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2章 魔法使いとストッカー

50 内緒の訪問者

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「リット様、少しよろしいでしょうか?」

 ドアの外からケイトが声をかけてきた。
 ランドとリット、私、ドア近くのアークが目配せをしてドアの外の様子を探る。ランドは私の横に、アークは私の影に潜む。リットは剣に手をかけながら、声色はいつものテンション、陽気な感じで返事を返した。

「どうしたケイト?」

「お客様がいらっしゃっております。ご主人様とロダン様が了承済みの方です」

「わかった。少しお待ち頂いてくれ。俺が外に出る」

「かしこまりました」

 私は不安でランドを盗み見るが、ランドは周囲に気を飛ばしているのか顔がちょっと怖い。

 しばらくして、リットとケイト、お客様が入室してきた。

「げっ」

「何だ~ひと言目がそれか?」

「いえ失礼しました。この様な粗末な部屋で申し訳ございません。ようこそお越し下さいました」

「よいよい。で? 座っても?」

「どうぞおかけになって下さいませ」

 そう、お客様達とは、いつもの三人組だった。

「本日はおめでとう、ジェシカ」

「ありがとうございます。兄の為に足を運んでいただきまして。ロンテーヌを代表しお礼を申し上げます」

 スッとカーテシーをして頭を垂れる。

「硬いな。いつもの感じはどうした? それより今日も私はアダムの侍者だからな、気軽に頼む」

 と、言われても私は魔法が使えない上、ここは防犯的に… 式のせいでお客様が多いし… ロダンは何を考えいるんだろう?

「… はい」

「ん? 本当にどうしたんだジェシカ? 熱があると聞いたが? 体が辛いのか?」

 今度はアダム様だ。

「ちょっと、式の準備ではしゃぎすぎたせいかもしれません」

「… まぁいい。グレン、檻を」

 ガシャン。

「で? 本当にどうしたのだ?」

 檻があるとはいえ、言ってもいいのか… う~ん。でもエド様は大丈夫だよね? ロダンもそうじゃなきゃ通さないだろうし。ケイトとリットに目配せし確認する。二人ともうんと頷いた。

「『檻』を待っていたんですよ、ふ~。では、手っ取り早くコレを見てください」

 と、私は手首を挙げて輪っかを見せた。

「「「!!!」」」

 三人はびっくりした顔で手首を見て静かになった。が、エド様が話し始める。

「またお前は… 今度は何だ?」

「わかりません。相手がわからないのです」

「でも、物理的接触をしたのだろう?」

 と、顎で手首を指す。

「まぁ…」

 なので、私は昨日の出来事を全部話して聞かせた。

「魔法が使えないだと! マーサ女史でもダメか?」

「解析に時間がかかるんですって」

「そうか。それで仮病か?」

「そんなところです」

「何て言うか、晴れの日に残念だったな。お前、楽しみにしていたのに」

「ほんとそれです。いい迷惑。でも、お兄様の大事な日ですから、今日はおとなしくしてるんです。それより、エド様はなぜここに? アダム様はお隣さんだからわかるけど」

「俺が来ては迷惑か? 王だぞ?」

「はいはい、とってもありがたいです」

「まぁまぁ、ジェシカ、エドも。今日はなグランド様の事だ」

「何か進展が?」

 アダム様は机に古い大きな革を広げた。

「これだ。あの日以降、エドが直接グランド様と何度か話してな、この魔法陣の隠し場所を教えて頂いたんだ」

 古い革に描かれた魔法陣を見た瞬間、『ヒュ』っと私の喉が鳴った。

「やはりか。わかるんだな、この古代文字が?」

「…」

 私が黙っているとエド様がニヤニヤしている。

「ジェシカ、協力してくれないか? 国のためだ」

 アダム様はじっと私を見る。横ではエド様はニヤニヤ。う~うっとうしいな。

「で、でも。国からの要請ならルーベン様を通して下さい。私の後見人なのをお忘れですか?」

「ルーベンも国の最重要人物だぞ、つまりはあいつも国のためだと判断すれば頷くさ。それに、私の私室の弁償は?」

「あ、あれは問題ないはずです! そうよねケイト?」

 ケイトはビクッとなったが、小さな声で答えてくれた。急にふってごめん。

「それは… お嬢様の借り・・で方がついたと、ロダン様が…」

「ほら! でも何で私が古代語が読めると思ったんですか?」

「グランド様がな、ジェシカに見せるといいとおっしゃったんだ。これはグランド様の案件だ」

 グランド様!!! もう! こんな時に…

「え~国より上の方じゃない! どうしたらいいの… ランド、ロダンは?」

「今、アークが呼びに行きました。もう少しだけ待って下さい」

 ニヤニヤエド様はさらにニヤリとして

「少しは考える様になったんだな。ジェシカがエサを前に暴走しないとは。その魔法封じが相当効いたのか? いつものお前なら飛びついただろうに。あはは」

 うっさいよ。そうだよ。誰でも慎重になるよ。
 『何でもかんでも首を突っ込まない、常に人に対して警戒する事』って何百回とロダンに言わされたんだよ!

「昨日の事で少々説教されまして。ってエド様、少しだけ待って下さいね、うちの参謀がもうすぐ来ますので」

「王に待てと言うのはお前ぐらいだぞ。なぁに、愛しいお前の頼みだいつまでも待ってやるよ。なぁ、お前ら?」

 私の後ろで警護に立っているリットとランドに嫌な笑顔を送るエド様。心なしか冷気が…
 もー勘弁してよ。
 エド様は余程部屋を壊されたのが癇に障ったのか、直接的にリットとランドをおちょくっている。

 コンコンコン。返事を待たずにロダンが入ってきた。

「お待たせしました。今度は何用でしょうか? ご挨拶だけと伺ったはずですが?」

「挨拶だけで王がここまで来はせぬ。これだ」

 と、エド様は机を指差した。ロダンは気が立っているリットとランドを見て目で諌めたのち、机を見た。

「はー… これはこれは。お嬢様、ルーベン様の名は出されたのですか?」

「それより上のグランド様からのご指名だって、私に。どうしたらいい?」

「ちなみにお嬢様はコレが何かわかるのですか?」

 私はうんと頷く。厳重に保管されていたせいか文字もはっきりしているし、崩れ文字でもない。
 ロダンは少し考えてから、アダム様に進言する。

「対価は賢者の日記です。いかがでしょう?」

 お~!!!! ナイス! ロダン! こんな状況でよく思い出した! 流石!

「賢者? 千年前の魔法使いか?」

「そうです。王家か国宝の中に個人的な日記、もしくは何らかの手記があるでしょう?」

 エド様とアダム様はこしょこしょと内緒話をしてからうんと頷いた。

「やったぁ!!!!」

 思わず声が出た私をロダンは目で射殺す。こ、怖い。

「失礼しました」

 シュンとなる私と反対に、アダム様はホクホク顔だ。ん? ここまでがもしかして想定済みなの? 何だか思う壺のような…

「ははは、ジェシカ。本音が出たな? で? 時間はどのぐらい必要だ?」

「う~… そうだなぁ余裕を持たせて… 一週間下さい。どうせヒマですし」

「い、一週間! そんなに早く。よろしい、ジェシカの希望の品も用意しておこう」

 こうしてアダム様一行、もとい、エド様一行は機嫌良く帰って行った。
 エド様 VS リットとランドと言う変な構図ができたのはアレだけど…

 よ~し! これでヒマつぶしも見つけたし、なんせ待望の古代文字だよ! しゃー!

「お嬢様、私がいる所で作業をして頂きますので悪しからず」

 と、喜びのガッツポーズを握りしめる私の横を、ロダンは涼しい顔で古代魔法陣の革を丸めてさっさと持って出て行った。
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