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1章 ロンテーヌ兄妹

72 工場の領民学校

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今日はお忍びで工場を見学する。メイドのサラに平民の服を借りた。

「お嬢様。見るだけですからね」
ケイトは心配そうだ。

ぞろぞろ行くと怪しまれるので、冬の領だし、私が今ここにいることを誰も知らないので、ダンとロック爺の3人で行く事にした。

「大丈夫よ。昔は一人で広場まで行ったりしてたじゃない。工場へ行くだけだから心配しないで。それより、リットとランドは自分の事をしてね。リットは自警団に顔を出したり、ランドは雑務があるんじゃない?今日の午前中だけだし、問題ないわ」

そうですか?とケイトは言いながら、工場には騎士達が警備しているし危険はないと判断し、今に至る。

「じゃぁ、行ってくるわ」



工場に着くと、入り口に騎士が立っている。今日の見学はダンが担当している工場にした。

「ダン。今日もご苦労さん。。。って、お嬢様!」
入り口の騎士は私に気がついて驚いている。

「しっ!内緒でのぞきに来たの。内緒よ。わかった?」
私は慌てて、騎士の口をふさぐ。騎士はコクコクと縦に首を振り口を噤んだ。

「色々、言いたい事はあるでしょけど、今日は見逃してくれると助かるわ。お願いね」

「お嬢様、こちらです。後ろで見学して下さい。工場内であれば移動しても結構です。でも、ロック爺に付いてもらって下さいね」
ダンはそう言うと、授業をする為子供達の前へ出て行った。

工場の壁にはあいうえお表の様な文字の表と数字の表が貼ってある。今日の授業は、自分の名前の復習と家族の名前を書くみたい。まず、表を見ながら順番に声に出して字を読んでいる。その後子供達は、地面に棒で字を書いて覚えている。ダンは、子供の間を縫って歩きながら教えている。

へ~。ダンは道具がないなりに工夫しているな。今後、領民学校に予算がつけば色々と買ってあげたいな。

私は一番後ろの男の子に話しかけた。10歳ぐらいかな?
「ねぇ。勉強は楽しい?」

「え?俺?うん。楽しい。自分の名前が書けるんだぜ。すごいだろ?もっと読めるようになれば、お店の文字が読めるようになるから、お使いに行けるんだ」

ほ~。じゃぁ、こっちの子は?他の子に教えている。
「あなたも、勉強楽しい?」

「うん。私は半分ぐらい文字を知ってるから教えてあげてるの。えへへ」

こんなやり取りを周りで聞いていた子供達が、私に次々と教えてくれる。
「俺は、難しい。。。名前が書ければ良いや」
「私は、文字をキレイに書きたいわ。絵みたいだもん。家に帰ったらお父さんやお母さんに教えてるんだ」
「私も、家でお姉ちゃんに教えてる」
「俺は、もっともっと色々学びたい。将来は本が読めるぐらいいっぱい文字を覚えたいな」

うんうん。良い子達ばかりだね~。領の為にもがんばって。

「そうなのね。みんな勉強がんばってね。こわ~いダン先生がこちらを見てるから、またね」
と言ってその場を離れた。

「お嬢様は誰にでも好かれますな。これは天性のもんですかな?笑顔が安らぎを与えるんでしょうな」
ロック爺は私と子供達のやり取りを微笑ましく後ろで見ていた。

「お嬢さん。どこから来なすった?新領民かな?」
子供の監督をしている老婆が話しかけてきた。

「ええ。ロック爺の親戚で新領民よ。勉強の様子を見に来たの。お婆ちゃんは何してるの?」

「あぁ。ここで子供が悪させんか見張ってるんだよ。ふぉふぉふぉ。これで小遣いが出るんじゃ。楽なもんじゃ」
老婆は椅子に座って編み物をしながら、子供達を見ている。

「そう。ここに来るのはしんどくない?家から結構遠いでしょう?」

「あぁ。そんなもん大丈夫じゃ。一日中家にいるより、ここは明るいし暖かい。皆もいるから暇せんしな。ただね、隣の家のカリーが心配なんじゃ。ここ数年寝たきりでねぇ。ここに連れて来たいんじゃが。。。私も年だからね」

「カリーさん?お婆ちゃんの友達?」

「あぁ。ずっと隣同士の古い付き合いのもんさ。嫁さんが面倒を見てるけど寝たきりだからね。動けないんだよ。嫁さんも工場に来たいだろうに、どうしようもないね」

そんな人がいるのか。。。どうにかしたいな。

「そう。残念だね。結構いるの?ここに来ていない人って?」

「そうだね~、私のミトン村は2軒だな。カリーの家とジェイの家と。あぁ。カリーもそうじゃが、嫁さんもずっと付きっ切りで顔色が悪いんだよ。私はね、ここで出るお昼のスープを後で持て行ってあげるんじゃ」

2軒か。各村に1軒から2軒あるとして、村は現在7箇所。合計15軒ぐらい?一度見て見たいな。

「お話ありがとう」
お婆さんは『ここは良い所だよ』と、領の自慢を最後に話してくれた。

お婆さんと別れて粉引きをしている大人のところへ向かう。

「お嬢ちゃん。良い所の子かい?そんな服じゃ汚れちまうよ!」
恰幅のいいおばさんが話しかけてくる。

「ロック爺の親戚なの。この服じゃダメなの?」

「ははははは。お出かけ用じゃないか。粉がついて白くなっちまうよ」
サラったら。一番いい服を貸してくれたのね。

「今日は見学よ。おばさん、さっきあのお婆ちゃんからここに来れない領民がいるって聞いたの。ほんと?」

おばさんの顔が笑顔から眉毛がハの字になる。
「あぁ、病気のもんや寝たきりの老人がいるね。それとその世話をする嫁か娘が出て来ていないね。うちの近所にもいるよ。どうにか出てこれたらいいんだけど。こればっかりはね。。。」

「そう。。。」
私はとぼとぼ歩いて見学しながら考える。来れない人がいるんだ。。。

ぼ~っとしていたのか、ロック爺が手を引いてくれた。

「お嬢様。ぼ~としていると危ないですよ。もう帰りますか?何か考え事があるんでしょう?」
ロック爺にもお見通しだね。さすがロダン父。

「うん。病気の人や寝たきりの人を一時的に預かれないかと思って。。。移動に車椅子?あれを改造する?う~ん。どうしようかな。いや、荷車で連れてくればいいんだ。ただ、連れてくる場所だよね。。。どこかないかな。。。」

「お嬢様。また、考えながら歩いています。しかも考えが声に出ていますよ」

「あっ。ごめんなさい。そうね、一通り見たし城に戻るわ。ダンを待ったほうがいいかしら?」

「そうですな~。あそこの騎士様について来てもらいましょう。ダンはまだ授業があるようですし」
あぁ、入り口のさっきの騎士ね。

「そうね。そうしましょう」
ロック爺はダンに帰る事を伝えに行った。私はその場で考える。

う~ん。どの道、ロダンかミラン、お爺様に相談しないと。この問題は何とかしたい。

私はお嫁さんが心配なんだよね。前世ではよく介護疲れの悲惨なニュースを見たし、友人も介護で悩んでいた。お互い離れることによって、結構リフレッシュできるみたいだから、預ける場所が欲しいよね。いっその事、介護施設兼簡易な病院でも作る?いやいや、医者は雇うと高いしな。薬師でもいいけど、領にはいないよね。引っ張ってくる?来るかな。。。あっ、治療はしなくてもいいか。面倒を見るだけで。デイサービスでもいいけど、一冬ヒトフユ丸々預かってもいいよね。料金もただじゃなくて、いくらかもらおう。そうだな~、1人当りの手作業の給与の半分ぐらいが相場かな?そうすれば、お嫁さんはグッと楽になるよね。お互いウィンウィンじゃん。あとは、場所と人材。。。

ロック爺が帰って来たので、入り口の騎士について来てもらう。

冬の雪道はなかなか歩きづらい。工場から城まで30分ぐらいかな。前に騎士、後ろにロック爺と私が並んで歩く。

考えながら歩いていたので、横にロック爺がいない事に気づくのが遅れてしまった。
「ねぇ、ロック爺。私考えたんだけど。。。あれ?」

私が後ろに振り向くと同時に目の前が真っ暗になった。



くそっ。。。領だと思って油断した。



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