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1章 ロンテーヌ兄妹

89 しばしの別れ

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「どうぞ。ロンテーヌの意見も聞きましょう」
アダム様はお兄様に発言を許してくれた。

「ありがとうございます」
お兄様は目を閉じふっと息を吐く。握っている拳が微かに震えている。

「では、保証について訂正をお願いします。まず、誠にありがたいご提案ですが、騎士と魔法使いの派遣はお断り致します。我が領には領騎士が少なからずいますのでご心配には及びません」

「いや。。。しかし。これからは警備上の問題が出てくると思うぞ。今回の慰謝料だけでも賊に狙われやすいのでは?」

「ありがとうございます。しかし、問題ございません。すでに領騎士団を編成していますので、警備は万全です」
お兄様はニッコリ笑ってハッタリをかました。

まだできてないよね領騎士団。。。まだ自警団程度だよ?21領主が揃ってるから?隙を見せないように?かな。

「そうか。。。では、派遣は取り止めよう」
王様は短く返事する。

「ありがとうございます。あとは、申し上げにくい事ですが、今回の首謀者は王族です。よって、向こう5年の貴族税および領主税を免除して頂きたい。そして、全ての王族の方々には妹との接触禁止をお願いします。今回の事で、妹は王族に対し恐怖の念を覚えたせいか、少しばかり情緒が不安定になっていますので。。。恐れ多い事ですが、私共からは決して王様に謁見の申し入れをしませんので、王様からも控えて頂きたいのです。我が妹はこの4月から学校に入学でしたが、今年は入学せず領で1年ほど療養させたいと考えています」

『なんと!』『王に会いたくないだと!』とざわざわしている。王様はそんな野外の声を聞いていない。手を顎の下に持っていき思考を始めた。

「よろしいでしょうか?」
と、手を挙げたのは第一王子だった。

「それでは期間を設けてはいかがでしょうか?心の傷が癒えれば問題ないのでは?この先、夜会や社交があるのだ。21領主の娘なのだから、全く接触しないのは無理があるだろう?」

「そうですね。。。それでは、療養期間と学生の間の向こう4年は接触禁止でお願いいたします」

「しかし!。。。」
王子は喰い下がらない。

「よい。。。ロンテーヌ領領主よ、4年は少しばかり長いのではないか?そうだな、領地にて療養する間の1年間、令嬢には夜会や社交を全て免除する。謁見で呼び出したりはしない事を約束しよう。他の21領主達もそのつもりで接するように。しかし、税に関してはいささか欲張りすぎではないか?」
王様は無表情でじっとお兄様を見る。。。迫力あるな。

「私は学校を卒業したばかりです。両親は昨年事故で亡くなりました。今回の事で祖父から引き継ぎもないまま領主になりました。税金の免除は受け入れて頂きたい。新商品があるとは言え、まだまだ弱小領です。騎士と魔法使いの派遣をお断りした分多少はそちらの経費を減らせたはずです。それでもと言うのでしたら、慰謝料を減額して頂いて結構です。お願いいたします」
お兄様は強気にがんばって攻めている。拳に力が入っているよ。

「ほ~。目の前の金子にはなびかんか。。。いいだろう。そのようにしよう」
王様は即答した。

「王!しかしそれでは。。。」
アダム様が王様に苦言している。

「よい。今回、迷惑をかけたのは王族だ。面子もクソもない。出来るだけロンテーヌの意向に添う事にする」

「。。。わかりました」
アダム様は渋々納得した。

お兄様は一礼するとゆっくり席に座った。私を見て笑いながら冷んやりした手で私の手を握る。緊張したんだね。

あ~。これで決着がついたな。

ざまぁ。と言うか、何と言うか。。。みんな死刑になったんだよね。

ぼ~っと中央の罪人達を見るが『ざまぁ見ろ!』とか思わない。むしろ『死んで当たり前!』と思っている私がいる。

前世では、命を左右する様な出来事が周りでなかったし、当事者にもなった事がない。残忍なニュースはテレビ越しには見ていても、どこか違う世界の様に感じていた。今回、自分が被害者になり、被害者の家族という立場にもなった。肉親も無くしてしまった。。。しかも加害者が、知り合いの娘。。。『魔法』と言う、貴族なら誰しも使える物が、人を傷つける道具になる事を改めて認識した。。。私はどこかでこの世界が『お話の世界』と思っていたのかもしれない。軽く考えていた自分が少し情けなく思う。

落ち着いて周りを見れば、何やら考え事をしている人や、驚きで目を見開いている人、コソコソと話している人達。。。そして、ロゼ領の領主がお兄様を満足そうに見ているのが目に入る。よかった。いい方向に進みそうだ。

ロダンとイーグルも満面の笑みである。

ダンダン。木槌が鳴らされ会場は静かになる。

「では、保証の話もまとまりましたので、閉廷いたします。ロンテーヌ領領主、ならびに今回の被害者達はこの後、別室にて今回の保証についての契約書類等の説明があります。よろしくお願いいたします」
こうしてアダム様の閉廷の声で審議会は終了した。


私達はすぐに別室の応接室に招かれ、諸々の書類に何枚もサインをした。法務庁長官はお兄様と私を気遣ってくれ、手続きはスムーズに済んだ。

「関係者以外は退出しろ」
と、いつもの王様の一声で騎士や侍者達は退出する。残っているのは、王様、第一王子、アダム様、グレン様、ジェミニー様と私達だ。

グレン様は素早く『檻』を発動させた。

それを見たお兄様とイーグル様はチラッと私を見る。

私は何でもない様に前を見続ける。。。わかってるよ。二人とも。。。多分模写できたよ。この『檻』も。

「グレンの特化については魔法誓約がつくので悪しからず。今回はカイデール新領主就任おめでとう。何とも堂々としてしっかりした様だったな。今後が楽しみである」
アダム様はニコニコとお兄様の審議会での様子を褒めてくれた。

「ええ。恐れ入ります」

「今日でしばらくジェシカには会えんからな。。。すまんが少し付き合ってくれ」
王様はお兄様に一声かけ、私に向き直る。

「この度は色々とすまなかった。。。その様子では、少し落ち着いたか?」

「はい。そうですね。あれから1ヶ月弱経ちましたもの。。。お爺様の死は受け入れられました。その節はお騒がせいたしました。不問にして頂ければ幸いです」
と、私は一礼する。

「。。。普通に話してくれていい。ジェシカ。。。まだ友人と呼んでいいだろうか?」
王様はお兄様達もいるのに『友人』と口にした。ちょっと小ズルイな。

当然、お兄様とイーグル、ロダンはびっくりだ。

「。。。そんな。友人だなんて。初めてですね。友人と言ってくれたのは」

「そうだな。。。どうだ?私の事も許せないか?」

「ええ。正直複雑です。。。エド様はあの人ではないと頭ではわかっているんですが。。。親ですからね。もう少し時間を下さい」

「わかった。。。1年後に期待するよ。心を癒してくれ」
エド様はそれ以上は何も言ってこなかった。

「ジェシカ、領へ帰るんだな?また、王都へ来た時は声をかけてくれ。王都の屋敷は隣なんだ。いつでも遊びに来てくれて構わん」
アダム様ともお別れをする。

「アダム様もお元気で。あまり仕事に根を詰めてハゲませんように」
ふふふと笑ってみせる。今もハゲてないと怒られた。

「ジェシカ嬢。元気でな」
グレン様はさっぱりとした挨拶だ。

「ええ。グレン様も。たまには自領へ帰る事をお勧めしますわ」
グレン様は少し照れるようにポリポリと頭をかいた。

最後は、王子とジェミニー様だ。
「ジェシカ。。。寂しくなるよ。妹の件は早く忘れるられるよう毎日祈っている。。。しかし、4月から王都にいると思っていたから、色々と観劇などに誘いたかったんだが。療養して自分を大事にな。来年、戻って来たら私とのダンスの約束を忘れるなよ」
と、王子は私の手を取りキスをした。

「はい。。。約束ですからね。いつかまた」
と、私が返事をしている最中に、ジェミニー様は王子と私の間に無理やり入ってくる。

「あぁ。ジェシー。王都から遠い所に行くなんて。。。大聖堂で療養すればいいのではないか?私の所で心を癒せばいい。いつも側にいて慰めてあげるよ」
私は握りしめられた手をそっと外した。ちょっとだけ片方の頬がピクピクする。この人はいつでも通常運転だな。

「ほほほほほ。ジェミニー様恐れ多い事です。それに私はジェシカですよ。私は領にて家族と過ごしますのでお構いなく」

「ジェシー。ジェミだろう?次に会うまでに練習をしておく様に」
と、エフェクトかかりまくりのキラキラスマイルで私の鼻をチョンとした。

うっ。。。みんな引いてるよ。周りの空気を読んで!ジェミニー様。

「まっ、まぁ、そういう事だ。これから寂しくなるが、元気でな」
アダム様は早々にジェミニー様を離してくれ、話を切り上げてくれた。

エド様はお兄様をちょいちょいと手招きをし、コソコソ話をする。
「ジェシカ嬢の能力は最上魔法誓約で秘匿される。安心して良い。ただし、ロンテーヌ領が悪行に走った場合は、破棄する手はずになっている。その後はどうなるかわかるな?そこを忘れるな」

「心得ました」

こうして私は、エド様達としばしの別れをすることになった。

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