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1章 ロンテーヌ兄妹

88 断罪

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「えっ?私の聞き間違いかしら?もう一度言ってくれない?」

「はい。お嬢様にはリットとランドと3人で旅をしてもらいます。なに、半年ほどの間に数回だけです。旅と言っても、転移がありますので、領の部屋には毎回帰ってきます。ご不便はございませんよ」
ニコニコとロダンは言ってるけど。。。何だそれ?

「あぁ。。。そう言う事か。。。お嬢!俺達と出来るだけ特化を集める旅に出るんだよ。身を守る術を探しに行くんだ」
リットは合点がいったようだ。

「そうです。特化保持者に近づいて頂きます。護衛にはランドとリットです。保持者の位置はアークに捜査させています。模写する能力も身を守る系統を選んでいますから、野蛮な事にはなりませんよ。全ての特化保持者に会うわけではございません。大丈夫です」

そうなの?

「わかったわ。自分の為だもんね」

「はい。ご理解頂きありがとうございます。これで、お嬢様も自分に自信がつくでしょう。幾分か心の平穏を取り戻せると思います」
あぁ、ロダンは私の為に考えてくれたのね。ありがたい。

「ありがとう。出来るだけがんばるわ」

「無理はしないようにな!気分が乗らない時は休んでいいからな」
お兄様は出来たらでいいと言ってくれる。

「ええ。何だか、ワクワクしてきたわ。いろんな場所に行けるのね!色んな領の特産品を食べたてみたいわ」
私はちょっとテンション高くなってきた。

「ははは。いつものジェシーに戻ってきたな。その分じゃ、大丈夫そうだな。旅で息抜きをして来い」
お兄様は一先ず安心したと頭をなでてくれる。

ひゃっほい!楽しみになってきたよ~。



~*~*~*~*~

「皆、忙しい中、よく集まってくれた。これから審議会を始める」
アダム様の一声で審議会が始まった。

今回は裁判所のような会議室で行われている。部屋の両サイドの長椅子には21領主と宰相アダム様、第一騎士団長グレン様、大司教ジェミニー様が一同に並び、中央の奥の席には王様、王妃様、第一王子、第二王子の4人が座っている。私たちは、入り口付近の、王様達の対面、被害者席に座っている。メンバーは、お兄様、私、ロダン、イーグル。護衛として両サイドにランドとリットが立っている。部屋の中心は広場になっている。

「では。私、法務庁長官コックウェルが今回の事件の経緯をお話しします。ご静聴下さい。
 事の発端は、王国第二王女フェルミーナ様がこの事件の前の不祥事で男爵に降下された事が原因です。逆恨みした王女はロンテーヌ領へ報復をしました。その際、ロンテーヌ領領主クライス殿が死亡しております。また、協力者として王国王妃ケリー様、元第一騎士団副団長ザクウェル・ベントン子爵、ロックウェル領領主テリード殿を確認しています。協力者は中央へ」

ケリー王妃はまさか呼ばれると思っていなかった様子で、椅子からガタッと立ち上がりオロオロしている。後ろに控えていた騎士がケリー王妃を中央へ連行して行く。横のドアからは口枷をした縄にかけられているテリード様とザクウェル様が連れられてきた。

「ちょっと、待って。えっ!なぜ?私は王妃よ。国の母よ。王族は裁かれないはずよ!」

「静かにして下さい。この3人はそれぞれに罪状が違います。まず、王妃ケリー様は王女を軟禁していた王族専用の塔から連れ出した逃亡幇助ホウジョの罪。次にベントン子爵は、その塔を警備していた騎士3名を殺害した殺人罪と逃亡幇助の罪。テリード殿は王女が逃亡した後、匿い援助した逃走援助罪、さらにはその後、ロンテーヌ領領主を殺害したので殺人罪です」

ざわざわと議会が騒ぐ。お爺様を刺したのはロックウェルだったのね。。。

「すでに刑は確定しております。首謀者である王女は事件時点では、手続きの関係上男爵位にはなっていませんでしたが、上位貴族への殺人未遂罪と逃亡罪、塔の部屋で監視していた騎士の殺人罪が重なり、刑を執行する前日に男爵位に降下。すでに男爵として死刑を執行されております」

「何ですって!私のフェルミーナが。。。あぁぁぁぁ。。。あの子は死んでしまった。。。なぜなの?エドワード様!なぜ!」
ケリー様は大きな声をあげ王様に抗議を始める。

「静かに。ケリー様に口枷を。王様、失礼しました」
法務庁長官は騎士に命じてケリー王妃の口を塞ぐ。

「では、次はこの3名の罪状です。ケリー王妃は王様と離縁し元の爵位へ降下、その上で重罪者用の牢へ禁固20年。ベントン子爵は死刑。本家のベントン領領主は監督責任として罰金5千万D。最後に、テリード殿はロックウェル領領主でもあります。本人は死刑。次代は分家から領主を選ぶように。分家が継ぐ場合、罰金1億D。もし分家で適当な男子がいない場合や放棄をする場合は、ロックウェル家は取り潰しになり、残る一族は男爵位に降下、領地からは転居する事。その代わり罰金は支払わなくてよろしい。代わりの領主は国が別に指定します。ここまでで、意義のある方は?」
と、21領主達を見渡す。

「はい。メンデル領領主のクックです。そもそもなぜ今回、ロンテーヌ領領主は狙われたのでしょうか?」

「はい。それぞれ理由は違いますが、発端は今回の事件の前の事件につながります。何とも稚拙な理由なのですが。。。元王女が好きになった相手が魔法省を辞め、ロンテーヌ領に再就職したのが始まりです。元王女はロンテーヌ領からその相手を引き離そうと、一番弱そうな令嬢に目を付け、新年のデビュタント待機中に一方的に口撃、その際は宰相様が間に入りましたが、その後令嬢が療養中の所を襲撃しました。その時に共謀した者がベントン子爵の娘です。この件については非公式に審議が行われ、それぞれ刑が執行されています。その後、元王女は受けた刑に納得がいかず、またしても同じ令嬢を逆恨みします。この令嬢は全くの部外者です。前回の事件以前も元王女とは全く面識がありませんでした」

『かわいそうに』『最近勢いがあったからな。。。』など、ひそひそ話が聞こえる。

「ここで、ケリー王妃、いえ元王妃ですね。軟禁されている娘を不憫に思い、ベントン子爵をそそのかします。『手伝ってくれたら、王妃の権限で、前回娘のせいで受けた刑をなくし、騎士団に返り咲くように働きかける』と。そして、ベントン子爵はその案に乗り、元王女を塔から逃亡をさせました。あとは、元王妃の愛人であるランドール領主の弟、ランドール侯爵の手引きによりテリード殿が協力者として引き合わされます。テリード殿の共謀理由は、この侯爵に借金があり首が回らない。つい最近、妹の嫁ぎ先のロンテーヌ領に、金子の催促をしたが断られたばかりで恨みを募らせていた。ここでも『借金をチャラにしてやる』と、そそのかされています。加えて、本人からは『領主が死ねば、子供しかいない領だ。俺が後見人になってロンテーヌ領を好きに出来ると思った。王女は小娘を狙っていたが真っ先にクライスに近づいた』と自ら白状しています。そして、今回襲撃時に使った魔法もクライス殿を刺したのもテリード殿です」

。。。

会場はし~んと静まり返り、21領主達は事の発端があまりにも幼稚な事に呆れている。襲撃の内容も内容だ。。。こんな事でお爺様を亡くしてしまったのかと、お兄様と私に哀れみの目が一斉に向けられた。

「そうですか。。。ロンテーヌ領のご令嬢は病弱とも噂されていますし。。。災難でしたね。して、ランドール侯爵家の罪状は?」

「はい。そそのかし逃亡者を引き渡しただけですが、結果として人が死んでいます。ですので侯爵家は罰金3千万D。侯爵の弟は禁固3年です」
一人の領主がガクンと首をうなだれた。多分あの人がランドール領領主かな?

いよいよ、ケリー様は我慢がならないのか『ふがふが』言いながらその場で暴れ出した。他の男二人は諦めているのか、じっと下を向いて目が死んでいる。

「ケリー。静かにしろ。見苦しい。お前は王妃という立場でありながら、法を罪を犯したのだ。しかも自分の娘に殺人をさせるなんて。。。なんて浅はかなんだ。王族だからと言って何でも許される事ではない。お前とはもう離縁したから王族ではない。牢の中で反省をしろ。前回の事も踏まえて、この会議後に即時牢へ放り込む。覚悟するように」
王様は冷たい眼差しでケリー様を一瞥するとふっと視線を前に戻す。王様の目にはもうケリー様は写っていない。

ケリー様は腰が抜けその場に座り込んで静かになった。諦めたようだ。

「では、これからはロンテーヌ領に対する保証の取り決めです。まずは国の提示案を今から述べます」
法務庁長官はアダム様に目配せし、席を座った。

「保証については私から説明しよう。まず、慰謝料として3億D。これは王家と罪人からの徴収した罰金で賄います。次に、騎士団より騎士を20名派遣する。魔法使いも5名。期間は3年。最後に、領主と共に負傷したロダン・オレゴン男爵。彼は片腕をなくしています。傷の重症度、それらを鑑みて男爵には慰謝料5千万Dと治療費3千万D。異論のある方はいますか?」

。。。

静かだってことはないんだよね。お兄様は私を一瞬見てニコッとした。そして、手を挙げ発言する。

「宰相様。発言してもよろしいでしょうか?」

さぁ、これからはロンテーヌ領のターンだよ。お兄様がんばって!

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