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女神アフロディーテ

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 私はふわふわと雲の上に横たわり目をつぶって浮いている。

『気持ちい…久しぶりのフカフカなベットだわ』
 
 私はここ数日間の暗くてジメジメした牢屋を思い出した。

『あれ? 私… 死んだのよね?』

 寝ていた私はそっと起き上がり周りを見渡す。はねられた首もくっついているし。服も血で染まっていない。
 どこまでも続く白い雲海。本当にどこだろう? 天国? ってまさか~。

 現在、当の私は浮かびながらどこかへ運ばれている。と思う。だって、浮かんでいるけど身体が勝手に移動しているから。しばらくその場に座ってされるがままにしていると、眩い光の中へ身体は進んで行った。

 目も開けられないほどの光の中で、私は目をつむって両手を顔の前で組む。

「…さん。ミシェルさん。目を開けて」

 優しい声が私に語りかける。私はそっと目を開けて前を見た。
 円状の机に女性が五人。私を含めて六人椅子に腰掛けている。私もいつの間にか座っていた。

「ミシェルさん。ようこそ。私は女神のアフロディーテ。よろしくね。あなたが最後よ。これで全員揃ったわ」

 女神? のアフロディーテ様が微笑むと私を見ていた皆がそちらを向く。

「ではまずは説明を。あなた達はなぜここにいるのか疑問に思っているでしょう?」

 誰も一言も話さない。じっと女神様の話を聞いている。

「ここに集められたのは、物語で死ぬ運命だった者達ばかりです。そして、ここはその死後の世界といった所かしら。あなた達は物語で言う所の『悪役令嬢』と言う登場人物です。ここまででご質問はありますか?」

 女神様はふわっと微笑む。背景にお花畑が見える様。
 いつの間にか目の前には紅茶が置かれている。湯気が美味しそうな香りを漂わせている。

 ごくり。

 久しぶりのお茶だ… 飲みたい。私はそっと周りを見渡す。でも誰もお茶を飲もうとはしない。

「よろしいかしら?」

 私の右隣の女性が女神様に質問する。

「どうぞ」

「物語とは? この集まりの意図が読めないわ」

 つ~んと気の強そうな雰囲気がその女性から感じられる。

「あら、そうね~。率直に言うとあなた達は小説、物語の中の人なの。実際の生身の人間ではないのよ。死んだ事実があるでしょうけど… 不思議よね」

 ん? どう言う事?

「のぅ。では、我らは生きた人間ではないと言う事かぇ? 物語の中で演じていたと? 人形か何かなのか?」

 女神様の左隣の人が質問する。ちょっと服が独特だな。外国の人かな?

「人形… そうね~人形ではないの。どう説明したらいいのか… ただ、生きた人間ではないの」

 生きていない? ではなぜ死んだりしたの? ん?

「妾は死ぬ以前、感情も痛みも感じていたが? それはただの物語の一説だと言うことかえ?」

 妖艶な美女が『ふん』と少し怒ったように言い放つ。

「そうよ。物語での出来事よ」

 私は様々な美女にタジタジだ。なんで私がこのメンバーに選ばれたんだろう? 私は意を決しておずおずと手を挙げて質問する。

「め、女神様。では、私達の体験した人生は物語で、実は存在しないと言う事でしょうか?」

「違うわ。あなた達は存在するの。でも、今はまだ存在していないわ。これからその事をお話しするわね」

 皆は黙って女神様の話を待つ。ごくり。

「あぁ、お茶が出ているわ。さぁ、召し上がって下さいな。では、あなた達が集められた目的をお話しするわね。まず、あなた達は物語の登場人物で死んだ体験をしたご令嬢達。悪役令嬢と言う役を全うした人ね。私はそんなご令嬢達を集めて死んだ経緯、なぜ死んだのかを聞きたいの」

「ふっ。趣味が悪いわね」

 誰かがボソッと愚痴る。

「ふふふ。そうかもしれないわね。でもね、あなた達は死ぬ間際『なぜ?』と思わなかった? もし、人生をやり直せるならどうしたい? そうよ、私は皆さんを集めた理由、それはあなた方が歩んだ物語を私は知っている。でもそれは主人公側から見たお話なのよ。だから、私は相手側、つまりあなた達ね。あなた達側から見て感じた話を聞きたいと思ったの」

 …

 本当に悪趣味ね。今から死んだ時の話をしろって? 私は若干腹を立たせながらみんなの様子を伺う。

「物語って主人公側だけの主観が強いわ。それが正義だと思われがちだけど、登場人物の全員、一人一人にささやかながらも人生があるし、感情もあると思うの。だから、まずは、物語の主役の反対、悪役令嬢にスポットを当てたのよ」

「では、私達の人生で感じた気持ちを知りたいと?」

「そうよ! そして、一番心打たれた方を物語の最初に戻してあげようと思うの。その死んだ記憶を持ったままね。今度は実際に存在する、お話の物語ではない、現実リアル世界へ」

 ふふふ、と女神様は微笑みながら紅茶をすする。

 ある人は考え込んでいる。ある人はニヤッと笑い、ある人はブツブツと何かを言っている。ふと隣の人を見ると、すました顔で女神様と同じように紅茶を飲んでいる。

 私は… どうしよう。そんな事がはたして可能なの? 生まれ変わる? 違うな、同じ人生をやり直す? か。は~、あの人生をやり直すの? また死ななければならないの?

 嫌だ。

「あの~、女神様。拒否権はありますか?」

 私は話したくないと申し出る。

「ええ、いいわよ。でも、やり直すチャンスじゃない? 同じ人生にならないようにがんばってみるとか。話すだけでもどうかしら?」

 そうは言っても… 復讐する? 全く違う性格になる? やり直すのって案外いいのかな? いやいや、また同じ事になったら? 怖い。考えるだけでも怖い。

 でも… 話してみてから考えてもいいのか。もう死んでるんだし。

「みなさん、心は決まったかしら? では、話したくない方はいる?」

 女神様は自信があるようで、誰も棄権しないのをわかっていた様にみんなを見渡しながらニッコリ笑顔だ。

「いないようね。では始めましょうか」

 バッと、急に女神様が立ち上がる。すると女神様の頭上から垂れ幕がゆっくり降りて来た。

「皆様お待たせいたしました。これより、第三回悪役令嬢大会『誰が一番つらかったか』選手権を開催いたします。司会は私、アフロディーテが務めさせて頂きます。審査は話し手でもある皆様と私。ではこれより開幕です」

 ババ~ンと垂れ幕には『第三回悪役令嬢大会『誰が一番つらかったか』選手権』と書かれている。女神様はしてやったりのドヤ顔だ。

 ははは。呆れて乾いた笑いしか出てこない。三回目って。

 こうして私は、死んだ後に謎のお話会に参加する事となった。
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