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2章 魔法使いとストッカー

65 相談

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「どうぞ」

 と、教会からユーリが出てきて案内をしてくれた。通されたのは食堂らしき質素な一室だった。部屋にはローラが立っていた。席を引かれて私が座ったらドアが閉められた。

「で? どうしたの?」

 机の向かいで立ったままのローラは周りの側近たちを気にしつつも話し始めた。

「お嬢様の紹介で働き始めた工房なんだけど、あの乗り物、スルーボードってお嬢様の発案でしょ?」

 あぁ~。ローラも前世があったんだったね。

「そうよ。前世であった物だけど、それが何か?」

 ちょっとだけ低い声になってしまった。しまったな。

「違うの、パクリとかってどうでもいいんだけど、あれを応用して車椅子を作ったんだ。足の不自由な子がいてさ」

「へぇ~、すごいわね」

「でさ、ここで相談なんだけど、その足の不自由な子。その子は片足がないのよ。で、義足って言うの? あれをどうにか作れないかなって」

 義足?

「… 私には知識がないわね。前世で人体模型をみたことはあるけど、何となくしか関節としかわからないし、う~ん、義足ねぇ」

「私さ、テレビで見た事あるんだ。ほら、パラリンピックの特集で、病院の技師とか大学の教授の話とかを思い出してさ。どうにかなんないかな?」

「どうにかって。う~ん。本物の骨の標本とかないし… それにこっちって魔法のおかげで医療技術があまり発達してないんじゃない?」

「そこなんだよね。誰に聞いてもこの領には医者がいないって言うしさ。この先、どう展開すればいいのかわからないんだ」

 痛いとこを突かれたな。そう、まだ医者は勧誘できていない。王都の屋敷にはいるんだけどね。

「まぁ、医者は置いておいて。義足って言っても筋肉とか神経とか… どんな感じで考えているの?」

「私は前世で兄妹の世話をしていたんだけど、その時、近所のお姉さんにバービー人形をもらってさ。お古だからよく壊れて、妹のために直してたりしてたんだ。だから、あの人形みたいな足とか作れないかな~って。でも、実際動かすとなると、こっちは電気とか科学技術がないじゃない? どう言う技がいるのかわからないけど、魔法で何とかならないかなってさ」

「魔法か。それで私に相談なのね… あ~、ついでにロダンもだったのか、なるほどね」

「そうそう! あの執事片腕じゃん? 色々協力して欲しくてさ」

 『ごほん』と大きい咳払いでロッシーニがローラをにらむ。

「… すみません。タメ口になってしまって」

「いいわ。この場限りで許します。私も口調が崩れていたし」

 ローラは一息ついてから手に持っていた大きな紙を机に広げた。

「お嬢様、これ見て。その子のまだある足を書き写したの。んで、こんな感じで、指とか関節とか書いてみた」

 ふむふむ。棒の両先にボールがついているような足の軸に、靴のような足先を繋げている。接続面は丸いボールを包むように穴が空いた所に入れている。

「これは、足首がぐるぐる回るように丸くしたの?」

「うん。でもさ、使っていくと擦り切れて外れそうなんだよね」

「まぁ、それは追々でいいわよ。よく思いついたわね」

「要は支えられればいいじゃん。走るとかは無理でも、歩くだけでも出来たらいいと思って」

「そうね… 魔法か… う~ん」

 悩んでいる私を見ながらローラがいきなり礼をする。

「お嬢様、この領に連れて来てくれてありがとう。罪人の私を普通に扱ってくれたのはここだけだった。仕事もくれて住むところも… 以前の暮らしに比べたら天と地ほどあるかもしれないけど、私は貧乏には慣れてるし、むしろ色々揃ってるから何不自由なく暮らせてる」

「そう」

「本当に感謝してる。ありがとうジェシカお嬢様。だから、私はここの人たちのために何かしたいんだ」

 ピンクちゃん、人が変わったみたい。根は真面目なのか、苦労したからこそなのか。いい子なんだね。

「いいのよ。実はあなたを頼まれた時、ちょっと煩わしかったの。でも私とあなたは縁があったのね。今の前向きなあなたは好きよ」

「ははは、煩わしって言う普通。あはは」

「ふふふ」

 もう一度、私はローラが書いた紙を見る。

「素材は?」

「今の所は木で考えてる。肉や皮ふの代わりに布を被せてもいいかも。あっ、そうだ! ゴムってないのこの世界?」

「無い。と思うわ。詳しく調べてないからわからないけど、私は無いと聞いたわ」

「そっか…」

 いや、待てよ。前世のゴムって、天然樹脂であったんじゃなかったっけ? ゴムの木。

「待って。ゴムの件はちょっと待って。前世でゴムの木ってあったような。こっちにもあるか調べてみるわ」

「ゴムの木? 枝とかがふにゃふにゃなの?」

「違う違う。木の樹液を取り出して固まったらゴムのようになるの」

「へぇ~」

 と感心しているローラの後ろでロッシーニが時計を取り出して私に目配せする。

「ローラ、今日はこれでいいかしら? 時間みたい」

「あっ。はい。今日はありがとうございました」

「あと、次に会うまでにこれを作れる?」

「簡単な試作品ていどなら。そうだなぁ、一ヶ月ください」

「では、出来上がったら城の門番に言付けて。すぐには無理でも時間を作ってこっちに帰ってくるわ」

「あ~そっか学校かぁ。そう言えば対抗戦の時期か…」

 ちょっと遠い目で学校を懐かしんでいるローラだけど、特に感情は乗ってなさそうだ。もう過去は吹っ切ってるんだね。こうして思いもよらない相談話はあっさりと終わった。
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