前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila

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1章 ロンテーヌ兄妹

85 心

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「どうなった?」
ガバッと駆け寄って来たのはアダム様だ。どうやらここは王城のアダム様の執務室のようだ。エド様とジェミニー様もいる。

「はい。詳細はリットからお願いします。大司教様、至急私と共に来てください。重傷者がいます。またあの腐る魔法です」
ランドは私から離れ、驚いたまま動かないジェミニー様の手を取ると返事を待たずに素早く転移した。

「おい。ジェシカ。大丈夫か?リット、どうなっている?」
アダム様は焦点が合っていない私の顔を覗き込んでくる。エド様は天を仰ぎ唖然としてソファーに座り込んでしまった。

「はい。。。まずは、お嬢様を。。。湯殿をお借りします。手を。。。身体が汚れていますので。申し訳ございません。先にお願いします」
リットは抱きしめていた私をお姫様抱っこに抱えなおし、執務室に付いている簡易風呂へ連れて行った。

「お嬢。一人で入れるか?誰か呼ぶか?俺でもいいんだが。。。」
リットは優しい。あんな事をしでかした私なのに。触れてくれる。。。温かい。

「ええ」

リットはしばらく私を見ていたが、生返事でぼ~っとしている私の服を脱がし始めた。私は成されるがままリットに身体を洗われる。リットは目を伏せているが顔は真剣だった。私は、リットに裸にされたが羞恥心など湧かなかった。ただただ、ぼ~と、目の前ので行われている行為が淡々と流れる。

「お嬢。一瞬だ。一瞬で帰って来るから少し待っててくれ」
リットは服を着たまま私を洗ったので、濡れたまま脱衣所を出ていく。

少しして、リットが戻って来た。手には替えの服を持っている。
「これしかないそうだ。少しの間だけだから辛抱してくれ」

リットはテキパキと私を着替えさせ、自分も着替えていた。男物の服。ダボついているが、上着を着せられ袖をまくる。

またリットは、お姫様抱っこをして私をみんなの所へ連れて行った。

私をソファーに座らせると、横に立ち騎士礼をしながら報告を始める。

「お待たせいたしました皆様。報告を始めます。本日、午前11時過ぎ、大聖堂前の大階段で襲撃に遭い、ロンテーヌ領主クライス様は死亡、執事のロダン様は重傷を負っています」

リットは、襲撃事件の詳細を語り始める。

私は、今だにぼ~としている。頭が働かない。

じっと自分の少し震えている両手を見ると涙が溢れてきた。ぽたぽたと涙の粒が両手の指や間に落ちる。

「ぐすん。ぐすん。。うわぁぁぁぁ」
と、私は両手で顔を覆う。まだ、リットが報告の途中なのに、込み上げた悲しみで、声に出して泣いてしまった。リットは背中をさすりてながら報告を続けている。

話し終えた後、沈黙が部屋を包む中、私の鳴き声だけが響いていた。

最初に声を出したのはアダム様だった。
「ジェシカ。クライス様の事残念だ。。。今日はこのまま王城に泊まりなさい」

「ジェシカ。。。すまない。またしても私の娘が。。。本当にすまない」
エド様は声を枯らし両手で頭を抱え謝っている。

何とも言えない怒りがふつふつと再燃してきて、衝動的に『バッ』とエド様に襲いかかり、バシバシとエド様の抱えている頭や背中を両手で叩く。

「お爺様を返して!返してよ!」

エド様は怒る事なく甘んじて私の力無いパンチを受けている。
「あぁ。すまない。ジェシカ。すまない。」

「。。。返せ!返せよ!」
私は力尽きて、泣きながらエド様の前にへたり込んだ。

「ジェシカ。すまない。死んだ者はもう戻らない。すまない。すまない」
と、エド様は泣きそうな顔で優しく抱きしめる。私はそのままエド様の腕でワンワン泣いた。

1時間ほど泣いて、泣き疲れた私はリットに膝枕をされてソファーで寝た。



<リット目線>

お嬢は疲れて寝てしまった。アダム様の簡易ベットがあるそうだが、これ以上離れたくない。側に居てやりたい。それに、おっさんが使っているベットに寝させたくない。

俺はお嬢に膝枕をし、ソファーに寝かせ、腰をトントン叩いている。

「リット。今回のジェシカの魔法だが、フェルミーナのだったのか?」
王様は真剣な顔で聞いてくる。

「はい。同じだと思います。しかも、お嬢様が無意識だったからかわかりませんが、無詠唱で発動していました」

「そうか。。。王よ。グレン殿が来るまでこの話は止めましょう。リット、ジェシカ嬢をどうするつもりだ?このまま王城で休んでいった方が良いのではないか?」
アダム様は王城にお嬢を留めたいみたいだ。でも、お嬢は帰りたがるだろう。それだけはわかる。

「いえ。屋敷に連れて帰ります。ランドが来れば容易タヤスいので。皆さんの到着を待ってから失礼させて頂きます」

「しかし。。。わかった。落ち着いたらまた話をしたいと伝えてくれ」

「わかりました」
そう言うと、お二人は無言で紅茶を飲み出した。誰も話をしない。俺はお嬢の寝顔を見ながら今後の事を考える。


<アダム目線>

すやすやと眠る少女は、またしても肉親を亡くしてしまった。こんなに若いのになんて幸薄い人生なんだろう。

グレンとジェミニー様を待つ間、私は少女について想いを巡らせる。

恐らく、今回発動した魔法はショックと怒りがきっかけなのだろう。魔力暴走で特化が思いもしない方法で会得されてしまった。まだ魔法云々も習っていないのにだ。

恐らく、ジェシカの特化『写』は模写の『写』。特化を写し取ってしまう能力なのだろう。。。これは、危うい。王国始まって以来の最大級の魔法になる。他国に知られれば。。。

それにしても。。。不憫だ。こんな幼い少女が。ついこの間、自身が襲撃に会い、今回は肉親を亡くし、恐ろしい力を発動させてしまった。

本来なら何としても王族と縁付かせたいが。。。ダメだろうな。心が追いつかないだろう。無理矢理にもしようものなら、人形のように空っぽになってしまう。

『異なる世界の記憶』『発明品』『特化の写』『王に並ぶ魔力量』

この少女はどれだけの業を持って人生を歩まねばならないのか。。。

しばらくは、エドや王子、ジェミニー様は近づかせない方が国の為、いや、ジェシカの為になる。か。

しかし、こんな精神状態で学校に行けるのか?いや、学校どころではないな。。。心が癒えるまでの時間が必要だな。

「リット。ジェシカ嬢の周りの警備体制はどうなっている?」

「はい。私とランドが交代に就ています。アークという暗部の騎士もおりますが、あくまで予備です。。。そう考えると、今後の状況を考えるといささか戦力不足かもしれません」

「そうだな。。。誰か寄越すから、使ってくれないか?」

「はい。しかし、人事は全てロダン様が統括していますので。ロダン様と相談なさって下さい」

「わかった。急を要する案件。ロダン殿に即時提案する」

ロダン参謀か。。。片腕が肘から下が無くなったんだったな。ジェシカにとっては命が助かっただけでも良かった。これから、ロダン参謀はなくてはならない要になるはずだ。

あとは、姫だが。。。どうやって監視を撒いたのか。。。あとで確認が必要だな。

ジェシカ。すやすや眠る15歳の少女。

出来る事なら領で発明を好き勝手にしたいと、笑っていたあの笑顔がいつか戻るだろうか?あぁ、私はいつの間にかこんなにも、友人としてお前を思っていたのだな。。。国よりお前の心を優先に考えるなんて。。。

静寂の中、私は一人ため息をついた。


<王様目線>

またしてもフェルミーナだ。

先の事件の後、本人と問答をしたがラチが明かなかったのを覚えている。もう18だと言うのに。。。王族としての特権をただ相手より優位に立つ為だけに利用し、己のわがままを突き通す安い女になっていた。まるで、幼子のような思考だった。子供の頃は、まだ今よりは利発だったと思っていたが。。。そう、あれもだ。特化の『癒』も湾曲して『腐』に転じてしまうなど。。。父親として『心』を育てなかったのが仇となったのか。。。今ではもう遅いがな。。。

今は。。。後悔しかない。男爵位に落とす事によって、あの子の精神を逆なでしてしまった。

ジェシカ。本当に申し訳ない事をした。あの時、愛情のカケラを捨てきれなかった王としての私のミスだ。絶縁ではなく処刑していれば。。。今更、そんな事を言っても仕方がないか。。。

いずれにしても、父として、王として責任を取らねばならんな。。。横でアダムの深いため息が聞こえる。


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