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Later story
7.遊び方
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「じゃあ桂樹、神崎の件も心配いらないみたいだし、『オレ』と一樹の一歳児検診に行ってくるか」
「おお」
宇宙科学部から二人が出て行こうとした時、丁度クリーニングから帰ってきた亜樹とすれ違った。
亜樹にその旨を伝えると「いってらっしゃい」と笑顔で送り出された。
橘は入れ違いで入ってきた亜樹を見て言った。
「あのお二人、変わりましたね」
「そうね」
この一年で、十樹と桂樹は、どこかわだかまりが解けた様に歩み寄っている。
十樹がいない時には、代わりに桂樹が役割を果たし、桂樹が必要な時は、十樹が桂樹の仕事をやっつけている。
それは以前では考えられなかった事だ。
「亜樹さんが生まれる前は、ケンカばかりしているお二人だったそうです。……僕は一番良い時にこの研究室に来れてよかったです」
「私も、この研究室で生まれて良かったわ」
亜樹は橘をみて、柔らかに笑った。
「だって、橘さんがいるんですもの」
☆
育児研究部は、子供たちが一歳を迎えた現在、各々の考えで遊べる児童公園のようになっている。
かつて軍事用クローンになる為の教育をほどこそうとしていた上層部のメンバーの一部は、既に大学を追われ懲戒解雇となっている。
恵まれた環境で育っていけるように、大学の制度を改定したのは十樹だ。
児童公園で遊んでいる子供たちは、皆、優秀な遺伝子を持つ。
その為か、遊び方に一癖も二癖もある子供たちばかりだ。
その中でも、特に十樹や桂樹のクローンである一樹と『オレ』は一際目立っていた。
一歳であるにもかかわらず、トランプで遊んでいたからだ。
――しかも。
「いいか、一樹、この勝負でお前が負けたら、今日のおやつ全部『オレ』の物だからな」
「『オレ』、僕に勝ったらね。ただし、僕が勝ったら『オレ』の持ってる宝物を一つ貰う約束だからね」
二人は、ポーカーで賭け事をしていたのである。
周囲にいる保護者達は、皆、ぽかんと口を開けてその様子を見ている。
そんな二人の元に集まってくる子供たちは少なくなかった。
十樹と桂樹の二人がその場に立った時、保護者達は学長とその弟である二人を見て言った。
「学長!あの二人をどうにかして下さい」
「私のクローンに悪影響が!」
幾何学大学の生徒であり、クローンの保護者である者たちは、十樹と桂樹に苦情を申し立てた。
「……一樹と『オレ』に賭け事を教えたのおは誰だ?」
大体の察しはついていたが、こそこそとその場から離れようとしている桂樹を見ていると、あえて問わずとも分かるというものだ。
「おお」
宇宙科学部から二人が出て行こうとした時、丁度クリーニングから帰ってきた亜樹とすれ違った。
亜樹にその旨を伝えると「いってらっしゃい」と笑顔で送り出された。
橘は入れ違いで入ってきた亜樹を見て言った。
「あのお二人、変わりましたね」
「そうね」
この一年で、十樹と桂樹は、どこかわだかまりが解けた様に歩み寄っている。
十樹がいない時には、代わりに桂樹が役割を果たし、桂樹が必要な時は、十樹が桂樹の仕事をやっつけている。
それは以前では考えられなかった事だ。
「亜樹さんが生まれる前は、ケンカばかりしているお二人だったそうです。……僕は一番良い時にこの研究室に来れてよかったです」
「私も、この研究室で生まれて良かったわ」
亜樹は橘をみて、柔らかに笑った。
「だって、橘さんがいるんですもの」
☆
育児研究部は、子供たちが一歳を迎えた現在、各々の考えで遊べる児童公園のようになっている。
かつて軍事用クローンになる為の教育をほどこそうとしていた上層部のメンバーの一部は、既に大学を追われ懲戒解雇となっている。
恵まれた環境で育っていけるように、大学の制度を改定したのは十樹だ。
児童公園で遊んでいる子供たちは、皆、優秀な遺伝子を持つ。
その為か、遊び方に一癖も二癖もある子供たちばかりだ。
その中でも、特に十樹や桂樹のクローンである一樹と『オレ』は一際目立っていた。
一歳であるにもかかわらず、トランプで遊んでいたからだ。
――しかも。
「いいか、一樹、この勝負でお前が負けたら、今日のおやつ全部『オレ』の物だからな」
「『オレ』、僕に勝ったらね。ただし、僕が勝ったら『オレ』の持ってる宝物を一つ貰う約束だからね」
二人は、ポーカーで賭け事をしていたのである。
周囲にいる保護者達は、皆、ぽかんと口を開けてその様子を見ている。
そんな二人の元に集まってくる子供たちは少なくなかった。
十樹と桂樹の二人がその場に立った時、保護者達は学長とその弟である二人を見て言った。
「学長!あの二人をどうにかして下さい」
「私のクローンに悪影響が!」
幾何学大学の生徒であり、クローンの保護者である者たちは、十樹と桂樹に苦情を申し立てた。
「……一樹と『オレ』に賭け事を教えたのおは誰だ?」
大体の察しはついていたが、こそこそとその場から離れようとしている桂樹を見ていると、あえて問わずとも分かるというものだ。
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