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回想
二ー39 クリストフ4 2/2
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ずっと我慢していた思いがポロポロと眼からこぼれ落ちる。
どんな顔でリシャールに逢えばいいかはわからない。
そのくらい離れて随分と時間がたった。
弱気になるには十分な時間だ。
飲み込んだ思いは涙に変わってこぼれ落ちる。
ルーを失ったリシャールの心の痛みは測れないが、だからこそ、側にいたかった。
いつだって側にいる、そう誓ったのに。
たとえ恋人になれなかったとしても、トルバドールとして必要とされる存在になって、彼の側にいられるように頑張ると。
それすらも必要とされなくなったのだろうか。
一度出てしまった涙は、止めどなく溢れ、顔を抑える手は濡れ、心は押しつぶされそうに苦しくなる。
背中にそっと手が添えられる。
見上げると温かな眼差しのディーターが微笑む。
「ジャン殿、行っておいでなさい。リシャール様にはあなたが必要なのですから。」
「・・・ディーター・・・。」
ディーターは、ハンカチをおれに持たせると、考える素振りをするように顎に手を当てる。
「そうですね。休暇という事にしたらいかがですか? しっかり役目を果たされたのですから。ねぇ、ロベール殿。」
「確かに、それなら命令違反にはならないよな。 」
ウィルが合いの手をいれるように明るい声を出すが、ロベールは「うーん」と唸り声を上げた。
「まぁ、それなら問題なくはないが・・・。大丈夫か? ジャン。リシャール様のあの様子だと、叱責されたり、そっけなくされてしまうかもしれないぞ? なにかお考えがあるのかというか、うーん、無理明るく振る舞われているというか、なんと言えばいいのかわからんが、とにかくいつもと違うんだ。お前、大丈夫か? 」
「こういう時のお前の説明は全くわからんな。ジャン。オレも一緒に行く。費用もろもろの件でもお話があるし。」
意地悪くロベールを鼻で笑うウィルの手が肩を軽く叩く。
みんなの気持ちが暖かく、そして心強く顔を上げる力をくれる。
そこに軽いノック音がして、ウィルが答えると入ってきたのはダニエルだった。
「なんだ。いないと思ったらこんな所で何の相談だい? お。ロベールじゃないか。久しぶりだな。」
「ダニエルか。お前はいつもややこしい所に来る奴だな。」
「あはは。ということは、もうジャンがマルマンドに行くこと決まったか? オレも一緒に行こうと思ってるんだよね。要塞づくりって、一度は見てみたいからさ。」
「お前、音楽以外にも興味あるんだな。」
「筋肉バカのロベールとは違うからな。知識を広げないといいものは創れねえんだよ。 」
「ふん。ダニエルの話も全くわからんな。なぁ、ウィル。」
「すまん。ロベール。ダニエルの話には一理ある。そもそも芸術というものはだな、幅広くいろいろな知見を得てこそだと、ある本に書いてあってだな・・・」
「ウィル殿。ロベール殿も帰還したばかり。お疲れの事でしょう。そのへんにして差し上げてください。」
ディーターが話を遮ると、不服そうな顔をしたウィルの拳がグリグリとロベールの頭を小突く。
それを邪険に振りほどきな小競り合いを始める二人を横目に、ダニエルは楽しそうに笑いながらディーターとおれにカップをもたせると並々とエールを注ぎ自分のカップをぶつけると、ロベールの帰還を祝う小さな宴会を始めてしまったのだった。
ーーーーーあとがきーーーーー
フィル←幼児(1話登場)
ウィル←リシャール側近(第一幕モブ、二幕ではれて登場)
ややこしいですが、こらえてください。
何ならフィルはフィリップの略だし、ウィルはウィリアムの略です。
同じ名前の人物が多すぎて困るので愛称で表記することで区別しました。
(余談ですがアンリ絡みででたフランドル伯ダルザスも本当はフランドル伯フィリップ・ダルザスだったりします。長い名前で良かったよ。もう一つ余談で、ウィルも大騎士ウィリアムもブリトン出身です。)
※※※※※しばらくお休みのお知らせ※※
[章]回想 二ー39話 から次は[章]マルマンド が始まる予定なのですが、しばらくの間、お休みさせていただきます。
(明日13時は、番外編を一つ投稿します。)
マルマンドはガロ・ローマの街跡に新たに街を造るという想定になっており、資料にとぼしい上、リシャールの初めての築城(要塞ですが)とあって、大事に背景を描写したいと思っております。
少し体も壊れまして、一週間に一話書けなくなり、章の変りでキリもいいところですのでここで充電期間を頂きたいと思います。
読んでくただいているのがうれしいので、頑張りたかったのですが、少し無理がたたったようです。
休みながら背景作って、言葉を書いて、少しストックができたらまた、投稿始めたいと思います。その時はまた読みに来ていただけたら幸いです。
ぽむぽむ
どんな顔でリシャールに逢えばいいかはわからない。
そのくらい離れて随分と時間がたった。
弱気になるには十分な時間だ。
飲み込んだ思いは涙に変わってこぼれ落ちる。
ルーを失ったリシャールの心の痛みは測れないが、だからこそ、側にいたかった。
いつだって側にいる、そう誓ったのに。
たとえ恋人になれなかったとしても、トルバドールとして必要とされる存在になって、彼の側にいられるように頑張ると。
それすらも必要とされなくなったのだろうか。
一度出てしまった涙は、止めどなく溢れ、顔を抑える手は濡れ、心は押しつぶされそうに苦しくなる。
背中にそっと手が添えられる。
見上げると温かな眼差しのディーターが微笑む。
「ジャン殿、行っておいでなさい。リシャール様にはあなたが必要なのですから。」
「・・・ディーター・・・。」
ディーターは、ハンカチをおれに持たせると、考える素振りをするように顎に手を当てる。
「そうですね。休暇という事にしたらいかがですか? しっかり役目を果たされたのですから。ねぇ、ロベール殿。」
「確かに、それなら命令違反にはならないよな。 」
ウィルが合いの手をいれるように明るい声を出すが、ロベールは「うーん」と唸り声を上げた。
「まぁ、それなら問題なくはないが・・・。大丈夫か? ジャン。リシャール様のあの様子だと、叱責されたり、そっけなくされてしまうかもしれないぞ? なにかお考えがあるのかというか、うーん、無理明るく振る舞われているというか、なんと言えばいいのかわからんが、とにかくいつもと違うんだ。お前、大丈夫か? 」
「こういう時のお前の説明は全くわからんな。ジャン。オレも一緒に行く。費用もろもろの件でもお話があるし。」
意地悪くロベールを鼻で笑うウィルの手が肩を軽く叩く。
みんなの気持ちが暖かく、そして心強く顔を上げる力をくれる。
そこに軽いノック音がして、ウィルが答えると入ってきたのはダニエルだった。
「なんだ。いないと思ったらこんな所で何の相談だい? お。ロベールじゃないか。久しぶりだな。」
「ダニエルか。お前はいつもややこしい所に来る奴だな。」
「あはは。ということは、もうジャンがマルマンドに行くこと決まったか? オレも一緒に行こうと思ってるんだよね。要塞づくりって、一度は見てみたいからさ。」
「お前、音楽以外にも興味あるんだな。」
「筋肉バカのロベールとは違うからな。知識を広げないといいものは創れねえんだよ。 」
「ふん。ダニエルの話も全くわからんな。なぁ、ウィル。」
「すまん。ロベール。ダニエルの話には一理ある。そもそも芸術というものはだな、幅広くいろいろな知見を得てこそだと、ある本に書いてあってだな・・・」
「ウィル殿。ロベール殿も帰還したばかり。お疲れの事でしょう。そのへんにして差し上げてください。」
ディーターが話を遮ると、不服そうな顔をしたウィルの拳がグリグリとロベールの頭を小突く。
それを邪険に振りほどきな小競り合いを始める二人を横目に、ダニエルは楽しそうに笑いながらディーターとおれにカップをもたせると並々とエールを注ぎ自分のカップをぶつけると、ロベールの帰還を祝う小さな宴会を始めてしまったのだった。
ーーーーーあとがきーーーーー
フィル←幼児(1話登場)
ウィル←リシャール側近(第一幕モブ、二幕ではれて登場)
ややこしいですが、こらえてください。
何ならフィルはフィリップの略だし、ウィルはウィリアムの略です。
同じ名前の人物が多すぎて困るので愛称で表記することで区別しました。
(余談ですがアンリ絡みででたフランドル伯ダルザスも本当はフランドル伯フィリップ・ダルザスだったりします。長い名前で良かったよ。もう一つ余談で、ウィルも大騎士ウィリアムもブリトン出身です。)
※※※※※しばらくお休みのお知らせ※※
[章]回想 二ー39話 から次は[章]マルマンド が始まる予定なのですが、しばらくの間、お休みさせていただきます。
(明日13時は、番外編を一つ投稿します。)
マルマンドはガロ・ローマの街跡に新たに街を造るという想定になっており、資料にとぼしい上、リシャールの初めての築城(要塞ですが)とあって、大事に背景を描写したいと思っております。
少し体も壊れまして、一週間に一話書けなくなり、章の変りでキリもいいところですのでここで充電期間を頂きたいと思います。
読んでくただいているのがうれしいので、頑張りたかったのですが、少し無理がたたったようです。
休みながら背景作って、言葉を書いて、少しストックができたらまた、投稿始めたいと思います。その時はまた読みに来ていただけたら幸いです。
ぽむぽむ
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