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1章 ロンテーヌ兄妹

73 襲撃

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<ロック爺目線です>

工場の領民学校の見学を終えた私はお嬢様と城へ向かっていた。お嬢様はブツブツと相変わらず、考え事をしながら歩いているのでおっかない。

「お嬢様。前を見んと危ないですよ」
『ええ』と、お嬢様は空返事だ。

このままじゃぁ、危ないのでいつでも支えられるように半歩後ろに下がって歩く。

「グッ」
左足に激痛が走る。その場に膝をついて倒れてしまった。足を見ると、後ろの太ももにナイフが刺さっていた。

その瞬間、お嬢様の元に黒いローブの3名が駆け寄って、お嬢様を眠らせた。

激痛に悶えながら騎士に声をかける。
「おい!騎士様!」

騎士はガサガサっとした音で気付いていたようで、1人と対戦中だ。1人がお嬢様を抱きかかえるともう1人が応戦しに行った。

「グハッ。おじょう。。さ。。。」
2人に囲まれた騎士は胸をひと突きされ、その場で絶命してしまった。

なんと。。。まだ、若いのに。。。それよりもお嬢様が。。。

痛む足を抑えるがどんどん血が出てきている。体が熱い。

黒いフードの一人が私に近づいて来てこう言った。

「お嬢さんを恨みな。高位の貴族に狙われたのが運の尽きだな。爺さん、せっかく長生きしたのに残念だったな」
と、そいつは私の足に刺さっているナイフを足でさらに押し込んだ。

「がぁぁぁぁぁぁぁああ。」

ひゃっひゃっひゃ。あははははは。と笑いながら去って行く。

倒れ込んだ私は必死にそいつらの行方を確認する。

太陽の差す方向のあの木の下へ向かっている。。。馬があったのか。。。気が付かなんだな。。。失敗した。油断をしてしもうた。

うっすらと記憶が飛んでしまい、私はその場で気を失ってしまった。



「はっ!」
あれから何分経った?気絶したのか?しまった。

辺りを見渡せば、まだ黒いフード達の足跡が残っている。数分か数十秒か。いや、それぐらいならまだ間に合う。

私は足の後ろ、深く刺さったナイフを確認する。最後のトドメのおかげで血が止まっている。

よし、まだ間に合う。私は必死に足を引きずって城へと急いだ。



「きゃ~!」
ケイトの大声がエントランスに響き渡る。

「ケ。。。ケイト、リット様とランド様を!」

「でも、傷を早く。。。」

「アホ!お嬢様がいないじゃろ!」

『あっ!』とケイトは真っ青になって走って行った。

早く来てくれ。城に着いて安心したのか傷口がドクドクと脈打つ。脂汗もどっと出てきた。冷たいエントランスの床に頬を付けなんとか意識を保つ。

しばらくしてリット様とランド様が到着した。

「お嬢は?」

「く。。。黒い。。ローブの3。。。人組。ナイフ。。。太陽の方向。。。木。の下。。。。馬で逃げた。。。上位貴族。。。と言った。。騎士が。ひ。。。一人。。んだ。」
私はこれだけ言うと意識を失った。


次に目が覚めたのは4日後、見た事のない部屋のベットの上だった。脇にはロダンがうつ伏せで寝ている。

「っ!」
足がまだ痛む。なぜロダンがこっちにいる?

「父上。目が覚めましたか。。。医者を呼んでまいります。お待ち下さい」
ロダンはそれだけ言って部屋を出て行った。

お嬢様は無事なのか?

コンコンコン。部屋へ入って来たのは医者だけだった。

「峠は越したようですね。しばらくは安静です。痛み止めの薬草を煎じておきます。あと、2週間ほどですかな。動けるようになれば、教会へ行って下さい。馬車で移動は困難でしょうが、早めに行く事をお勧めします。そこで治癒魔法を施してもらえば完治するでしょう。ナイフが深く刺さっていたおかげで、血を失わずにすみました。では」
と、医者はそう言うと薬を飲ませ出て行った。

医者?と言う事は王都の屋敷か?ロダンはなぜ来ん?

。。。薬が効いたのか、体力がないのか。。。ウトウトしてそのまままた眠ってしまった。



<ここからジェシカに戻ります>

眠ってしまったのね。。。うつらうつら意識がはっきりしてきた。体は何ともないわ。。。ってことは薬で眠らされた?

どこかしら。ガタゴトと揺れるけど、すごく狭いわね。。。箱の中かしら?

私は、棺桶?みたいな箱の中に寝かされている。

それにしても、しくじった。でも、私がなぜ領にいる事がバレたのか。しかも工場へ行く事とか。姿を見てないけど誰だろう。事業絡み?まさかの王子様絡み?

は~。助かるのかな。。。今頃、騎士様かロック爺が知らせてくれてたらいいんだけどな。。。

ガタガタ。急に怖くなる。震えが止まらない。もしこのまま助からなかったら?怖い。


ガタゴトしていたのが止まる。

止まった?こっちに来るかな?寝たふりした方がいい?どうしよう。。。ドキドキドキドキ。

女性の小さな声が聞こえる。
「いいわ。ご苦労様。荷車から下ろして。報酬はこれよ」

「ぐはっ」「騙したな!」ガヤガヤと3分ぐらいしたら音が鳴り止んだ。

「開けて」
その女性が指示すると私の目の前の板が外される。

月を背にして立っている女性はローブを着ていたが、フードからはみ出した水色の髪が少し風に揺れていた。

「起きているのでしょう?ジェシカ様。起き上がってこちらへ来て下さい」
はっきりとした声が私に向かってくる。

バレてるよ。腹を決めますか!女は度胸よ!

私はまだドキドキして、少し手が震えるけど、目を見開きバッと立ち上がる。

そこは、どこかの森の中で馬車の前にその女性と5人のローブの人がいた。足元には3人の遺体。

「初めまして。私が誰だかわかるかしら?」
ローブのフードを外したご令嬢は私に微笑みながら近づいてくる。

「申し訳ございません。わかりかねます」

「そうよね。あなたとは初めてですものね。では、この方はわかるかしら?」
後ろにいたローブの一番小さい人がそっとフードを外した。

「!!!フェルミーナ様!?」
私は驚きで指をさしてしまった。。。

「あはは。そうよ。当たり!じゃぁ、私は自己紹介をするわ。私はアメリア・ベントン。第1騎士団副団長の娘よ。これで少しはわかったかしら?」

副団長の娘。。。あっ!リットの事が好きな突撃お嬢様!

「その顔はわかったみたいね。じゃぁ、今の状況はわかるわね。私達はあなたが邪魔なの。死んでくれる?」
フェルミーナ様は、キョトンと首を傾ける。姿はかわいい。超絶可愛い。。。のにセリフが恐ろしい。

何か言わなきゃ、このままじゃダメだ。

「あ、あの、なぜ私は死ぬのでしょう?何かお二人にしましたでしょうか?確かにあなた方の思い人は我が領の使用人ですが。。。」

「あははは。ケンカ売ってるの?使用人ですって?リット様は騎士団4席まで上り詰めた方なのよ。それを、たかがド田舎の芋くさい令嬢の所で護衛をしなくちゃいけないのよ。どうせ、サボン姫とか言われてチヤホヤされて、あなた頭がおかしくなってるのね。お金でリット様を買うなんて!バカじゃないの?」

サボン姫はあんまりうれしくないあだ名だな。。。てか、嫉妬ですか?は~。

「ランド様もお金で誘ったのでしょう。あの容姿であの魔力。王族直属の魔法使いなのよ!そんな方がド田舎になんか行く理由がないもの。あっ、そうだわ。アメリア!ちょっとこの子の手の平に傷を付けてくれない?」
フェルミーナ様は何か楽しい事を思いついたみたいで、キャッキャッとはしゃいでいる。。。見た目はかわいいのに。。。

「あぁ~。フェルミーナ様も意地悪ですね。ひと思いに切り捨てればいいものを」
と、言いながら顔がニタついているアメリア様。。。あんたも楽しんでるじゃん。

『シュッ』
と、小さなナイフで細い線が一筋ついた。あれ?痛くないよ?ん?

「サボン姫、手を貸しなさい」
と、フェルミーナ様に無理やり引っ張られ手を重ねられた。

フェルミーナ様がボソッと何かを言うと、手がだんだん熱くなっていく。どんどんどんどん熱くなっていって、その部分が痛くなってきた。次は内側から痛みが溢れて出てくる。

「いやぁ”ーーーーー」
言葉にならない痛みが手の平を襲う。恐る恐る手を見ると手が腐ったようにジュクジュクとただれていた。

「っっっ!!!」

何これ!腐ってる。こんな魔法があるの?痛い痛い痛い。

「私はねぇ、特化の『癒』つまり治癒魔法が使えるの。この銀髪でわかるでしょう?あなたには特別のものをプレゼントしたわ。ふふふふふ」
あはははは。いい気味とアメリア様も笑っている。

ん?治癒魔法じゃないよね?これは腐らせてるじゃん。

「あぁ。あなたまだ学生じゃないのよね。知らないか。。。一部の者しか知らないけど、フェルミーナ様は治癒魔法の逆が使えるの。傷を促進させるの。つまり傷を悪化させて腐らせる事ができるのよ。どうせ殺すなら全身腐らせて見るに耐えない姿にしてやりましょうか?ねぇ?フェルミーナ様。あははははははは」

。。。全身腐らせるとか。マジ勘弁。

「こんな事をしても、ランドとリットは王都へ帰らないと思うけど?」

『パシン』
思いっきり頬を平手打ちされる。あーあ。。。逆撫でしてしまったか。

「呼び捨てにするな!お前ごときが!」

そこかよ!と、心中でつっこむ。アメリア様は手の平をぎゅっと押さえてきた。

「がぁぁあああ」
私は激痛に悶え転がり、のたうち回る。

「あはははは。お似合いね、その姿」
と、今度はフェルミーナ様が私のお腹を思いっきり蹴った。

「ガハッ」
口から血が混じったツバが出る。

それから数分はリンチのように蹴られ続けた。も~早く終わって。。。痛い。。痛い。

『バン!!!』
と、大きな音がして蹴りがなくなった。丸くなっていた私を誰かが抱きかかえる。

「嫌、離して。もう、止めて。いっその事殺しなさいよ!」
と、私は最後の力を振り絞って、抱き上げた相手を殴ってしまった。

必死だった私は目をつむっていたが、何もリアクションがないのが不思議で、そろっと目を開ける。

と、それは頬を赤くした泣きそうな目のリットだった。

私は思わず涙が溢れ、叫んで、抱きつく。
「うわ~~~~~~ん。リット。怖かったよ~~~」

よしよしとリットは私をポンポンしてくれる。ランドも来てくれた。横に寄り添って私の手を握ってくれる。

「痛っ。そこは止めて。痛いから」
ランドは目を見開き、手の平を確認する。

「「。。。」」

二人の殺気が鋭くなり、辺りの空気が一瞬で変わった。

ランドは無言のままリットに目で合図し、私はランドに手渡された。すぐさま、ランドは私を抱いて王都屋敷へ転移する。


「な!何じゃ?」
寝巻き姿のお爺様だ。

「ご主人様。お嬢様が大怪我をされました。全身傷だらけです。まずは手の平の確認を!一刻を争います。教会の大司教へ見せて下さい。それは治癒魔法の逆、腐っております。今も進行中です。よろしくお願いいたします。私とリットは賊を捕まえに行きます」

お爺様の部屋へ転移をしたランドは、お爺様のベットに私を寝かせると、早口でお爺様に状況を説明し、すぐまた転移した。

「おい!ロダン!ミラン!エリ!至急儂の部屋へ来い!」
と、お爺様は部屋のドアを開け屋敷が揺れるくらいの大きな声で叫んだ。

すぐロダンが駆けつけ、私を見ると悲壮な顔をした。さっと諸々の指示を出す。

私は力を振り絞り声に出す。

「お爺様。リットとランドを罰っしないで。悪いのは王女様方よ」
そう言うと、目の前が暗くなり私は気絶した。

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