森を抜けたらそこは異世界でした

日彩

文字の大きさ
上 下
87 / 94
Later story

7.遊び方

しおりを挟む
「じゃあ桂樹、神崎の件も心配いらないみたいだし、『オレ』と一樹の一歳児検診に行ってくるか」
「おお」

宇宙科学部から二人が出て行こうとした時、丁度クリーニングから帰ってきた亜樹とすれ違った。
亜樹にその旨を伝えると「いってらっしゃい」と笑顔で送り出された。
橘は入れ違いで入ってきた亜樹を見て言った。

「あのお二人、変わりましたね」
「そうね」

この一年で、十樹と桂樹は、どこかわだかまりが解けた様に歩み寄っている。
十樹がいない時には、代わりに桂樹が役割を果たし、桂樹が必要な時は、十樹が桂樹の仕事をやっつけている。
それは以前では考えられなかった事だ。

「亜樹さんが生まれる前は、ケンカばかりしているお二人だったそうです。……僕は一番良い時にこの研究室に来れてよかったです」
「私も、この研究室で生まれて良かったわ」

亜樹は橘をみて、柔らかに笑った。

「だって、橘さんがいるんですもの」

                      ☆

育児研究部は、子供たちが一歳を迎えた現在、各々の考えで遊べる児童公園のようになっている。
かつて軍事用クローンになる為の教育をほどこそうとしていた上層部のメンバーの一部は、既に大学を追われ懲戒解雇となっている。
恵まれた環境で育っていけるように、大学の制度を改定したのは十樹だ。


児童公園で遊んでいる子供たちは、皆、優秀な遺伝子を持つ。
その為か、遊び方に一癖も二癖もある子供たちばかりだ。
その中でも、特に十樹や桂樹のクローンである一樹と『オレ』は一際目立っていた。
一歳であるにもかかわらず、トランプで遊んでいたからだ。

――しかも。

「いいか、一樹、この勝負でお前が負けたら、今日のおやつ全部『オレ』の物だからな」
「『オレ』、僕に勝ったらね。ただし、僕が勝ったら『オレ』の持ってる宝物を一つ貰う約束だからね」

二人は、ポーカーで賭け事をしていたのである。
周囲にいる保護者達は、皆、ぽかんと口を開けてその様子を見ている。
そんな二人の元に集まってくる子供たちは少なくなかった。

十樹と桂樹の二人がその場に立った時、保護者達は学長とその弟である二人を見て言った。

「学長!あの二人をどうにかして下さい」
「私のクローンに悪影響が!」

幾何学大学の生徒であり、クローンの保護者である者たちは、十樹と桂樹に苦情を申し立てた。

「……一樹と『オレ』に賭け事を教えたのおは誰だ?」

大体の察しはついていたが、こそこそとその場から離れようとしている桂樹を見ていると、あえて問わずとも分かるというものだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...