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2章 魔法使いとストッカー
69 ピクニック
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お出かけ用の馬車に乗り込んだ私はユーリをすぐさま横に座らせた。だって… 前の二人が怖いんだもん。
「お前はついて来なくてよかったのに。せっかくのお嬢様の休みが台無しだ」
ランドは足を組み窓の外を見ながら愚痴を吐く。
「嫌ならお前が帰ればいい」
と、リットも足を組んで反対の窓の外を見ながら言う。
「…」
「…」
車内はし~んと静かになりガタゴトと馬車の進む音だけが聞こえる。嫌だな~、今から楽しいピクニックなのに。はぁ。
「きょ、今日は馬車なんだね。久しぶりで楽しいな~。なんて、ね? ユーリ」
びくっとしたユーリは前の二人を盗み見してからコソコソと私に返す。
「止めてくださいお嬢様。私はまだ死にたくない… 今日はユーリは無視でいいです。居ないものと思ってください」
「はぁ? 裏切る気? ちょっ、お話ししようよ、ユーリちゃん」
と、ユーリの腕をつかんで揺らすがユーリも窓の外を見て、かたくなにこっちへ振り向いてくれない。
「…」
長い沈黙。でも、馬車はどんどん目的地へ近づいている。こんな調子じゃピクニック、楽しめないじゃん。
「あのさ~、リットとランド。久しぶりのお出かけなんだし二人共ツンケンしないで」
バッと勢いよく私を見る二人は何故か息が合っている。
「こいつが!」
「こいつが!」
グルルーと野獣の喉を鳴らすかのように一瞬睨み合ったが、すぐに逆方向へ顔を背けた。
「はぁ~。せっかくのピクニックなんだから仲良くしてよ。こんな事なら二人以外を連れて来るんだった」
と、私は大きなため息混じりに二人をにらんだら、バツが悪そうにやっと謝ってきた。
「すまない。自分で誘っておきながら、嫌な態度をとってしまった」
「悪かった… 俺だけ除け者になりそうだったからムカついて」
「いいわ。じゃぁ、この瞬間から仲良くしてよ。はい、握手」
「…」
「…」
無言でそろっと軽く握手をする。途端にランドは切り替えたのか笑顔で話しかけてきた。
「それよりお嬢様、今日は転移で行かないのが不思議じゃないか?」
「そうね、なぜ?」
「ゆっくりと外を眺めるのもいいかと思ってな。普段の領民の暮らしぶりが見えるだろう?」
そっと窓の外を見ると、ちょうど畑仕事をしている人たちが見えた。あれは何を収穫しているのかな? 夫婦とおじいさん、そして子供が二人。家族全員で籠を抱えて作業している。
と、その何気ない情景に顔がついついほころぶ。
「みんな一生懸命働いてるんだよね。顔が生き生きして見えるのが私にとってはうれしい。ありがとうランド」
「いいんだ」
リットもムスッとするのを止め農夫たちを見ている。
少しは領民も豊かになったんだよね。誰も道端に転がっていない。やせ細っていない。心なしか笑顔が見える領民たち。私がやってきたことはちゃんと繋がっていたんだ。
「お嬢、よかったな」
「うん」
リットもランドも、そして固まっていたユーリもみんなで笑い合った。
二時間ほどガタゴトと馬車に揺られながら着いた場所は、ミトン村とかレンモ村が見渡せる小さい丘の上。
「う~ん! 気持ちいい~」
丘に吹き上がる軽風が心地いい。後ろ手は岩が目立つ山々で麓は樹木で覆われた暗い森だった。
「いい場所だろ? ほら村の向こうに城も見える。それに、この木だ。今は葉の季節だがお嬢様の好きなチェリーの木なんだ」
と、ランドが指差した木を見上げる。高さが優に三メートルはある古木だ。
「すごいね。こんなに大きなチェリーがあるんだ。これって千年以上はあるのかな?」
「どうだろう。まぁ、こんなに大きくて古い木なんだからあるんじゃね?」
「でも、よくこんな場所を見つけたねランド?」
「あぁ、アークに教えてもらったんだ。あの洞窟の石探しの時に見つけたらしい」
みんなでピクニックの荷解きをし、ユーリと敷物を広げた時だった。
「へぇ~、あの時ね… … ん?」
『… シ …… … ジェ…』
葉が擦れる音で少し聞こえにくい。でも何か聞こえたような…
「どうした?」
リットが席に着く前に籠から鶏揚げをつまみながら聞いてくる。
「いや、何か聞こえたような…」
と、ユーリとロッシーニも耳を澄ませる。リットとランドは周囲を警戒して武器に手を置いている。
「何も聞こえませんが?」
「はい、私もです」
「空耳かなぁ? まっいっか。ユーリ、お腹が空いちゃったし早めのお昼にしない?」
「ふふふ、お嬢様ったら。ではご用意しますね」
ユーリとロッシーニがカトラリーを出していると
『ジェ …… シー… わ… だ』
やっぱり何か聞こえる。今度は無言で皆に手を上げて合図する。『うん』とうなづいた私に皆が警戒体制に入った。
「誰?」
『ジェシ… 我… …ランド だ』
? 誰だ? ~ランド。目の前のランドじゃないし… ~ランド、~ランド…
「あぁわかった! グランド様だ!」
『そうだ。やっとか』
と、声が頭の中に響いた途端、森の中から疾風が吹き込んできて私たちの視界を遮る。しばらくすると風が止んだので、顔の前の両腕を解く。と、敷物の上にぬいぐるみのようなかわいい恐竜がちょこんと座っていた。
「お前はついて来なくてよかったのに。せっかくのお嬢様の休みが台無しだ」
ランドは足を組み窓の外を見ながら愚痴を吐く。
「嫌ならお前が帰ればいい」
と、リットも足を組んで反対の窓の外を見ながら言う。
「…」
「…」
車内はし~んと静かになりガタゴトと馬車の進む音だけが聞こえる。嫌だな~、今から楽しいピクニックなのに。はぁ。
「きょ、今日は馬車なんだね。久しぶりで楽しいな~。なんて、ね? ユーリ」
びくっとしたユーリは前の二人を盗み見してからコソコソと私に返す。
「止めてくださいお嬢様。私はまだ死にたくない… 今日はユーリは無視でいいです。居ないものと思ってください」
「はぁ? 裏切る気? ちょっ、お話ししようよ、ユーリちゃん」
と、ユーリの腕をつかんで揺らすがユーリも窓の外を見て、かたくなにこっちへ振り向いてくれない。
「…」
長い沈黙。でも、馬車はどんどん目的地へ近づいている。こんな調子じゃピクニック、楽しめないじゃん。
「あのさ~、リットとランド。久しぶりのお出かけなんだし二人共ツンケンしないで」
バッと勢いよく私を見る二人は何故か息が合っている。
「こいつが!」
「こいつが!」
グルルーと野獣の喉を鳴らすかのように一瞬睨み合ったが、すぐに逆方向へ顔を背けた。
「はぁ~。せっかくのピクニックなんだから仲良くしてよ。こんな事なら二人以外を連れて来るんだった」
と、私は大きなため息混じりに二人をにらんだら、バツが悪そうにやっと謝ってきた。
「すまない。自分で誘っておきながら、嫌な態度をとってしまった」
「悪かった… 俺だけ除け者になりそうだったからムカついて」
「いいわ。じゃぁ、この瞬間から仲良くしてよ。はい、握手」
「…」
「…」
無言でそろっと軽く握手をする。途端にランドは切り替えたのか笑顔で話しかけてきた。
「それよりお嬢様、今日は転移で行かないのが不思議じゃないか?」
「そうね、なぜ?」
「ゆっくりと外を眺めるのもいいかと思ってな。普段の領民の暮らしぶりが見えるだろう?」
そっと窓の外を見ると、ちょうど畑仕事をしている人たちが見えた。あれは何を収穫しているのかな? 夫婦とおじいさん、そして子供が二人。家族全員で籠を抱えて作業している。
と、その何気ない情景に顔がついついほころぶ。
「みんな一生懸命働いてるんだよね。顔が生き生きして見えるのが私にとってはうれしい。ありがとうランド」
「いいんだ」
リットもムスッとするのを止め農夫たちを見ている。
少しは領民も豊かになったんだよね。誰も道端に転がっていない。やせ細っていない。心なしか笑顔が見える領民たち。私がやってきたことはちゃんと繋がっていたんだ。
「お嬢、よかったな」
「うん」
リットもランドも、そして固まっていたユーリもみんなで笑い合った。
二時間ほどガタゴトと馬車に揺られながら着いた場所は、ミトン村とかレンモ村が見渡せる小さい丘の上。
「う~ん! 気持ちいい~」
丘に吹き上がる軽風が心地いい。後ろ手は岩が目立つ山々で麓は樹木で覆われた暗い森だった。
「いい場所だろ? ほら村の向こうに城も見える。それに、この木だ。今は葉の季節だがお嬢様の好きなチェリーの木なんだ」
と、ランドが指差した木を見上げる。高さが優に三メートルはある古木だ。
「すごいね。こんなに大きなチェリーがあるんだ。これって千年以上はあるのかな?」
「どうだろう。まぁ、こんなに大きくて古い木なんだからあるんじゃね?」
「でも、よくこんな場所を見つけたねランド?」
「あぁ、アークに教えてもらったんだ。あの洞窟の石探しの時に見つけたらしい」
みんなでピクニックの荷解きをし、ユーリと敷物を広げた時だった。
「へぇ~、あの時ね… … ん?」
『… シ …… … ジェ…』
葉が擦れる音で少し聞こえにくい。でも何か聞こえたような…
「どうした?」
リットが席に着く前に籠から鶏揚げをつまみながら聞いてくる。
「いや、何か聞こえたような…」
と、ユーリとロッシーニも耳を澄ませる。リットとランドは周囲を警戒して武器に手を置いている。
「何も聞こえませんが?」
「はい、私もです」
「空耳かなぁ? まっいっか。ユーリ、お腹が空いちゃったし早めのお昼にしない?」
「ふふふ、お嬢様ったら。ではご用意しますね」
ユーリとロッシーニがカトラリーを出していると
『ジェ …… シー… わ… だ』
やっぱり何か聞こえる。今度は無言で皆に手を上げて合図する。『うん』とうなづいた私に皆が警戒体制に入った。
「誰?」
『ジェシ… 我… …ランド だ』
? 誰だ? ~ランド。目の前のランドじゃないし… ~ランド、~ランド…
「あぁわかった! グランド様だ!」
『そうだ。やっとか』
と、声が頭の中に響いた途端、森の中から疾風が吹き込んできて私たちの視界を遮る。しばらくすると風が止んだので、顔の前の両腕を解く。と、敷物の上にぬいぐるみのようなかわいい恐竜がちょこんと座っていた。
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