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2章 魔法使いとストッカー

62 ちょっと領地へ

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「ジェシー、婚約式以来ね。あったみたいだけど、本当に体調は大丈夫なのかしら?」

 笑顔満点のアンジェお姉様が私に優しく話しかけてくれる。余程、ロンテーヌ領に行けるのがうれしいのか、馬車の中でアンジェお姉様は、キャッキャとお兄様を余所にはしゃいでいる。

「ありがとうございます。体調は大丈夫。でも、お姉様はいいんですか? 王都の方が何かと華やかですよ?」

「いいの。私はオシャレとか社交に重きを置いていないから。カイ様もそれでいいとおっしゃってくれておりますし。それより、カイ様の故郷を早く見てみたいのです」

 と、顔を赤らめたお姉様をデレデレと見つめるお兄様…。うぇ~、身内のイチャイチャって、結構キビシイな、寒気が…。

「それはそれは、ごちそうさまです。あっ! お姉様。いつか差し上げたスカーフはお持ちになりましたか?」

「えぇ、そう言付かったから。特別な何かがあるの?」

「ふふふ、それは着いてからのお楽しみですよ」

「ふふふ、そうなの? あ~、私、本当に幸せだわ。隣にはカイ様、そして目の前にはカワイイ妹。もうこれ以上の幸せってないんじゃないかしら?」

「ですって、お兄様。これからはもっとたくさんありますよ? ねぇ、お兄様?」

「ん?」

 と、お兄様はお姉様を見つめるのに忙しかったのか、話を全然聞いていない。

「もう、お兄様。お姉様が『今以上の幸せはあるのかしら?』っておっしゃってるわよ。あるじゃない、もっと幸せが!」

「ん~、何だ? 俺も思いつかないなぁ。こんなに心満ちた日々は久しぶりで俺も今絶頂だな」

 お兄様とお姉様はイチャイチャと指を絡ませ、ニタニタしている。はいはいはい、仲良しでいいですね~。

「お二人共… イチャイチャは二人の時にでもして下さい。居心地が… その調子ならお子様も早そうですね?」

「な!」
「きゃっ! ジェシーったら!」

 言わなきゃよかった。真っ赤なお兄様とお姉様は、私が目の前にいるのにさっき以上に盛り上がっている。

 はぁぁぁ、と窓の外を見て気分を紛らわすか… 砂糖たっぷりのラブラブ劇場を直視できない。

 王都門を後にして一時間ほど過ぎた頃、木々が立つ小さな林に馬車が停車した。コンコンコン。

「ご主人様、準備はよろしいでしょうか?」

「あぁ、入っていいぞ」

 ランドが一礼して入ってくる。私の横に座ると、お姉様に自分の特化を話し出した。

「奥様、これより私の特化で領地へお連れします。絶対におどろいて手を離さないようにお願いします」

「わかったわ。あなたの事は事前に聞いておりますし、契約も済ませております。よろしくね」

 『うん』と頷きお兄様に合図したランドと私たちは手を繋ぎ、一瞬でロンテーヌ領に飛んだ。


 同じような馬車の中に転移したので、あまり変化はないが確かに我が愛する領だ。窓から見える城がもう懐かしい。

「あ、あの~。本当に移動しましたの? 何だか…」

「あはは、もう領だよ。でも少し待ってくれるか? 諸々を転移させるのに時間がかかる。もう少しここで待機だ」

「わかりました。ジェシー、いっぱい遊びましょうね?」

「えぇ! でも、私はすぐに学校が始まっちゃいますけど…」

 なぜか『え?』っとびっくりしたお姉様はお兄様を見る。お兄様は少し苦笑いだ。

「詳細はロダンから聞いてくれ。ジェシーは少し遅れての登校になるだろう」

「!!! 何で? 今、問題って抱えてないですよね? 闇子以外に何かあったかな?」

「まぁ、ロダンから聞け。俺とアンジェはしばらく二人で過ごすからな。邪魔するなよ! お前も好きなように過ごすといい。ただし、発明は禁止な」

「… わかりました~。って、そりゃ~好きにしますけど… え~、何で~。学校行きたい~。対抗戦があるのに~」

 よしよしと頭を撫でるお兄様。頭撫でてもらうの久しぶりだな。ウフフ。

「もちろん対抗戦はみんなで応援に行くよ」

「やったー! 対抗戦に参加できるならいいです。絶対ですよ! お姉様も来てくださいね!」

 ふふふ、うんうんと二人は私に優しく微笑んでくれた。
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