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1章 ロンテーヌ兄妹

日記 ロダンの1日

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今日の午前中はお嬢様と王都の店へ視察に行く。お嬢様が王都へ出られるのは5ヶ月ぶりだ。

あの事件から5ヶ月が経ったとはいえ、まだまだお嬢様の心の傷が心配である。

「ロダン!この格好でいいかしら?」

お嬢様が階段から降りて来て、私の前でヒラッと一周回る。平民用の素朴なワンピース姿だった。

「ええ。よろしいですよ。いや~、しかし、何を着てもとてもお似合いですね。お可愛らしいです」
私がニコニコとそう声をかけると、お嬢様は薄っすら頬を赤くした。

こんな言葉で赤くするなんて!なんて可愛いんだ。。。ウチのお嬢様は!

「もう!ロダンったら」
お嬢様はくねくねしながら恥ずかしがっている。

「では、参りましょうか?」

私はお嬢様をエスコートし、エントランスの小部屋へと移動する。今日はランドとエリも一緒に行く。皆で目を瞑り手を繋ぐと、王都屋敷のお嬢様の部屋へ移動した。

「本日は、王都の店の視察になっております。お嬢様には残念ですが、視察以外の王都観光は控えて頂くようにお願いいたします」

『いいわ』と素直にお嬢様は頷いてくれた。

王都屋敷から馬車で移動する事数十分。王都の店に到着した。店はまだ開店前で、『準備中』の札がかかっていた。店のドアを開け、お嬢様を中へ案内する。

「まぁぁぁぁ!お嬢様!ようこそいらっしゃいました!」
笑顔で迎えてくれたのはナダル夫妻だ。上下テーヌの服を着たデリアと、シャツにスラックスと簡易な格好のナダル。ナダルは、デリアとお揃いのスカーフをしている。

「ナダル、デリア、久しぶりね。とっても可愛いお店だわ。どう?無理はしていない?」

満面の笑みを崩さないナダルがお嬢様に返答する。
「ええ。おかげさまで、大繁盛ですよお嬢様。無理は決してしていません」

「そうです。お嬢様に心配をおかけしないのが第一の仕事と心得ています。いつもお心を砕いて頂きありがとうございます」
デリアはお嬢様の信望者だ。満面の笑顔でお嬢様の横に立ち、デリアは色々と店の説明を始めた。

「エリ、お嬢様の後ろに控えていなさい」
キョロキョロと目をキラキラさせているエリに小声で指示を飛ばす。エリは、ハッとしてお嬢様の後ろへさっと歩み寄って行った。

は~。まだまだだな。ケイトにもう少し指導させないと。。。

お嬢様は目を輝かせ、嬉しそうにデリアの説明を聞きながら店の中を歩き回っていた。

「ロダン様。少し目を通して頂きたい案件がございます。こちらを」
と、ナダルは店のカウンターへ私を誘導し、一通の手紙を見せてきた。

私はさっと目を通す。

!!!

「これは何時の話だ?」

「昨夜遅くに。。。お嬢様の行動が筒抜けなのでは?少し心配です。。。」
ナダルはしゅんとしながらお嬢様を見ている。

「。。。そうだな。。。よく知らせてくれた。今日は予定より早く切り上げる。開店前に出る事にしよう。。。。ナダル、お嬢様にお話する事は今の内に報告しておけ」

『はい』と返事をすると、ナダルは急いでお嬢様の方へ移動した。

しかし。。。解せんな。なぜ今日、お嬢様が王都に来ることがバレているのか。。。従業員や使用人が急激に増えた弊害か?いや、防音や伝達には万全の注意を払っていた。。。他に諜報員が居たという事か。。。まぁ、とにかく今は早く撤収するに限る。しかし、開店前に来たのが吉と出たな。良かった。

私は手紙を店舗裏で燃やしお嬢様の元へ戻った。

「お嬢様。申し訳ないのですが今日はこれにて終了になります」

「え~~~!何で!お客さんの顔や手応えを直に見たかったのに。。。せっかく平民の服で来たのに」
お嬢様はしゅんと項垂れている。

「申し訳ございません。急遽、私に予定が入ってしまいました」
お嬢様はちょっと恨めしそうな顔を向けたが、駄々をこねる事なくあっさり納得してくれた。

「しょうがないわね。。。絶対、また来るわ。ナダル、デリア、お店をお願いね。いつもありがとう」
私達一行はナダル夫妻に別れを告げ、足早に店を出る。

「ランド、周囲に注意してくれ。今日の王都行きが漏れている」
コソっと、店の入り口で護衛していたランドに耳打ちする。ランドは、一瞬びっくりした表情をしたが、サッと周りに気を飛ばし始めた。

「お嬢様、お店を十分にお見せ出来ず申し訳ございません。しかし、これより王都屋敷でミランとお話しをしましょう。ミランから山の様に報告があるそうですよ」
私はお嬢様の気を逸らそうとミランを餌にした。

「そうね!ミランとも話がしたかったのよ。今日は時間が余ったからいっぱい報告が聞けるわね」
ルンルンと笑顔になったお嬢様の機嫌は『ミラン』の一言で一瞬で治った。手を叩いて喜んでいる。ほっ、よかった。

「ランド、後でアークを領から連れて来てくれ」
ランドは私の小さな耳打ちに頷き、一言だけボソッと言ってくる。

「相手は?」

「第一王子だ」
私の返答に目を細めたランドは、お嬢様を一瞥した後窓の外を警戒し直す。

。。。王子にも子飼が居たのだな。。。まぁ、王族だし当たり前か。。。しかし、接近禁止令が出ているのに、反故になっているじゃないか。いくら、王子側からしたら『お忍び』だったとしても。。。王子は意味をわかっていないのか。。。王に抗議しないと。。。

そんな事を考えていたら王都屋敷に到着した。

「まぁまぁ、お早いお帰りですね」
エントランスで迎え入れてくれたのは家令のクリス殿とスーザン夫人だった。

「クリス殿、後でお話があります。お嬢様はミランと話がありますので、応接室へお願いいたします」

先触れで早く帰る事情を知らせていなかったが、私のこの一言で皆が察知し動き始める。

夫人はお嬢様とエリを笑顔で応接室へ案内している。ミランは私を見て頷くと資料や何かを取りに去って行った。クリス殿は皆を見送った後、私とテラスのソファーへ移動する。ランドはお嬢様の部屋へ向かって行った。

「どうされたのかな?」
クリス殿に席を勧められて座ると、側に仕えていた王都屋敷の侍女を下がらせる。

「ええ。本日、お嬢様が王都の店へ訪問する事が第一王子にバレていた様で、昨晩、店の方へ『お忍びで店へ行く』と伝言が来ておりました」
私は小声で話し始めた。

クリス殿は口を開けたまま一瞬惚けていたが、眉間にしわを寄せ考えだした。

「そうですか。。。本日はお嬢様が来ると言う事で、必要最小限の使用人に留めていたのですがね。。。どこから。。。私共でも調べてみます」

「いえ。恐らくですが、王族の諜報の者かと推察します。今、ランドにアークを連れに行ってもらっていますので」

「そうですか。。。第一王子はいささか。。。それほど好いているのか、阿呆なのか、それとも王族の振る舞いの範囲と許容しているのか。。。抗議しなくては。。。いくつでしたかな?」

「今年で20ですね」

クリス殿はいきなり大きな声で王子をディスり始めた。
「では、阿呆の方なのか。。。ははははは。王太子としては少々不安ですな~!」

私もニヤッと笑いクリス殿の話に乗る。
「そうですね~。あれから5ヶ月も経ったとはいえ、まだ5ヶ月です。あの事件の保証を王子は理解しているのでしょうか?それとも、お嬢様を軽く見ているのか。。。いや、我が領を、領主が若いからと軽視しているのでしょうか?」

「何れにしても、困った者ですな~。若気の至りにしては少々拙いと言いますか。初恋にしては不器用すぎませんかの?もう20でしょう?。。。いやはや、しかし王族ですしな~」

「そうですね~。自分本位の好意が暴走していますね。それで失敗した例を王族は嫌という程ご存知でしょうに」

「本当に。やはり血が繋がっている。。。いやいや、これ以上はしましょう。どこで誰が聞いているかわかりませんからな」

「そうですね。お手数ですが、王への手紙をお願いいたします」

ふぉっふぉっふぉ、ふふふふふと、我々は笑って話を終わらせた。クリス殿は私に目配せし席を立つ。

「では、私は執務室におりますので。お帰りの際に、またお声がけをお願いします。手紙は即刻したためますのでご安心を。あぁ、宰相殿にも一筆書いておきます」
と言うと、クリス殿は執務室へ下がって行った。

私はクリス殿を見送った後、先ほどからテラスの方を向いて待機しているランドとアークを手招きする。

「アーク、諜報員が王都屋敷にいるか調査してくれ。こちらが優先だ。期限は3日」
私は小さな声で命令する。アークは頷くと、周りに誰もいないのを確認して、部屋の隅に移動し影の中に消えた。

「ランド、屋敷の警備を再確認してくれ。誰に聞くのではなく、自分で見回って来るんだ。昼食を取ったらす今日は直ぐに帰る。わかったな」
ランドも一つ頷き足早に去って行く。

それにしても。。。は~っとため息しか出ない。お嬢様は今日の王都行きをすごく楽しみにしていたのだ。あのクソ王子。

王子には悪いが、これで王子の今後は決まったな。お嬢様には相応しくない。あんな事があったんだ。初めから無い話だったんだが、万一お嬢様が惚れてしまうかもしれない、0.1%の事を考えて保留にしていたのだが。。。今回で決め手になったな。王子は永遠にナシだ。どんな手を使っても阻止してやる。

私はお嬢様が居る応接室へと足を向ける。ふと廊下にあった大きな姿見が目に入った。私の左腕のジャケットが歩くリズムに乗ってひらひらと揺れている。

そう、私はあの日、この腕に、そしてクライス様に誓ったのだ。お嬢様に害になるいかなるモノを全身全霊で排除すると。


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