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1章 ロンテーヌ兄妹

77 ある冬の夜

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<ロダン目線>

「おい!ロダン!ミラン!エリ!至急儂の部屋へ来い!」

ある冬の夜更け、ご主人様が大声を上げた。嫌な予感がして寝巻きのまま急いだ。

「!!!おっ、お嬢様!」
ご主人様のベットの上には、顔が数倍に腫れ、服が泥だらけのお嬢様が寝ていた。

遅れて駆けつけたエリにお嬢様の介抱の指示を出す。ミランは呆然と立ちすくんでいる。

「おい!ミラン。至急使いを出せ!いや、お前が行け。大司教様にお目通りを願い出ろ!」
ご主人様は呆けているミランの背中を叩いて正気に戻している。ミランは慌てて大聖堂へ行く。

「今から馬車で出る。ロダンは使用人を近づけさせるな。箝口令カンコウレイも敷くように」
私は言われるがまま、自分で馬車の用意をし、使用人達を下がらせた。

眠そうにようやくやって来たカイ様が口を開いて愕然ガクゼンとしている。エリが着替えさせようとファスナーに手をかけ下に下ろしていくと、赤や青の痣が背中にびっしりとついていた。

「これは。。。ご主人様!」
エリはすでに泣いている。どうしていいのか分からず、ファスナーを戻し、毛布に包んで震えていた。

「あぁ。領で襲撃にあった。。。手の平に腐る魔法がかけられておるそうじゃ。急ぐぞ」
低い落ち着いた声を絞りあげたご主人様は、馬車へ運ぼうと抱き上げようとした。

「いや、俺が抱えます」
正気に戻ったのか、目が鋭くなっているカイ様がお嬢様を抱える。皆、寝間着だが気にせずそのまま馬車へ乗り込んだ。


大聖堂の前ではミランが警備騎士と揉めていた。
「今は、時間外です。大司教様はすでにお休みの時間です」

「そこをなんとか。命がかかっているのだぞ!」
ミランは必死に訴えているが拉致があかない様子だった。

「ミラン。いい。。。騎士様、このお嬢様の手をご覧下さい」
カイ様に来てもらい、騎士にお嬢様の手を見せる。

「!」
驚いた顔をしたが、、、騎士はそれでも動こうとしなかった。

「。。。お急ぎなのは承知したが。。。規則が。。。」

「おい。このままじゃ手が腐ってしまう。明け方まで待てない!通してくれ!」

あぁ、押し問答を繰り返しているこの時間がもったいない。早く、大司教様に見せないと!

バッ。がしゃっ。
その時、馬に乗った王様、アダム様、グレン様が大聖堂前に到着した。

内心、なぜ王様がと思ったが、王様のお気に入りのお嬢様の危険を知って駆けつけてくれたのではと、一瞬王様に期待する。

「開けろ。王が会いに来たと伝えろ。至急、大司教を呼び出してこい。10分以内だ」
騎士は『はっ!』と言うと駆け足で大司教様を呼びに行った。

は~、よかった。。。しかし、ご主人様は王様を見ても全く挨拶をしようとしない。。。



私は、おかしいとは思ったが、お嬢様の事で動揺しているのかも知れないと代わりに口上を述べる。
「夜更けに大変申し訳ございません。我が領の惨事に駆けつけて下さりありがたく存じます」

私は一礼すると、王様は静かにこう言った。
「いや。。。今回の首謀者がフェルミーナなのだ。こちらこそ申し訳ない」

途端にカイ様は、お嬢様を私にさっと預け王様の胸ぐらを掴んだ!殴りそうになっている拳を一生懸命抑えている。

「カイ、止めろ」
ご主人様は言葉だけでカイ様をイサめる。ご主人様は下を見て王様を未だ見ていない。カイ様は『チッ』と舌打ちして手を離した。

ホッしたが私の中でムカムカと負の感情が込み上がってくる。お嬢様をこんな状態にしたのが王女だと?こんな残忍な事が出来るなんて。。。だから、駆けつけたのか。。。

「王様。ご主人様達をお許し下さい」

本来は、罰せられないように頭を床に擦り付けて謝る場面だが。。。これはいただけない。

カイ様の気持ちがわかる以上、私は一応は礼を取り言葉だけの謝罪をした。

「よい。。。今日、ここでの事は一切不問にする」

カイ様はまた大事そうにお嬢様を抱きかかえた。誰にも触らせないと威嚇しているように見える。

「お待たせしました。大司教様がお着きになりました」

息を切らせた騎士が大聖堂のドアを開け、皆をホールに通した。



<大司教目線>

ドンドンドン。

「大司教様、王様がお見えです」

警備騎士か?。。。こんな夜中にどうしたんだ?今日は何もなかったはずだが。。。

寝付いたばかりなのでスパッと目が覚めない。

「あぁ。。。すぐ行く」

軽くガウンを羽織ると私は応接間へ急ぐ。

「あぁ、大司教様、違います、こちらです。急いで下さい」
と、騎士に走って連れられて来られたのは大聖堂の入り口のホールだった。

「ジェミニー。至急治癒魔法を施して欲しい」
王は切羽詰まった感じで駆け寄ってくる。悲壮感で顔色が青黒い。。。

「ええ。。。しかし、見た所、怪我がないようですが?」

「私じゃない。あの子だ」

指をさされた子は、毛布に包まれ若者に抱きかかえられている。エントランス入り口には、ロンテーヌ領領主と数人、グレン騎士団長、アダム様が揃っていた。

「わかった。では、客間に。。。」

「いや、今ここでいい。急を要する。早く始めてくれ」

王はそう言うと、入り口の者達を集め大聖堂の祈り用の椅子をベットのように並べ始めた。すぐさま、抱きかかえられていた者がその上に寝かされる。若者が毛布を取ると。。。

「!なんと!むごい。。。」

全身が泥だらけの顔が腫れた女性だった。グレン騎士団長は目をそむけ、アダム様は鋭い目で傷を観察している。ロンテーヌ領領主達は拳を握りしめ無言だった。

「あぁ。。。。至急頼む。。。手の平を優先してくれ。腐る魔法をかけられた」

まさか!。。。フェルミーナか。

「。。。後で詳細をお願いしますね。。。そうですね。1時間です」

「わかった。。。」

誰一人としてその場を動こうとはしない。ただただ、女性を見つめている。

私は治療の為、服を脱がすように言う。「はっ!」と気がついた一人の従事がナイフを片手に服を切って脱がせる。下着も出来る限り傷が見えるように割かせ露な姿になったが、白い肌の面積が少ない。。。ほとんどが痣で黄色や青、血の色で染まっていた。

その従事は泣きながら丁寧に服の残骸を取り除く。。。

「では、これより治療を行います。時間がかかりますので皆様は座って待っていて下さい」
私は一息つき、手をかざす。呪文を唱えると白い光が女性を包む。


「王よ。もう十分です。大司教様が治療を始めました。。。傷も確認したでしょう?お帰り下さい」
しばらくして、しゃがれた疲れた声を発したのはロンテーヌ領領主だった。

「。。。わかった。後日、関係者全員を揃え審議会を開く」
王はそれ以上何も言わずグレン騎士団長を連れて去って行った。

「私は峠を越すまでついています。よろしいでしょうか?この娘の事は浅からず友人のように思っていまして」
アダム様はこんな場面で、ロンテーヌ領主に向かい懇願している。『友人』と口にするとは、相当な想い入れだな。珍しい。

「好きにしてくれ。。。」
ロンテーヌ領領主はアダム様を見ていない。少女の顔をひたすら見つめ続けている。


治療が半分ほど終えた頃。顔がはっきりしてきた。

!!!

。。。なんと。。。ジェシカ嬢だったとは。。。成人の儀を思い出す。。。はにかんだ笑顔がかわいらしい子だったはず。



『は~』と誰にも聞こえない小さなため息をついて、私はより一層、魔法に力を込めた。


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