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2章 魔法使いとストッカー

64 お嬢

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 一時の広場に比べるとスルーボードで遊んでいる子供が減っていたが、領民たちが集う憩いの場には、色とりどりの花や飛沫をあげる噴水、ベンチで休んでいる老夫婦…

「本当に… どんどん領が、みんなが元気になるのがわかるってこんなにもうれしいなんて」

 私がスルーボードを停めて感動していると、そこかしらから声がかかる。

「あ~! お嬢だ!」
「本当だ! お嬢!」

 あっという間に子供たちに囲まれてしまった。

「久しぶりねみんな。元気にしてた?」

「「「うん!」」

「あのね、あのね、僕、もう字が全部書けるんだよ」
「私はね、本が読めるんだ。一冊全部読めるの」
「俺は、これで回れるんだぜ、ほら!」

 と、内の一人がスルーボードを傾け、車輪一つでその場でクルッと回った。

「お~!!! すごい! 君が自分で考えたの?」

「へへ~ん」

 と、胸を張ってドヤをする少年。そして、少年の周りには目を輝かせて尊敬の眼差しを向けているその他の子供たち。

「何いばってるんだよ。それはお姉ちゃんが教えてくれたんだろ?」

「ばっか! し~。でも、これが出来るのは俺だけだし、俺の技だ!」

 途端に、ポカポカと突き合いが始まったので『は~』と言いながらもリットが首元をつかんで仲裁する。

「まぁまぁ、仲良くしよう、ね? でも、君もすごいけど、お姉さんもすごいね」

 そんな話をしていたら、広場の向こう側から少女が声を上げて走ってきた。

「ビリー、ジミー、帰るよ!」

 さっきまでケンカをしていた少年たちが少女の声に反応し、振り返り手を振っている。
 ん? あれは… と私と側近たちが気がついたと同時に少女に指を差される。

「あー!!! あんた! やっと帰ってきた!」

 さっと私の前に出たのはロッシーニ。アークはいつの間にか影に入ってるし。ユーリは後ろで警戒している。リットも鞘に手を置いて身構えている。

「ねぇねぇ!」

 と近づいてくるピンクちゃんことローラにロッシーニがバサッと立ち塞がる。

「おい、お前。不敬である」

 『あっ』と顔をした後、笑顔のローラは一変してさっとその場で礼をした。

「失礼しましたお嬢様。今お時間いただいてもいいですか?」

 リットに目配せしたら『うん』とうなづいたが、ユーリがローラに近づき身体検査を始めた。

「え? 何? どこ触ってるのよ」

 しばらくなされるがままのローラは諦めたのか『どうぞ』って感じで両手を横に伸ばしている。

「リット様、武器はございません。あと領民手形を確認済みです。問題ないかと」

 と、ユーリがリットに小声で報告している。リットがロッシーニに合図すると、ロッシーニが私の前から横にずれる。

「ローラ、お久しぶりね。城の者からも聞いたけど私とロダンを探してるとか?」

「あぁ… お嬢様。相談したいことがあって」

「私じゃなきゃダメなの? 役所の人とか他の大人は?」

「お嬢様じゃなきゃダメです」

「そう…」

 困ったな。今から遊びたいのに。どうしようかな~とロッシーニを見る。

「ふ~、お前。教会へ一時間後にお嬢様をお連れする。その時に話を聞こう」

 不機嫌そうにローラをにらむロッシーニ。をにらみ返すローラ。ははは、性格は変わらないか。

「… わかりました」

「ユーリ、この者と一緒に教会へ。お嬢様が場所にするんだ」

「かしこまりました」

 そうしてローラはユーリと少年を引き連れて帰っていった。アークはお城に伝言に向かい、ガヤガヤとまた子供たちに囲まれ、私はリットとスルーボードで遊び始めた。
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