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ももちゃんの色えんぴつ
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「たーだいまっ!」
お母さんと元気良く玄関のドアを開けると
ももちゃんは一目散にお気に入りの物めがけて走って行きます。
玄関には小さな靴が2つ
右と左が全然ちがう方にすっ飛んでいて
お部屋の前にはようち園の小さなカバンが転がっています。
「ももちゃん!手を洗ってうがいでしょっ。」
まったく、やれやれってそれを片付けるお母さん…
でもやれやれって顔はちょっとうれしそう。
ももちゃんがおやつよりもテレビよりも好きなものって
一体なんでしょうね…
それはね、24色の色えんぴつ!
後10回も夜が来て、10回目の朝には
ももちゃん、5才のおたんじょう日がやって来ます。
ちょっと早いけどって、大好きなおじいちゃんがプレゼントしてくれたの。
赤いリボンをほどいて小さなつつみを開けた時
「わぁ~」って大きな声をあげながらももちゃんの目は
まんまるく、まんまるく大きくなった。
だってようち園の色えんぴつは12色。
その倍の色があるなんて、ももちゃんにとっては大事件ですよ!
大事件!!!
それからのこの数日、お花に虫、お母さんの顔もおじいちゃんの顔も
お父さんの車も干してあるせんたく物まで
いろんな色で書いて書いて、書いて書いてもぜんぜん足りなくて
おやつの事もすっかり忘れて…
ももちゃんのらくがき帳は
毎日うちあげ花火が上がってるみたいなにぎやかさ。
それから何日か過ぎたある日のようち園の帰り道
向かう先はいつものおじいちゃんの所。
お母さんがちょっと、いつもより早く歩いていて
お母さんがちょっと、いつもよりももちゃんの手をぎゅっとにぎって
お母さんがちょっと、いつもより笑っていなかったんだ…
ももちゃんはドキドキして何回も来ているはずの
白くて大きな病院のエレベーターが7階に着くまで
何だかとっても落ち着かなかった。
いつものようにおじいちゃんの部屋に入ると
いつものようにおじいちゃんは、にっこりと優しい顔をしていた。
ももちゃんはおじいちゃのベッドにはずむように近づいて
おじいちゃんがプレゼントしてくれた色えんぴつが
どんなにステキなものなのか夢中で話して教えてあげた。
ももちゃんのおじいちゃんは何年も大変な病気で
おじいちゃんとここで会えるのが、ももちゃんにとって普通の事。
お母さんにご用がある時ももちゃんは
おじいちゃんの部屋で絵本を読んでもらったり、いっしょにお昼寝したり
時々かんごしさんともおしゃべりしたりして。
だからももちゃんにとっては、おじいちゃんは病気だからここにいるって
全然そういう感じじゃなかったんだ。
ももちゃんはポケットから折りたたんである紙をそっと取り出して
おじいちゃんのお耳の近くでささやいた。
(これ、寝る前に見てね)って。
にこって笑ったももちゃんにつられて
おじいちゃんはしわくちゃになるくらい、にこにこしていた。
帰り道、いつもと同じなんだけど
ももちゃんは何となく変だなぁって思いながら、お母さんの後ろを歩いた。
夕焼けがすごく赤くて、とってもきれいで
帰ったら色えんぴつで書こうって思いながらも
あんまりおしゃべりしないお母さんのことが、気になっていたんだ。
次の日の朝
ももちゃんはめずらしく、体をゆすられて起こされた。
「もも、起きて、もも起きて!」
眠いお目目をぱちぱちさせながらも見えたのは
見たことのない暗くしずんだお母さんの顔だった。
よくわからないまま着替えさせられて、くつをはいて
ボサボサ頭のまま、ほとんどお父さんに抱えられて着いたところは
おじいちゃんのいる病院だった。
外はまだうす暗くて、太陽は見えない。
誰もいない暗い広い廊下。
緑の非常口の看板がももちゃんの目に焼き付く。
おじいちゃんのいつもの部屋と
違うところに今いるんだって事は
ももちゃんにもわかった。
クリーム色の長いベンチにストンと座らされた。
すぐにお父さんがとなりに座って、ももちゃんを肩ごと抱えるようにして
静かに話し出した。
「あのね、おじいちゃんがさっき亡くなったんだよ。
うん…死んじゃったんだ。あ、でも天国に行ったんだよ。
もも、わからないか…」
お父さんが背中をさすってくれて、その手が温かくて
ももちゃんはまた、うとうと眠くなっちゃったんだけど
少し離れてるところで
お母さんが鼻を啜って泣いているのが分かった。
その日はももちゃんようち園をお休みして
お母さんはご用がいっぱいあるからって
お父さんとおうちでおるすばんする事になった。
病院の帰りにコンビニで、おにぎりとかパンとか
カラフルグミとか、お父さんがいっぱい買ってくれたけど
ももちゃんはちっともにこにこ出来なかった。
お絵かきしながらお父さんに聞いてみた。
「おじいちゃんにはもう会えないの?」
でも言い終わらないうちにももちゃんの唇がわなわなとふるえて
思い通りに動かなくなって
いっしゅんで目の前がゆがんでくもって
涙と鼻水がいっぺんに流れてきた。
もう止まらなくなって、おいおい泣き出して
こめかみが痛くなっても
のども首も痛くなっても
息が上手に吸えなくても
しゃっくりが連続して出てくるみたいに泣いた。
お父さんがおひざに抱っこしてくれたけど、何も言ってはくれなかった。
その代わりにももちゃんの頭を優しくなでてくれた。
長い時間そうしてくれていた。
次の日、白くて大きな箱の中で眠っているようなおじいちゃんに会った。
そのそばでお母さんがゆっくり話してくれた。
「もも、おじいちゃんが24色の色えんぴつをくれたでしょ?
おじいちゃん話してたよね?生きているって事は色えんぴつのように
いろんな色を味うことだって…」
ももちゃんは思い出していた。
ある日ふてくされ顔のももちゃん
ようち園のお砂場でヒロくんとケンカしちゃって、イヤな気持ちになった事を
おじいちゃんに話したの。
おじいちゃんは静かにやさしい声で、こんな質問をしてきたの。
「ももちゃん、今の気持ちは色えんぴつの何色かな?」
ももちゃんはちょっとふくれた顔して
「わかんないよ~、色じゃないもん!」
「そうかな、今の気持ちを絵で書くとしたら、何色のえんぴつを取るかな?」
ももちゃんはそう言われて少し考えた。
「ん~、灰色…」
おじいちゃんはうんってうなずいて
「じゃぁ、お弁当に大好きなおかずが入っていたら、何色の気分かな?」
ももちゃんはお母さんの甘いたまごやきを思い浮かべて
「きいろ!」
って元気よく答えた。
「じゃぁすべり台でみんなと仲良く遊んだ時は?」
「う~ん、楽しい感じはオレンジ色!」
「そぉその調子だよももちゃん。じゃぁ、コップをたおしちゃって
お母さんに叱られた時は何色?」
「う~ん、茶色かなぁ…」
「わかるよ、おじいちゃんもかんごしさんに叱られると茶色い気持ちだ。
いやぁ焦げ茶色かなハハっ!
その時の気持ちはいろんな色にたとえられるんだね。」
それからおじいちゃんはちょっとだけ真面目な顔になって
「じゃぁももちゃん、ここからだよ~。灰色は悪い色なのかな?」
?ももちゃんは、えっ?って首をななめにした。
おじいちゃんの質問は続いた。
「茶色って悪い色?」
ももちゃんは今度はいっぱい考えて答えた。
「ううん、灰色はてつぼうをぬる時とか、ねずみさん書いた時に使うよ。
あと道路書く時もね。茶色はね~花だんの土の色だし、お父さんの茶色いセーター書いたよ。
床の色も!ももちゃん茶色いっぱい使うよ!」
おじいちゃんはニッと笑ってね
「ほらね、ももちゃんは今日灰色の気持ちを味わっただけなんだよ
でも灰色の気持ちは悪くなんかないんだよ、茶色い気持ちもそうだよ
これからだって、いっぱいいろんな色の気持ちを味わうんだよ
そうしていくのが楽しいし、いろんな色を知る事は素晴らしいんだよ。」
ももちゃんのほっぺたが一気にピンク色に染まった。
ももちゃんは椅子から立ち上がって、おじいちゃんのベッドにぴょんって近づいて
「じゃぁ仲直りしてオレンジ色にする!
でもさっきまでの灰色も悪くないんだね…」
目を瞑ったままのおじいちゃんを見つめながら
「うん…覚えてる。」
小さな声で言った。
「おじいちゃんはね、ずっと大変な病気と戦っていたの。
つらくて苦しいちりょうを何年も頑張っていたんだよ。」
「おじいちゃん、苦しくて、痛かったの?
おじいちゃんは、いつも優しくて、にこにこしてたよ。」
言い終わらないうちに、ももちゃんの肩がふるえ出して
目からまた涙がたくさん、たくさん出てきた。
「じゃぁ、おじいちゃんは、ずっと…黒い気持ちだったの?
ももちゃんは…おじいちゃん…と いるとき い いつもピンク色だよ
ほ んとう は… お じいちゃん 黒くて 痛かっ た の?」
しゃくり上げながら上手にしゃべれない。
ももちゃんは転んでおひざをすりむいた時の気持ちを思い出して
黒い色えんぴつだと思った。
そして今は灰色と水色がまざってすごく悲しくて。
お母さんはももちゃんを抱き上げて
「違うよ!おじいちゃんはももに会えるから病気と戦えたんだよ!
おじいちゃん、ももが大好きで、ももといる時本当にやさしい顔してて
あんなにおだやかでやさしい顔、お母さんがももを産んでから初めて見たんだよ!」
お母さんは赤ちゃんの頃よりずっと重たくなったももちゃんを、あやすように揺らしながら
「ほら、おじいちゃんの手を見てごらん。」
重ねてあるおじいちゃんの右の手と左の手の間に、紙みたいな物がある。
上から見ると、大事なものを持っているように見えた。
あっ
ももちゃんがおじいちゃんに書いてあげたものだ。
ピンクの色鉛筆で大きなハートを書いてうすく塗った後
おじいちゃんの顔と、ももちゃんの顔を書いた。
その下に
ずっといっしょ!
って書いたの。
眠る前に見たら、おじいちゃんいい夢見れると思ったんだ。
「おじいちゃん、ももからもらったあの手紙をね、最後までにぎっていたんだよ。
すごく、すごく、幸せな気持ちでね。」
ももちゃんはもう顔が上げられなくなって
お母さんの首にしがみついて
お母さんの肩はももちゃんの涙でびしょびしょだった。
「じゃぁ お、おじいちゃんは ピンク 色 だった?」
やっとこさっとこ出した声
「そうね、ピンクよりももっと、もっと優しくてふんわりしてる…
もも色の気持ちを…
あなたの名前にって付けてくれたから」
お母さんの声も涙をかみしめながら、必死で言葉に変えていた。
「おじいちゃんはずっと、もも色だったんだよ。
茶色い気持ちになっても、真っ黒い気持ちになっても
ももの顔見たらね、いつの間にか
もも色の気持ち…」
その次の日
おじいちゃんは白い煙になって、天国に舞い上がって行った。
ふわふわと青いお空に消えてゆく煙に
おじいちゃんの顔が浮かんだ。
ももちゃん、いろんな色を経験しようね
それは素晴らしい事だよ
って、にこにこやさしいおじいちゃんの顔がね。
青い色えんぴつを取った
ももちゃんは
今日、5才になった。
終わり
お母さんと元気良く玄関のドアを開けると
ももちゃんは一目散にお気に入りの物めがけて走って行きます。
玄関には小さな靴が2つ
右と左が全然ちがう方にすっ飛んでいて
お部屋の前にはようち園の小さなカバンが転がっています。
「ももちゃん!手を洗ってうがいでしょっ。」
まったく、やれやれってそれを片付けるお母さん…
でもやれやれって顔はちょっとうれしそう。
ももちゃんがおやつよりもテレビよりも好きなものって
一体なんでしょうね…
それはね、24色の色えんぴつ!
後10回も夜が来て、10回目の朝には
ももちゃん、5才のおたんじょう日がやって来ます。
ちょっと早いけどって、大好きなおじいちゃんがプレゼントしてくれたの。
赤いリボンをほどいて小さなつつみを開けた時
「わぁ~」って大きな声をあげながらももちゃんの目は
まんまるく、まんまるく大きくなった。
だってようち園の色えんぴつは12色。
その倍の色があるなんて、ももちゃんにとっては大事件ですよ!
大事件!!!
それからのこの数日、お花に虫、お母さんの顔もおじいちゃんの顔も
お父さんの車も干してあるせんたく物まで
いろんな色で書いて書いて、書いて書いてもぜんぜん足りなくて
おやつの事もすっかり忘れて…
ももちゃんのらくがき帳は
毎日うちあげ花火が上がってるみたいなにぎやかさ。
それから何日か過ぎたある日のようち園の帰り道
向かう先はいつものおじいちゃんの所。
お母さんがちょっと、いつもより早く歩いていて
お母さんがちょっと、いつもよりももちゃんの手をぎゅっとにぎって
お母さんがちょっと、いつもより笑っていなかったんだ…
ももちゃんはドキドキして何回も来ているはずの
白くて大きな病院のエレベーターが7階に着くまで
何だかとっても落ち着かなかった。
いつものようにおじいちゃんの部屋に入ると
いつものようにおじいちゃんは、にっこりと優しい顔をしていた。
ももちゃんはおじいちゃのベッドにはずむように近づいて
おじいちゃんがプレゼントしてくれた色えんぴつが
どんなにステキなものなのか夢中で話して教えてあげた。
ももちゃんのおじいちゃんは何年も大変な病気で
おじいちゃんとここで会えるのが、ももちゃんにとって普通の事。
お母さんにご用がある時ももちゃんは
おじいちゃんの部屋で絵本を読んでもらったり、いっしょにお昼寝したり
時々かんごしさんともおしゃべりしたりして。
だからももちゃんにとっては、おじいちゃんは病気だからここにいるって
全然そういう感じじゃなかったんだ。
ももちゃんはポケットから折りたたんである紙をそっと取り出して
おじいちゃんのお耳の近くでささやいた。
(これ、寝る前に見てね)って。
にこって笑ったももちゃんにつられて
おじいちゃんはしわくちゃになるくらい、にこにこしていた。
帰り道、いつもと同じなんだけど
ももちゃんは何となく変だなぁって思いながら、お母さんの後ろを歩いた。
夕焼けがすごく赤くて、とってもきれいで
帰ったら色えんぴつで書こうって思いながらも
あんまりおしゃべりしないお母さんのことが、気になっていたんだ。
次の日の朝
ももちゃんはめずらしく、体をゆすられて起こされた。
「もも、起きて、もも起きて!」
眠いお目目をぱちぱちさせながらも見えたのは
見たことのない暗くしずんだお母さんの顔だった。
よくわからないまま着替えさせられて、くつをはいて
ボサボサ頭のまま、ほとんどお父さんに抱えられて着いたところは
おじいちゃんのいる病院だった。
外はまだうす暗くて、太陽は見えない。
誰もいない暗い広い廊下。
緑の非常口の看板がももちゃんの目に焼き付く。
おじいちゃんのいつもの部屋と
違うところに今いるんだって事は
ももちゃんにもわかった。
クリーム色の長いベンチにストンと座らされた。
すぐにお父さんがとなりに座って、ももちゃんを肩ごと抱えるようにして
静かに話し出した。
「あのね、おじいちゃんがさっき亡くなったんだよ。
うん…死んじゃったんだ。あ、でも天国に行ったんだよ。
もも、わからないか…」
お父さんが背中をさすってくれて、その手が温かくて
ももちゃんはまた、うとうと眠くなっちゃったんだけど
少し離れてるところで
お母さんが鼻を啜って泣いているのが分かった。
その日はももちゃんようち園をお休みして
お母さんはご用がいっぱいあるからって
お父さんとおうちでおるすばんする事になった。
病院の帰りにコンビニで、おにぎりとかパンとか
カラフルグミとか、お父さんがいっぱい買ってくれたけど
ももちゃんはちっともにこにこ出来なかった。
お絵かきしながらお父さんに聞いてみた。
「おじいちゃんにはもう会えないの?」
でも言い終わらないうちにももちゃんの唇がわなわなとふるえて
思い通りに動かなくなって
いっしゅんで目の前がゆがんでくもって
涙と鼻水がいっぺんに流れてきた。
もう止まらなくなって、おいおい泣き出して
こめかみが痛くなっても
のども首も痛くなっても
息が上手に吸えなくても
しゃっくりが連続して出てくるみたいに泣いた。
お父さんがおひざに抱っこしてくれたけど、何も言ってはくれなかった。
その代わりにももちゃんの頭を優しくなでてくれた。
長い時間そうしてくれていた。
次の日、白くて大きな箱の中で眠っているようなおじいちゃんに会った。
そのそばでお母さんがゆっくり話してくれた。
「もも、おじいちゃんが24色の色えんぴつをくれたでしょ?
おじいちゃん話してたよね?生きているって事は色えんぴつのように
いろんな色を味うことだって…」
ももちゃんは思い出していた。
ある日ふてくされ顔のももちゃん
ようち園のお砂場でヒロくんとケンカしちゃって、イヤな気持ちになった事を
おじいちゃんに話したの。
おじいちゃんは静かにやさしい声で、こんな質問をしてきたの。
「ももちゃん、今の気持ちは色えんぴつの何色かな?」
ももちゃんはちょっとふくれた顔して
「わかんないよ~、色じゃないもん!」
「そうかな、今の気持ちを絵で書くとしたら、何色のえんぴつを取るかな?」
ももちゃんはそう言われて少し考えた。
「ん~、灰色…」
おじいちゃんはうんってうなずいて
「じゃぁ、お弁当に大好きなおかずが入っていたら、何色の気分かな?」
ももちゃんはお母さんの甘いたまごやきを思い浮かべて
「きいろ!」
って元気よく答えた。
「じゃぁすべり台でみんなと仲良く遊んだ時は?」
「う~ん、楽しい感じはオレンジ色!」
「そぉその調子だよももちゃん。じゃぁ、コップをたおしちゃって
お母さんに叱られた時は何色?」
「う~ん、茶色かなぁ…」
「わかるよ、おじいちゃんもかんごしさんに叱られると茶色い気持ちだ。
いやぁ焦げ茶色かなハハっ!
その時の気持ちはいろんな色にたとえられるんだね。」
それからおじいちゃんはちょっとだけ真面目な顔になって
「じゃぁももちゃん、ここからだよ~。灰色は悪い色なのかな?」
?ももちゃんは、えっ?って首をななめにした。
おじいちゃんの質問は続いた。
「茶色って悪い色?」
ももちゃんは今度はいっぱい考えて答えた。
「ううん、灰色はてつぼうをぬる時とか、ねずみさん書いた時に使うよ。
あと道路書く時もね。茶色はね~花だんの土の色だし、お父さんの茶色いセーター書いたよ。
床の色も!ももちゃん茶色いっぱい使うよ!」
おじいちゃんはニッと笑ってね
「ほらね、ももちゃんは今日灰色の気持ちを味わっただけなんだよ
でも灰色の気持ちは悪くなんかないんだよ、茶色い気持ちもそうだよ
これからだって、いっぱいいろんな色の気持ちを味わうんだよ
そうしていくのが楽しいし、いろんな色を知る事は素晴らしいんだよ。」
ももちゃんのほっぺたが一気にピンク色に染まった。
ももちゃんは椅子から立ち上がって、おじいちゃんのベッドにぴょんって近づいて
「じゃぁ仲直りしてオレンジ色にする!
でもさっきまでの灰色も悪くないんだね…」
目を瞑ったままのおじいちゃんを見つめながら
「うん…覚えてる。」
小さな声で言った。
「おじいちゃんはね、ずっと大変な病気と戦っていたの。
つらくて苦しいちりょうを何年も頑張っていたんだよ。」
「おじいちゃん、苦しくて、痛かったの?
おじいちゃんは、いつも優しくて、にこにこしてたよ。」
言い終わらないうちに、ももちゃんの肩がふるえ出して
目からまた涙がたくさん、たくさん出てきた。
「じゃぁ、おじいちゃんは、ずっと…黒い気持ちだったの?
ももちゃんは…おじいちゃん…と いるとき い いつもピンク色だよ
ほ んとう は… お じいちゃん 黒くて 痛かっ た の?」
しゃくり上げながら上手にしゃべれない。
ももちゃんは転んでおひざをすりむいた時の気持ちを思い出して
黒い色えんぴつだと思った。
そして今は灰色と水色がまざってすごく悲しくて。
お母さんはももちゃんを抱き上げて
「違うよ!おじいちゃんはももに会えるから病気と戦えたんだよ!
おじいちゃん、ももが大好きで、ももといる時本当にやさしい顔してて
あんなにおだやかでやさしい顔、お母さんがももを産んでから初めて見たんだよ!」
お母さんは赤ちゃんの頃よりずっと重たくなったももちゃんを、あやすように揺らしながら
「ほら、おじいちゃんの手を見てごらん。」
重ねてあるおじいちゃんの右の手と左の手の間に、紙みたいな物がある。
上から見ると、大事なものを持っているように見えた。
あっ
ももちゃんがおじいちゃんに書いてあげたものだ。
ピンクの色鉛筆で大きなハートを書いてうすく塗った後
おじいちゃんの顔と、ももちゃんの顔を書いた。
その下に
ずっといっしょ!
って書いたの。
眠る前に見たら、おじいちゃんいい夢見れると思ったんだ。
「おじいちゃん、ももからもらったあの手紙をね、最後までにぎっていたんだよ。
すごく、すごく、幸せな気持ちでね。」
ももちゃんはもう顔が上げられなくなって
お母さんの首にしがみついて
お母さんの肩はももちゃんの涙でびしょびしょだった。
「じゃぁ お、おじいちゃんは ピンク 色 だった?」
やっとこさっとこ出した声
「そうね、ピンクよりももっと、もっと優しくてふんわりしてる…
もも色の気持ちを…
あなたの名前にって付けてくれたから」
お母さんの声も涙をかみしめながら、必死で言葉に変えていた。
「おじいちゃんはずっと、もも色だったんだよ。
茶色い気持ちになっても、真っ黒い気持ちになっても
ももの顔見たらね、いつの間にか
もも色の気持ち…」
その次の日
おじいちゃんは白い煙になって、天国に舞い上がって行った。
ふわふわと青いお空に消えてゆく煙に
おじいちゃんの顔が浮かんだ。
ももちゃん、いろんな色を経験しようね
それは素晴らしい事だよ
って、にこにこやさしいおじいちゃんの顔がね。
青い色えんぴつを取った
ももちゃんは
今日、5才になった。
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