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使者
二ー28 ボルドーの使者1 2/2
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そんなおれたちを見かねたのだろう、ベランジェールが穏やかに微笑みながらそう言うと、窓のない部屋へと案内してくれた。
そこで早速ウィルと情報を交換し合う。
「ロベールが呼ばれるってことは、ポールとペランでは抑えられないという事だろう。リシャール様の身を守るというよりも、暴走を抑える役割と言ったほうが良いんじゃないかな。」
先程のリシャールの精神状態が心配というのは、恐らくこの暴走の度合いだろう。
「暴走・・・。」
「実の弟よりも、可愛がっていたからな。しかも片腕をもがれたとなっては、黙っている理由がないだろう。ランスのカペー家が目的地という事は、なにか根拠があるのか?」
ウィルは乏しい情報からこれだけの結論を導き出したようだったが、おれはカペー家が今回の件に関わっているという事に少し違和感を覚えており、それを率直にウィルに話す。
ウィルはどちらかと言うと作戦を考えるほうが好きな参謀タイプだ。
ポールよりも柔軟に人心を捉え誘導することに長けている印象がある。
そんな彼に自分の胸の内を話すことで、この違和感が明確な形を持つかもしれない。そう思った。
「リシャール様に刺客・・・か。それは、本当にカペー家の仕業なのか? あまりにも材料が揃いすぎではないか。 」
「そうなんだ。それに、ルーが単独で動いていたっていうのも少し気になっていて。もしかしたらポールがなにか知ってるかもしれないけど、連絡の取りようが無いし。・・・ああ。そう。それから、ウィリアム殿が偶然そこに居合わせてたんだ。彼が居なかったら、リシャールも刺客にやられていたかもしれない。」
「ウィリアム殿? ウィリアム・マーシャル殿か? 」
その名前は誰だって驚く。
常に冷静さを保つ事を良しとするウィルも例に漏れず、大きな声で叫んでいた。
「うん。おれにルーの事や、リシャールがランスに飛んでいった事を教えてくれて。・・・ウィリアム殿は武者修行終えて、アンリ様の下に帰るって言ってたけど、ランスには行かなかったのかな。」
「いやいや。ちょっと待て。ジャン、ちょっと待て。そして落ち着けオレ。・・・カペー家の紋章を持った兵士。そんなもの誰でも用意できるよな? そこでルーが単独で動いたって事は、顔見知りでも居たか? 」
話を静止させるようにウィルは手を上げつつ、反対側の手を顎に当てて、考え込む様な姿で独りごちる。
「オレはバイヨンヌ、モン=ド=マルサンなどの、ガスコーニュ付近のリシャール様に潰された貴族達が怪しいと思っていたのだが・・・。 ウィリアム・マーシャル殿がそこに居るとなると、また・・・。話がややこしくなるな。」
「?・・・そう? 」
おれの言葉にウィルは真剣な顔を向けてくる。
「お前、覚えてないか? サントンジュの反乱*¹。タイユーブル要塞を潰した経緯を。あの時、ガスコーニュの近隣諸国が連携しだしたきっかけに、アンリ様とジョフロア様が担ぎ挙げられていただろ。」
「・・・え・・・。だってあれは、ただの噂でしょ? 」
「噂だ。だが、アンリ様に、・・・フィル坊の存在が漏れていたとしたら・・・。」
そこで初めてアンリの妻であるマグリットと、フィルのふくふくとした可愛らしい顔が浮かび、血の気が下がる。
血を分けた弟に自分の妻を寝取られ、しかも子まで生んだと知られたら?
「でもでも! それじゃぁ、ウィリアム殿は、なんで?? リシャールを助けてくれたじゃん? ウィリアム殿は、あの事知ったら絶対リシャールのこと許さないでしょ? 」
「だから、話がややこしいって言ってるんだよ。どれも憶測でしかない。情報が足りないんだよ。」
ウィルが吐き捨てるように言葉を放つ。
感じていた違和感は、黒く大きなモヤモヤとした「何か、」に形を変えようとしている。
そうだ。
リシャールが向かった先、ランスでのカペー家の戴冠式にはアンリも出席するという話だった。
ーーーーーあとがきーーーー
ウィル登場です。
彼は「《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ」の章ダクスのep.10に登場した、名無しの彼です。
彼は最初はピュルテジュネ王の最初の非嫡出子につかえていたそうですが、すぐにリシャールの元にやってきて、ずっと一緒に居る幼馴染の内の一人。出身が農民なのですが、下人のようには扱われず、騎士として成長した人物です。お父ちゃんが土地持ちだったかららしいけど。この時代は若干まだゆるい、いわゆる身分制はそこまで確立されてないのかなと思いました。
*¹サントンジュの反乱:ep2に記載あり。
そこで早速ウィルと情報を交換し合う。
「ロベールが呼ばれるってことは、ポールとペランでは抑えられないという事だろう。リシャール様の身を守るというよりも、暴走を抑える役割と言ったほうが良いんじゃないかな。」
先程のリシャールの精神状態が心配というのは、恐らくこの暴走の度合いだろう。
「暴走・・・。」
「実の弟よりも、可愛がっていたからな。しかも片腕をもがれたとなっては、黙っている理由がないだろう。ランスのカペー家が目的地という事は、なにか根拠があるのか?」
ウィルは乏しい情報からこれだけの結論を導き出したようだったが、おれはカペー家が今回の件に関わっているという事に少し違和感を覚えており、それを率直にウィルに話す。
ウィルはどちらかと言うと作戦を考えるほうが好きな参謀タイプだ。
ポールよりも柔軟に人心を捉え誘導することに長けている印象がある。
そんな彼に自分の胸の内を話すことで、この違和感が明確な形を持つかもしれない。そう思った。
「リシャール様に刺客・・・か。それは、本当にカペー家の仕業なのか? あまりにも材料が揃いすぎではないか。 」
「そうなんだ。それに、ルーが単独で動いていたっていうのも少し気になっていて。もしかしたらポールがなにか知ってるかもしれないけど、連絡の取りようが無いし。・・・ああ。そう。それから、ウィリアム殿が偶然そこに居合わせてたんだ。彼が居なかったら、リシャールも刺客にやられていたかもしれない。」
「ウィリアム殿? ウィリアム・マーシャル殿か? 」
その名前は誰だって驚く。
常に冷静さを保つ事を良しとするウィルも例に漏れず、大きな声で叫んでいた。
「うん。おれにルーの事や、リシャールがランスに飛んでいった事を教えてくれて。・・・ウィリアム殿は武者修行終えて、アンリ様の下に帰るって言ってたけど、ランスには行かなかったのかな。」
「いやいや。ちょっと待て。ジャン、ちょっと待て。そして落ち着けオレ。・・・カペー家の紋章を持った兵士。そんなもの誰でも用意できるよな? そこでルーが単独で動いたって事は、顔見知りでも居たか? 」
話を静止させるようにウィルは手を上げつつ、反対側の手を顎に当てて、考え込む様な姿で独りごちる。
「オレはバイヨンヌ、モン=ド=マルサンなどの、ガスコーニュ付近のリシャール様に潰された貴族達が怪しいと思っていたのだが・・・。 ウィリアム・マーシャル殿がそこに居るとなると、また・・・。話がややこしくなるな。」
「?・・・そう? 」
おれの言葉にウィルは真剣な顔を向けてくる。
「お前、覚えてないか? サントンジュの反乱*¹。タイユーブル要塞を潰した経緯を。あの時、ガスコーニュの近隣諸国が連携しだしたきっかけに、アンリ様とジョフロア様が担ぎ挙げられていただろ。」
「・・・え・・・。だってあれは、ただの噂でしょ? 」
「噂だ。だが、アンリ様に、・・・フィル坊の存在が漏れていたとしたら・・・。」
そこで初めてアンリの妻であるマグリットと、フィルのふくふくとした可愛らしい顔が浮かび、血の気が下がる。
血を分けた弟に自分の妻を寝取られ、しかも子まで生んだと知られたら?
「でもでも! それじゃぁ、ウィリアム殿は、なんで?? リシャールを助けてくれたじゃん? ウィリアム殿は、あの事知ったら絶対リシャールのこと許さないでしょ? 」
「だから、話がややこしいって言ってるんだよ。どれも憶測でしかない。情報が足りないんだよ。」
ウィルが吐き捨てるように言葉を放つ。
感じていた違和感は、黒く大きなモヤモヤとした「何か、」に形を変えようとしている。
そうだ。
リシャールが向かった先、ランスでのカペー家の戴冠式にはアンリも出席するという話だった。
ーーーーーあとがきーーーー
ウィル登場です。
彼は「《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ」の章ダクスのep.10に登場した、名無しの彼です。
彼は最初はピュルテジュネ王の最初の非嫡出子につかえていたそうですが、すぐにリシャールの元にやってきて、ずっと一緒に居る幼馴染の内の一人。出身が農民なのですが、下人のようには扱われず、騎士として成長した人物です。お父ちゃんが土地持ちだったかららしいけど。この時代は若干まだゆるい、いわゆる身分制はそこまで確立されてないのかなと思いました。
*¹サントンジュの反乱:ep2に記載あり。
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