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2章 魔法使いとストッカー

11 ピンクちゃんの秘密

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「ジェシカ、今日の話だが。。。まだ時間は大丈夫か?」
アダム様は時間を気にしている。通常お茶会は長くても2時間程度だ。

「ええ。お兄様に断りを入れますわ。何なら夕食もご一緒しますか?」
ま~この3人は無理だろうけど、一応誘ってみる。

「あぁ、そうしたいのは山々なんだが庶務が残っている。私はもう直ぐ下がるよ」
と、エド様はもうすぐ帰る事を宣言してくれた。

ほっ。これでちょっとはお兄様達もヤキモキしないだろう。

「そうですか。。。残念です」

「ちっとは顔だけでも残念そうにしろ!」
エド様は笑って突っ込んでくる。

「では、本来の本題に入りますね。アダム様、第二王子は今現在どんな感じですか?」
私は第二王子から話を持っていく事にした。

「ん?ジョージ様か?どうって。。。具体的に言ってくれ」
アダム様は多分見当がついているだろうけど、私に話の主導権を譲ってくれた。

「では、失礼して。。。エド様、心して聞いて下さい。恐らくそちらの暗部の者からは聞き及んでいるでしょうけど。。。第二王子は現在、婚約者候補がいるのにも関わらず、オーロラ・ボード男爵令嬢と仲が良く学校でも噂で持ちきりです」

「ほぉ。まさかそれだけじゃないよな?で?」
エド様はやっぱり知っていた。結構余裕な顔でしたり顔だ。

「それで、その2人とエルメダ様が廊下で言い合いになっているのを、偶然目撃したのですが、その際に『眼』を発動させたんです。そうしたら、男爵令嬢。。。今後はピンクちゃんと言いますね。ピンクの髪色なので。ごほん、そのピンクちゃんに特化があり、それが『魅了』と書かれていました」

「「。。。」」
エド様とアダム様は予想外だったのか、唖然としている。

「おかしいと思いませんか?いくらちょっと抜けている第二王子でも、廊下の往来で、男爵令嬢とイチャイチャしながら公爵令嬢を諌めるなんて。。。そしてそれを当たり前のように見学している野次馬貴族達。。。『魅了』は危険なように感じます。今はまだ学校の域を出ていないので問題はありませんが。。。」

ここまで言ったらもう大丈夫かな?エド様は即対応してくれるよね?

「そう来たか。。。てっきり、エルメダ様絡みで『もうちょっと教育したら?』程度かと思っていた」
アダム様はこう言いつつ顔は険しい。エド様は案の定、思考の旅へ出ている。

「1週間しか学校へ行っていない私でもちょっとおかしいなと思うレベルの第二王子って。。。放置し過ぎでは?ま~、これはいいです。それより『魅了』です。能力によっては国を転覆しかねません」

「なぜだ?心理系の特化だからか?しかし、あの第二王子だぞ?使いようがあるまい?」
アダム様は腕を組んで考えながら私に答えてくれる。

「結構な能力だと思いますよ。侮れないです。もし、心を操作するような物なら、卒業後、第二王子をダシにして社交界で闊歩されれば、国の重鎮と接触されますよ?」

「。。。そうだな。。。まず『魅了』だが、ジェシカはどう見ている?」
アダム様は私の意見を聞いてくれるみたい。

「そうですね。。。以前申し上げた通り、異なる世界には魔法がないのですが、小説の中では存在していました。想像の域ですが。。。そこで『魅了』が出てくるお話がたくさんありました。色々種類はあるのですが、一番多いのは恋愛物で『貧しい下位貴族の令嬢が魅了を駆使して王子様や高位令息達を複数虜にする』と言った類です」

「ははは。小説にしては好き者だな。その主人公は。高位令息を侍らせるのか?」

「はい。女性の憧れの塊です。『見目麗しく権力もある男共に一遍に愛されたい』的な。。。ははは。これは、人それぞれ好みも分かれますよ。私は一途な恋愛物が好きでした」

「そうか。。。そのピンクはどんな者か接触はしたか?」

「いえ。。。廊下でぶつかった事はあります。しかし、その時妙な事を口走っていました」
そうだよ!忘れてたよ!これも気になる要素だよね。

「何だ?廊下で令嬢がぶつかったりするのか?」
アダム様は想像がつかないのだろう。。。そうだよね、普通令嬢は廊下を走らないもんね。

「ま~、それは置いておいて、ピンクちゃんはぶつかった時に『何だモブか』と言ったのです」

「???モブ?何だそれは?」

「それが。。。」
私はロダンを見る。このこと言うの忘れてた。。。後で怒られるな~。ロダンはほっそい目で私を見ている。。。怖い。

「それは、先ほど言った異なる世界の小説で出てくる登場人物を表す言葉で、主人公や小説の話に関係ない『通りすがりの一般人』『背景』『その他大勢の1人』と言った立ち位置です。要は何者でもない者です」

「。。。『モブ』と言う言葉はここにはない。。。そうか、そう言う事か」
アダム様は合点がいったようで、エド様を見る。

エド様はまだ険しい顔で考えている。どうする?このピンクちゃん?

「わかった。。。ジェシカ。よく報告してくれた。手遅れにならなくて良かった。接触してピンクの目的を知りたいところだが。。。」
エド様は今後の方向をもう決めたようだ。顔がいささかキリッとしているが、スッキリもしている。

「それで、お願いなんですが、直ぐにでもエルメダ様を『候補』から外して下さい。王族には下位からお断りが出来ませんから。ま~、ご存知でしょうけど、エルメダ様は第二王子を微塵も好きではないと思いますよ。もし、ピンクちゃんをどうこうするなら、その前に開放してあげて下さい」

私はエド様に礼をしてお願いする。関係ないっちゃ~関係ないけど、知った以上はまだ16歳の少女だ。変な傷を残してやりたくない。

「あぁ、それはその様にする。ロスト公爵に借りを作りたくないしな」
アダム様は問題ないと言い切った。

良かった~。明日、エルメダ様とお茶会だしね。気を使わなくて済む。私事だけど。

「他はないか?ジョージの事で」

「あぁ。。これもご存知でしょうけど、レクリエーション2日目の昼食会です。あれは。。。私達子供ですけど、第二王子の礼儀は最悪です。本人は満足そうでしたがね。何がしたかったのか。。。意味不明です。ピンクちゃんの『魅了』が関係していればまだ救いはありますが。。。あれで、操作されていないのなら、王族としては不合格ですね。早く降下するなり、再教育するなりした方がいいですよ」

「そこまでか。。。具体的に聞いても?」
アダム様は詳細は知らないのかな?

「まず、召集がその日の朝思いついたらしいです。私に話が来たのは昼食時です。あとは、21領主の全員を呼んでおきながら、公爵位としか会話をされませんでした。最後に、退出です。ピンクちゃんに呼ばれて、皆を帰さずにデザートの途中で席を外して去って行きました」
私は紅茶を飲んで一息つく。。。あの時の事を言葉にしたけど、やっぱりお粗末だ。

「そうか。詳細が聞けて良かったよ。エド、まずは『魅了』だな。同時に第二王子の隔離だ」

「そうだな。。。ジェシカ、ありがとう。まだ間に合うかは微妙だが、ジョージをどうにかしてみるよ」
エド様は深いため息をついてソファーに仰向けになる。

「エド様。。。ご苦労様です」
一気に老けたエド様にかける言葉が見つからない。不憫だ。

「あぁ。私はわかってはいるが父親としては不合格だ。。。子育てを失敗した」
エド様は仰向けになって手で目を抑えている。。。ご愁傷様。

「ええ。失敗ですね。。。でも、王族です。それでは済まされませんので、先の例もありますし。。。ちゃんとして下さいね」

「こら、ジェシカ。言わずともわかっている」
と、アダム様はエド様をかばう。

そりゃ~そうだろうけど。。。釘は刺した方がいいよね。確実を求めるなら。

「失礼しました。ちゃんと言葉にして苦言を言った方がいいと思いまして」
私はエド様を見る。まだ、目を抑えて考えて?いる。

「わかった。。。私はこれで失礼する。思わぬ収穫であった。ジェシカ、また会おう。ちゃんと連絡して来い。手紙が来ないとこちらからは動けない。じゃないと、またお忍びで来るからな」
エド様はニヤッと、いつもの顔つきに戻っている。さすが、切り替え早いな。

「はい。早々に手紙をしたためます」

エド様はまたかつらを被り、グレン様と帰って行った。

「。。。アダム様はまだいらっしゃいますか?」

「私が居てはいけないのか?確か、お誘いを受けたはずだったが?」
しれっと嫌味を言ってお茶を飲むアダム様。

「おほほほほ。私とした事が。。。では、ちょっと失礼します。ロダン、ケイトを呼んで来て。あと、ランドとリットも」
私は、グレン様が居なくなったので、警護要員と侍女を呼ぶ。

ロダンは了解とばかりに、テラス入り口へ指示を出しに行く。すぐに全員揃うかな?

「アダム様。失礼します」
私は、一応断りを入れてから『檻』を発動した。

「。。。」
アダム様は一瞬放心状態になった。

「私の『檻』は半径2mの円状で効果は1時間が限界です。アダム様の警備が心許ないので、勝手に発動させました」

「わかった。。。まだ、内密の話があるのだな?」

「はい」

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