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1章 ロンテーヌ兄妹
日記 ミランの1日
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私は朝からソワソワしている。お嬢様がもうすぐ王都へやって来る。
実にお会いするのは5ヶ月ぶりだ。手紙ではやり取りはあったのだが、やはり『生』のお嬢様は、私を一番ワクワクさせてくれるのだ。私は朝から、報告したい事をまとめた資料を手に取って何度も確認している。
あの事件の後、お嬢様は少しづつ少しづつ笑顔を取り戻し、領へ帰って行った小さな小さな後ろ姿をまだ覚えている。
あれからもっと元気になられたのだろうか?あの笑顔が戻ったのだろうか?あの『ねぇねぇミラン、私イイ事思いついちゃった~!』が復活したのだろうか?手紙ではわからなかった心配事が、今日やっとわかる。
ガヤガヤとお嬢様の部屋が騒がしくなった。
来た!!!
私は大急ぎで使用人達を裏方へ回す。家令夫妻にお嬢様が来た事をお伝えして、エントランスへ急いで向かった。
「お嬢様。お久しぶりです」
私はニコニコ笑顔で出迎えた。
「あら!ミラン久しぶりね。今日はこのままお店に行くわ」
満面の笑顔のお嬢様がそこに立っていた。光り輝いている。
「かしこまりました。馬車の用意は既に出来ております。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
私は一礼すると、兄さんと目を合わせる。
「夕方には王都を立つ。応接室にお茶の用意をしておいてくれ。店の滞在予定は2時間程だ」
兄さんは軽く指示を出して、一行は早々に出発して行った。
さぁさぁ、今日は昼食後に話を思いっきりするぞ! まずは、応接室を整えるか。
「クリス様、私はこれより応接室を整えます。本日は侍者や侍女を極力少なくしておりますので、ご不便をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
「あぁ。よいよい。儂は今まで自分で何でもして来たんじゃ。気にならん。それより、お嬢様の為に今日は十分尽くすように」
クリス様夫妻はそう言って食堂へ向かって行った。
私はホッと一安心し、ちょっと早いが応接室へ向かう。
それから1時間もしない内に、馬車の従者が玄関脇のドアを開けお嬢様のお帰りを告げる。
早くないか?!側にいた侍女にクリス様夫妻を呼びに行かせる。
「ミラン!何事なの?また事故とかじゃなければイイのだけれど。。。」
スーザン夫人は少し青い顔でオロオロしている。
「わかりかねます。。。しかし、落ち着いて下さい。笑顔でお願いします」
私は、不安げな家令夫妻を落ち着かせて、出迎えのスタンバイをしてもらう。
スーザン夫人はスッと顔を満面の笑みに変えた。
「恐れ入りました」
私は一礼してお詫びした。
「何て事はない。年の功じゃ」
クリス様も既にニコニコ顔になっている。先ほどのオロオロが嘘のように無くなっている。
しばらくしてドアが開き、一行が帰って来た。侍女に目配せをして、応接室のお茶の手配を指示する。
お嬢様は???
笑顔だ。。。良かった。
それからエントランスで少し話した後、それぞれが動き出す。私は兄をチラッと見てから資料を取りに部屋ヘ向かった。
応接室では、スーザン夫人とお嬢様がほほほ、うふふと紅茶を飲んでくつろいでいた。
応接室の前には、学校が休みのグレゴリー殿が護衛に立つ。私は一声かけ部屋の中へ入ると、エリとロッシーニが部屋の隅で待機しているのを確認し、お茶の用意をしていた侍女を下がらせた。
「お嬢様。お店はいかがでしたか?ナダル夫妻は上機嫌だったでしょう?」
「ええ。お店が繁盛しているみたいで、嬉しそうだったわ。今日はロダンに用事ができたみたいで、早く切り上げて来たの。今度、また近い内にお店に行きたいわ」
お嬢様はニコニコ笑顔でお店の話をしてくれる。
「かしこまりました。ロダンと日程を調整します。スーザン夫人、これからお嬢様とお話ししますが一緒に聞かれますか?」
夫人はう~んと考えてから、
「そうね。ぜひご一緒させて下さいな」
「ええ。夫人もどうぞ」
お嬢様が笑顔で承諾すると、夫人はウィンクしながらお嬢様にお小言を言う。
「夫人ではありませんよ。スーザンです。私には敬称や敬語は必要ありません。ね!」
「ふふふ。そうね。スーザン」
お嬢様はハニカミながら夫人を『スーザン』と呼ぶ。
くっ。。。かわいい。。。
いかん、いかん。私は頭をブルブルさせ話を戻す。
「では、お嬢様が私に聞きたい事はございませんか?」
「そうね~。まずは、この5ヶ月の店の収支の資料とお客様の声かしら?」
「収支ですか?お嬢様が?」
スーザン夫人がびっくりした顔で口を挟む。
「ええ。お店の、商品の手応えを確認したいの」
お嬢様はなんて事ない風にさらっと答える。
「お嬢様。少しスーザン様に説明してもよろしいでしょうか?」
私はお嬢様に了承を得てからスーザン様に話し出す。
「我が領の商品の全てはお嬢様の発想が原点です。お嬢様が発案者なのはご存知ですね?お嬢様は、発案だけで止まらず、商品の売れ行きや販売のコツなど、時々アイデアを出してくれるのです。お手紙でも大まかには説明していますが、収支や売買に関しては手紙に書けませんからね。お気になっているのでしょう。それに、お嬢様は驚くほど数字に強いので、専門の資料でもよく理解されていますし、領主様より許可は得ています。問題ございません」
スーザン様は口をあんぐり開け、資料を見ているお嬢様を見る。
「。。。そうなのね。失礼しました。例にない事でしたので、びっくりいたしました。わかりました。今後は考えを改めます。しかし、一言だけ」
スーザン様はお嬢様に優しく諭すように話しかける。
「領以外では決してこのような話はしてはいけません。恐らく言われているでしょうけど、お嬢様、お気を付けなさいませ」
「ええ。ありがとうスーザン」
笑顔でお嬢様はスーザン様に返事をする。
スーザン様はまた目を丸くしてお嬢様に苦言する。
「私に、いえ、使用人に『ありがとう』は必要ございませんよ」
「あぁ。。。私は思ったように『ありがとう』は言うようにしているの。目立つ事はしないから、そこだけは許してちょうだい。直す気はないわ」
「そうですか。。。わかりました。差し出がましい口を聞きました」
「いいのよ。私の為に言ってくれてるのはわかるから。スーザンはこれからもアドバイスはしてね。私は、そこら辺が他のお嬢様とは少し感覚が違うみたいで。。。ケイトやエリに聞いてくれるといいわ」
スーザン様に笑顔で答えたお嬢様はまた資料に目を戻す。
スーザン夫人は呆気にとられていたが、私に目配せしエリの方へ向かって行った。
「ねぇ、このテーヌの売り上げだけど、少し数字が大きくない?単価は領と違うのかしら?」
「あぁ、それはですね。デリアがセット売りを始めまして。ガウチョやスカーフを2枚セットにして、一枚づつ買うよりセットの方を少し値引きをしています。トップはシンプルな白や灰色、紺などが人気ですので1枚2枚買えばあまり売れないのですよ。ですので、下履きとスカーフでバリエーションを広げればと考えたようです。そちらの方が色が色々ありますから売れているようですね」
「そうなのね。。。セット売りか。デリアやるわね。スカーフも2枚一度に手に入れば、差し替えるだけでも印象は変わるものね」
「では、このサボンの数字は?もしかして端っこのやつかしら?」
「そうです。平民の者にはサボンは未だ高価ですから。端っこの形が悪い物や小さい物を安値で販売しております。お嬢様が領でされているのを真似たみたいですよ」
「そう。少しでも、こちらの平民にも浸透するとうれしいわ。じゃぁ、今の主な客層は下位の貴族かしら?」
「はい。その通りです。下位貴族と平民の裕福な者です。商人が主ですね」
『ふ~ん』と、また違う資料に手を伸ばす。お嬢様は資料に目を通しながら屋敷の事を聞いて来た。
料理人のミラーの近況や、新しく入った護衛、侍女、メイドの様子はスーザン様が張り切って教育しているとお伝えした。資料に目を通しながらも、お嬢様は楽しげに聞いてくれる。
「ケビンを憶えていらっしゃいますか? 私の元部下で同じ頃にこちらへ来た者ですが。現在、ケビンが王都店の経理を担当しています。私は監督と雑務をしていますので、詳細をご希望でしたらケビンを呼びますが?」
「いえ、いいの。この資料はよくできているわ。ケビンにお礼を言っておいてちょうだい」
「かしこまりました」
私は一礼してお嬢様が資料を見終わるのを待つ。
スーザン様はエリに一通りお嬢様について聞いたようで、ソファーに座りなおし、お嬢様を見ながら紅茶を飲んでいる。
こうして改めて見ると、お嬢様は事件以前にほぼ戻ったようだ。こうして、いつものように話ができたのが今日はこの上なくうれしい。
コンコンコン。一礼して入室して来たのは兄さんだった。
「お嬢様、失礼します。この後、皆様と昼食の後本日は帰領となります」
お嬢様は資料から目を離すとびっくりして兄さんを見る。
「えっ!そんなに早く?何かあったの?」
兄さんは少しだけ間を空けた後、正直に答えた。
「はい。第一王子様にお嬢様の位置がバレた可能性があります。あくまで可能性ですが。。。念には念を入れて。申し訳ございません」
ふ~っと肩の力を抜かし、残念そうにお嬢様は私を見る。
「いいの、謝らないで。しょうがないわ。。。ミラン、もっともっと話したかったけど、また今度ね」
「いえいえ。お嬢様の御身が優先です。しかし、次の機会にはぜひ新しい思いつきがあればじっくり話しましょう!」
私はこれでもかという笑顔でお嬢様を見た。
「ふふふ。ミランはブレないわね」
お嬢様が笑っている。よしっ!!!
しかし。。。第一王子め。なんだあいつは。保証が頭に入っていないのか? 兄さんをチラッと見たが無表情だ。。。いや、あれは、ちょっとイラついているな。
ま~、それはさておき、後残り少ない時間を目一杯お嬢様と話してみせる!
それからの時間は、お嬢様と私とスーザン様で商品についてあーでもないこーでもないと、談笑しながら楽しい時間が過ぎた。
今度はいつになるのか。。。今後のスケジュールを頭の中で算段する。
今日の私はニヤニヤが止まらない。
実にお会いするのは5ヶ月ぶりだ。手紙ではやり取りはあったのだが、やはり『生』のお嬢様は、私を一番ワクワクさせてくれるのだ。私は朝から、報告したい事をまとめた資料を手に取って何度も確認している。
あの事件の後、お嬢様は少しづつ少しづつ笑顔を取り戻し、領へ帰って行った小さな小さな後ろ姿をまだ覚えている。
あれからもっと元気になられたのだろうか?あの笑顔が戻ったのだろうか?あの『ねぇねぇミラン、私イイ事思いついちゃった~!』が復活したのだろうか?手紙ではわからなかった心配事が、今日やっとわかる。
ガヤガヤとお嬢様の部屋が騒がしくなった。
来た!!!
私は大急ぎで使用人達を裏方へ回す。家令夫妻にお嬢様が来た事をお伝えして、エントランスへ急いで向かった。
「お嬢様。お久しぶりです」
私はニコニコ笑顔で出迎えた。
「あら!ミラン久しぶりね。今日はこのままお店に行くわ」
満面の笑顔のお嬢様がそこに立っていた。光り輝いている。
「かしこまりました。馬車の用意は既に出来ております。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
私は一礼すると、兄さんと目を合わせる。
「夕方には王都を立つ。応接室にお茶の用意をしておいてくれ。店の滞在予定は2時間程だ」
兄さんは軽く指示を出して、一行は早々に出発して行った。
さぁさぁ、今日は昼食後に話を思いっきりするぞ! まずは、応接室を整えるか。
「クリス様、私はこれより応接室を整えます。本日は侍者や侍女を極力少なくしておりますので、ご不便をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
「あぁ。よいよい。儂は今まで自分で何でもして来たんじゃ。気にならん。それより、お嬢様の為に今日は十分尽くすように」
クリス様夫妻はそう言って食堂へ向かって行った。
私はホッと一安心し、ちょっと早いが応接室へ向かう。
それから1時間もしない内に、馬車の従者が玄関脇のドアを開けお嬢様のお帰りを告げる。
早くないか?!側にいた侍女にクリス様夫妻を呼びに行かせる。
「ミラン!何事なの?また事故とかじゃなければイイのだけれど。。。」
スーザン夫人は少し青い顔でオロオロしている。
「わかりかねます。。。しかし、落ち着いて下さい。笑顔でお願いします」
私は、不安げな家令夫妻を落ち着かせて、出迎えのスタンバイをしてもらう。
スーザン夫人はスッと顔を満面の笑みに変えた。
「恐れ入りました」
私は一礼してお詫びした。
「何て事はない。年の功じゃ」
クリス様も既にニコニコ顔になっている。先ほどのオロオロが嘘のように無くなっている。
しばらくしてドアが開き、一行が帰って来た。侍女に目配せをして、応接室のお茶の手配を指示する。
お嬢様は???
笑顔だ。。。良かった。
それからエントランスで少し話した後、それぞれが動き出す。私は兄をチラッと見てから資料を取りに部屋ヘ向かった。
応接室では、スーザン夫人とお嬢様がほほほ、うふふと紅茶を飲んでくつろいでいた。
応接室の前には、学校が休みのグレゴリー殿が護衛に立つ。私は一声かけ部屋の中へ入ると、エリとロッシーニが部屋の隅で待機しているのを確認し、お茶の用意をしていた侍女を下がらせた。
「お嬢様。お店はいかがでしたか?ナダル夫妻は上機嫌だったでしょう?」
「ええ。お店が繁盛しているみたいで、嬉しそうだったわ。今日はロダンに用事ができたみたいで、早く切り上げて来たの。今度、また近い内にお店に行きたいわ」
お嬢様はニコニコ笑顔でお店の話をしてくれる。
「かしこまりました。ロダンと日程を調整します。スーザン夫人、これからお嬢様とお話ししますが一緒に聞かれますか?」
夫人はう~んと考えてから、
「そうね。ぜひご一緒させて下さいな」
「ええ。夫人もどうぞ」
お嬢様が笑顔で承諾すると、夫人はウィンクしながらお嬢様にお小言を言う。
「夫人ではありませんよ。スーザンです。私には敬称や敬語は必要ありません。ね!」
「ふふふ。そうね。スーザン」
お嬢様はハニカミながら夫人を『スーザン』と呼ぶ。
くっ。。。かわいい。。。
いかん、いかん。私は頭をブルブルさせ話を戻す。
「では、お嬢様が私に聞きたい事はございませんか?」
「そうね~。まずは、この5ヶ月の店の収支の資料とお客様の声かしら?」
「収支ですか?お嬢様が?」
スーザン夫人がびっくりした顔で口を挟む。
「ええ。お店の、商品の手応えを確認したいの」
お嬢様はなんて事ない風にさらっと答える。
「お嬢様。少しスーザン様に説明してもよろしいでしょうか?」
私はお嬢様に了承を得てからスーザン様に話し出す。
「我が領の商品の全てはお嬢様の発想が原点です。お嬢様が発案者なのはご存知ですね?お嬢様は、発案だけで止まらず、商品の売れ行きや販売のコツなど、時々アイデアを出してくれるのです。お手紙でも大まかには説明していますが、収支や売買に関しては手紙に書けませんからね。お気になっているのでしょう。それに、お嬢様は驚くほど数字に強いので、専門の資料でもよく理解されていますし、領主様より許可は得ています。問題ございません」
スーザン様は口をあんぐり開け、資料を見ているお嬢様を見る。
「。。。そうなのね。失礼しました。例にない事でしたので、びっくりいたしました。わかりました。今後は考えを改めます。しかし、一言だけ」
スーザン様はお嬢様に優しく諭すように話しかける。
「領以外では決してこのような話はしてはいけません。恐らく言われているでしょうけど、お嬢様、お気を付けなさいませ」
「ええ。ありがとうスーザン」
笑顔でお嬢様はスーザン様に返事をする。
スーザン様はまた目を丸くしてお嬢様に苦言する。
「私に、いえ、使用人に『ありがとう』は必要ございませんよ」
「あぁ。。。私は思ったように『ありがとう』は言うようにしているの。目立つ事はしないから、そこだけは許してちょうだい。直す気はないわ」
「そうですか。。。わかりました。差し出がましい口を聞きました」
「いいのよ。私の為に言ってくれてるのはわかるから。スーザンはこれからもアドバイスはしてね。私は、そこら辺が他のお嬢様とは少し感覚が違うみたいで。。。ケイトやエリに聞いてくれるといいわ」
スーザン様に笑顔で答えたお嬢様はまた資料に目を戻す。
スーザン夫人は呆気にとられていたが、私に目配せしエリの方へ向かって行った。
「ねぇ、このテーヌの売り上げだけど、少し数字が大きくない?単価は領と違うのかしら?」
「あぁ、それはですね。デリアがセット売りを始めまして。ガウチョやスカーフを2枚セットにして、一枚づつ買うよりセットの方を少し値引きをしています。トップはシンプルな白や灰色、紺などが人気ですので1枚2枚買えばあまり売れないのですよ。ですので、下履きとスカーフでバリエーションを広げればと考えたようです。そちらの方が色が色々ありますから売れているようですね」
「そうなのね。。。セット売りか。デリアやるわね。スカーフも2枚一度に手に入れば、差し替えるだけでも印象は変わるものね」
「では、このサボンの数字は?もしかして端っこのやつかしら?」
「そうです。平民の者にはサボンは未だ高価ですから。端っこの形が悪い物や小さい物を安値で販売しております。お嬢様が領でされているのを真似たみたいですよ」
「そう。少しでも、こちらの平民にも浸透するとうれしいわ。じゃぁ、今の主な客層は下位の貴族かしら?」
「はい。その通りです。下位貴族と平民の裕福な者です。商人が主ですね」
『ふ~ん』と、また違う資料に手を伸ばす。お嬢様は資料に目を通しながら屋敷の事を聞いて来た。
料理人のミラーの近況や、新しく入った護衛、侍女、メイドの様子はスーザン様が張り切って教育しているとお伝えした。資料に目を通しながらも、お嬢様は楽しげに聞いてくれる。
「ケビンを憶えていらっしゃいますか? 私の元部下で同じ頃にこちらへ来た者ですが。現在、ケビンが王都店の経理を担当しています。私は監督と雑務をしていますので、詳細をご希望でしたらケビンを呼びますが?」
「いえ、いいの。この資料はよくできているわ。ケビンにお礼を言っておいてちょうだい」
「かしこまりました」
私は一礼してお嬢様が資料を見終わるのを待つ。
スーザン様はエリに一通りお嬢様について聞いたようで、ソファーに座りなおし、お嬢様を見ながら紅茶を飲んでいる。
こうして改めて見ると、お嬢様は事件以前にほぼ戻ったようだ。こうして、いつものように話ができたのが今日はこの上なくうれしい。
コンコンコン。一礼して入室して来たのは兄さんだった。
「お嬢様、失礼します。この後、皆様と昼食の後本日は帰領となります」
お嬢様は資料から目を離すとびっくりして兄さんを見る。
「えっ!そんなに早く?何かあったの?」
兄さんは少しだけ間を空けた後、正直に答えた。
「はい。第一王子様にお嬢様の位置がバレた可能性があります。あくまで可能性ですが。。。念には念を入れて。申し訳ございません」
ふ~っと肩の力を抜かし、残念そうにお嬢様は私を見る。
「いいの、謝らないで。しょうがないわ。。。ミラン、もっともっと話したかったけど、また今度ね」
「いえいえ。お嬢様の御身が優先です。しかし、次の機会にはぜひ新しい思いつきがあればじっくり話しましょう!」
私はこれでもかという笑顔でお嬢様を見た。
「ふふふ。ミランはブレないわね」
お嬢様が笑っている。よしっ!!!
しかし。。。第一王子め。なんだあいつは。保証が頭に入っていないのか? 兄さんをチラッと見たが無表情だ。。。いや、あれは、ちょっとイラついているな。
ま~、それはさておき、後残り少ない時間を目一杯お嬢様と話してみせる!
それからの時間は、お嬢様と私とスーザン様で商品についてあーでもないこーでもないと、談笑しながら楽しい時間が過ぎた。
今度はいつになるのか。。。今後のスケジュールを頭の中で算段する。
今日の私はニヤニヤが止まらない。
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