森を抜けたらそこは異世界でした

日彩

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Later story

3.迷走

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「ところで桂樹、彼らはまだ私の事を、幾何学大学の責任者だと認識してはいない」
「そんなの分かるのかよ」

洗面室から桂樹が言った。

「彼らには、私が『村長』だと言う事は伝えていないからね」
「本当か!?」

十樹の言葉に桂樹が洗面室から顔を出した。
すると、まるでインディアンの様にメイクをした桂樹の顔が現れた。

「桂樹、何なんだ、その顔は」
「自衛手段だ。老人たちが十樹とオレを間違えない様に」
「私は殺されてもいいというのか」

十樹は桂樹の首を絞めながら、インディアンの顔をした桂樹の頭をかくかくと揺さぶった。

「ああ、また始まったのかよ」

ゼンが面白そうに頭の後ろで手を組んで、二人のケンカを見ている。
そこへ亜樹が現れ、十樹と桂樹を諭すようにして言った。

「兄さんたち、お茶が入ったわよ。冷めない内に飲んでちょうだい」

ポットとお茶菓子をトレイの上に乗せ、研究所の机に置いた。
焼きたてのクッキーの香りと、コーヒーの香ばしい香りが周囲にたちこめる。

「はい。カリム君たちはココアね」

亜樹は暖かいココアを子供たちに渡した。
この緊迫した状況の中でも、亜樹はいつもと変わらず穏やかだ。
十樹と桂樹は、亜樹の一言で、すぐに子供じみたケンカをやめ、椅子に座ってコーヒーを飲んだ。


                   ☆


「村長!村長はどこだ!」

学長と言う名の代表者がいる事等知らない男たちは、斧を肩にかついで生体医学部にも現れた。

「なんだ、あの老人たちは」

大学警察に囲まれながら、神隠しの森から現れた老人たちは、数あるパスゲートを斧で壊して、神崎亨のいる生体医学部へ入って来たのである。
ゲートを壊した為、生体医学部ではサイレンがいつまでも止むことなく鳴り響いていた。

「村長はどこにいる?」

初老の男が入り口にいる受付の女性に聞くと、女性は怖々とした声で言った。

「村長はいませんが……」
「いない!?どういう事だ」

斧を振り上げて、今にも女性に襲いかかりそうな様子に、見ていた神崎は慌てて駆けつけた。

「責任者は僕だ。何の用でここまで入って来たんだ」

神崎は、女性を庇うようにして、初老の男たちのまえに立った。

「お前か!わし等にこんな事をしたのは!」

勢いよく振り下ろした斧を神崎に向ける。
神崎は突然の事態に、気が動転し、斧をよける事が出来ずにいた。

――――殺られる!?




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