎の野郎、せっかく人が見舞いに行ってやったのに。あの時、とどめを刺しておくべきだったか」
桂樹は、不穏な事を言いながらも、楽し気に拳を打ち合わせた。
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