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1章 ロンテーヌ兄妹

59 領の服!?

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屋敷に帰った私はロダンに会うため、エントランスをウロウロしていた。グルグルとエントランスホールを周る。

「どうされました?」
と、声をかけてきたのはミランだった。

ゲッ。。。ミラン。。。

「いえ、ロダンに報告があってね。。。どこに居るかわかるかしら?」

「ええ、もう直ぐご主人様の執務室から下がって来ると思いますよ。グルグルそんなところを周らなくても、ロダンに部屋へ行くように言いましょうか?」

「ええ。でも。。。」

ミランは何かを察したのか、ニヤリと笑いアドバイスをしてくれる。
「何か悪い事をしでかしたなら、素直に言った方がいいですよ。ロダンの弟から忠告です。兄はストレートに謝った方が、怒りは半減します」

半減か。。。でも怒られるのは決定よね。。。は~。

「ええ。ありがとう。忠告通り大人しく怒られるわ」
ぐすん。やっぱり逃げられないか。。。と、ミランの得意の『勘』が働いたようでなかなかその場を離れない。

もういいわよ、と言おうとした瞬間、ロダンがエントランスにやって来た。

「そんな所でどうしたのです?二人とも」

「ええ。ロダンに用があって。時間はいいかしら?少し長くなるかもしれないわ」
いいですよ、と応接間へ誘導された。ちゃっかりミランも付いて来ている。

「さて、どうされました?その様子では何かまたしでかしましたか?確か、ミシュバールへ行って来たのですよね?」
ロダンは営業スマイルでニコニコと紅茶をサーブしてくれた。

「実は、明日の午後、時間を空けて欲しいの。ナダル夫妻が屋敷へ来るのよ」
モジモジと私が言い始めると、ロダンの横でミランがニヤニヤして聞いている。

「はて?なぜ屋敷に来る事に?経緯をお話下さい。包み隠さず全部です」
ロダンは目を閉じ、私に話を促した。

「ええ。ドレスの注文が終わってから、ナダルに『領の服』を作ってくれるように頼んだの。絵を見せて説明したら、奥様のデリアがロダンに話があると言い出して。。。」

「ほぉ~領の服ですか。それはどの様な服でしょう?」
ミランが興味津々に聞いて来る。

私は、ナダルやデリアに説明した通り、全部話した。

「「。。。」」

話し終えると、二人とも黙ってしまった。

やっぱり怒ってるよね。相談なしに外注しちゃったし。

「ごめんなさい。相談もなしに他所の人を頼ってしまって。でもね、こんな事になるなんて思ってもみなかったの。なぜ、デリアが張り切ってしまったのか。。。」
私は歯切れが悪い。。。怒らないで!

「お嬢様、デリアは『流行る』と言ったのですね?」
ミランは真剣な顔で聞いて来た。

「ええ」

ロダンはまだ無言だ。

しばらくの沈黙の後、ロダンが口を開いた。
「わかりました。お嬢様。今回、お嬢様が相談なしに勝手に動いた事は反省していますね?」

「はい。。。」
しょぼん。

「いいでしょう。今回だけですよ。それでは明日、話を聞きましょう」

「兄さん、私もいいか?おそらく金の話になると思う」
ミランも参加しようとロダンに交渉している。

「ああ。お前もいた方が話が早いな。時間は大丈夫か?」
ああ、とミランは私のデザイン画を手にさっさと退場して行った。

「お嬢様。今日のこれからと、明日の午前中はケイトにマナーの復習をしてもらって下さい!いいですね!ご自分でケイトへこの事を伝えて下さい。明日の午後はお嬢様も一緒に話を聞くのですよ!」

はい。。。。ケイトにも怒られる事決定。。。

「それでは、明日また」
ロダンはそう言うと私を部屋へ送り届けて足早に去って行った。


「あら、お嬢様。おかえりなさいませ」
ケイトはニコニコ顔で出迎えてくれる。

怖いな。。。この笑顔。。。絶対、般若に変わる。

「あのね。。。ケイト。。。実は。。。」

話し終えると、ケイトは超一級の『お嬢様!!!』と叫んだ。それからはお小言で今日は終わってしまった。翌日の朝もプンプンケイトにこってり絞られて、反省文を書かされた。


午後になって、お昼のデザートを食べていたらナダル夫妻が早速来た。

早くない?まだデザート食べてない!

「お嬢様。応接室へお越しください。デザートは後で食べましょうね」
と、にんまり笑顔のケイトに手を取られ応接室へ急ぐ。

私のモンモムースが。。。


「お待たせしたわね。ナダル、デリア」
私は部屋のソファーの脇に立っていたナダル夫妻に席を勧める。

私とロダンは同じソファーに座り、ミランは紅茶をサーブし終わるとロダンの後ろに立った。

「本日は、お時間をいただき誠にありがとうございます。急な申し出ではございますが、一刻を争うかと存じまして、こうしてやってまいりました。ロダン様、早速お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
デリアは早く話がしたいらしく、ロダンを急かせる。

「ああ。何やら、奥方が張り切っておるようだな?」

「ははははは。お見苦しい所をお見せして申し訳ございません」
ナダルはタジタジだ。

「よい。では、話を聞こう」

「はい。実は。。。」
と、話し出したのはデリアだった。

「この度、お嬢様が個人的に領内で着用される服の試作品をご依頼頂いたのですが、お話を聞く限り、平民用との事。それで、デザインや内容を吟味させて頂きましたが、とてもよく考えられております。ついては、このデザインを元に私どもで、前回のような特許等を!とも思いましたが、目先の利益よりも未来サキを見据えれば、服飾店を開業してはどうかと思い至りました。そこで、ロダン様にご相談をと、こちらへ上がらせて頂いた次第です」

「ほぉ、服飾店ですか。しかし、私達にはそのようなノウハウが全くありませんが?」

「はい、そこで、私どもにもご協力をさせて頂ければと」
ナダルが申し訳なさそうに進言する。

「少しいいですか?」
ミランがロダンとは反対の私の隣に座る。

「えっ?はい」
ナダルはハテナになっている。

「あぁ、申し遅れました。ロダンの弟で王都屋敷の執事をしておりますミランです。よろしくお願いします。では、私から数点いいでしょうか?」

「これはこれは、ご兄弟でしたか。ロダン様には昔からお世話になっております。こちらこそよろしくお願いいたします」

「はい。では、まず、その服飾店はどこに作る予定でしょうか?次に、店は資本提携なのか業務提携なのか。最後は、お嬢様をどう扱うのか、この3点です」

「はい。まず、店舗はロンテーヌ領か王都の平民街と考えています。まず、このデザインは平民用です。貴族用にアレンジできないか考えましたが、平民用または下位貴族用になります。あとは、アレンジ次第で貴族女性の乗馬服にも出来るかと」

「ほぉ。乗馬服か。平民用で売り出す根拠は?」

「はい。まず、平民の為の平民だけのオリジナルデザインが、今まで存在しなかったからです。今までにないデザインだからこそ、流行発信地の王都で勝負をしようかと考えました。しかし、そもそも、お嬢様が『自領の平民の為にデザインした』とおっしゃっていましたので、1号店はロンテーヌ領でもいいかと思います。そうすれば、ロンテーヌ領発信の服になり、領にとっては利益になります。どちらにしても、王都とロンテーヌ領の2店舗は確実に出店させます」

ミランは頷き、続きを促す。

「次に、契約のお話ですが、デザインしたのはお嬢様です。ですので、代表はお嬢様で業務や人員は当店がさせて頂きたいと。恰好は資本提携的な感じになりますが、資本は会社創立の資本金だけで結構です。運転資金などはこちらで準備いたします。ですので、簡単に言えば、書類上の代表とデザイナーをして頂きたいのです。その他は私どもでいたします」

「もし、店が転ければ、そちらの負担が大きいのでは?」
ミランはデメリットが大きいのでは?何か裏があるのか?と探っている。

「はい。しかし、これは平民に絶対売れます!自信があります!こんな画期的なデザインは喉から手が出るほど欲しいぐらいです。お嬢様のお遊び用だけに留めるのはもったいないです。このツーピースに分けて色々組み合わせる工夫など、考えただけでも女心をくすぐること間違いありません。それに、貴族の方々、しかも上流のお嬢様方には分けて使い回しすると言う、節約的なこの服はあまり売れない様に思います。ですので、新しいデザインの始まりが『平民の為』と言うのが、上流貴族で眉をひそめられるのであれば、まずは貴族女性の乗馬服として売り出し、平民に下げて行っても良いかと思います。その際は、売れても売れなくても問題ありません。前提は『平民用』だからです。ダサいから平民に下がった、奇抜すぎて平民に下がったでもいいですし、逆に、貴族にウケれば平民が真似をした、でもいいのです」
デリアは拳を握って熱弁している。

「そこまでか。。。正直、服のことはわからないが。。。そうだな。。。そうなると店舗をどこに置くかだが」
ミランは顎に手を当て考えている。

「そうなんです。王都で売り出して、軌道に乗って来たら並行して2店舗目を早々にロンテーヌ領にでもいいのかなと思いました。そちらの方が、確実に売ることができますし、浸透が早いように思います。しかし、そうなると、領民達が2番手になってしまい、お嬢様の思いが。。。無下にはできませんし」
デリアは私を見て申し訳なさそうにしている。

「ロダンはどうだ?」

ずっと黙って聞いていたロダンは目を開け話し出す。

「まず、お嬢様のお名前は前に出さない。デザイナーとしてもだ。出すならば、我がロンテーヌ領領主が主体となって会社を設立する事になる。しかし、ナダルは今の店をどうするのだ?」

「はい。昨晩、家族会議をいたしまして、息子に譲ろうかと思っております。大口の顧客や昔からのお客様達に、補佐をしておりました息子の事は浸透しております。私に代わり接客や業務をよくするようになりましたので、任せても大丈夫かと。正直、こんな事を言っては何なんですが、私も妻もワクワクしているのです。こんな歳になって、まだ新しい事に挑戦できるのかと」
ナダルとデリアは私を見て微笑む。

「そうか。では、完全にミシュバールとは別の店になるのだな?」

あっ、そうか。運営を任せすぎたら逆に喰われるかもしれないもんね。

「はい。ご心配には及びません。お嬢様の不利益になるような事は一切いたしません。お嬢様は私にとってデザインの女神様ですから」

ナダル。。。女神って。いつからだよ。お尻がムズムズする。

「そうか。では、問題ないな。今後の詳細はミランと話をつけてくれ。明日お嬢様と私は領へ帰るからな。お嬢様からは何かございませんか?」

「そうね。こんな大事になるとは思ってもいなかったわ。ロダン、資金は大丈夫なの?」

「はい。お嬢様が前回発案したリボンデザインのお金やその際に浮いたドレス代、事業の売上の一部で十分賄えます。恐らく平民街の店舗になるでしょうから」
ロダンは大丈夫だと笑ってくれる。

「じゃあ、まずは第1号の服は私用に作ってね。それから、平民用なのか貴族女性の乗馬服なのか考えましょう。それでいいかしら?」

「そうですね。会社設立や新店舗を探したり、息子への引き継ぎなどございますので、1年ほどお時間を頂ければと思います。幸い、この後半年ぐらいは、服飾業界は新年の夜会と学校の制服などで動けなくなりますので。来年の今頃に開店できればと思っています」
ナダルとデリアはそれはもうニッコニコだ。ミランも頷いている。

「わかった。ミラン、1年あれば十分だろう?お前の好きな、突発的なお嬢様のだが、余裕ができてよかったな」
と、最後にロダンにチクっと言われて終了した。

「はい。すみませんでした。もうしません」
しょんぼりだよ。やっぱりロダンはまだ怒っていたんだ。。。とほほ。

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