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使者
二ー27 シチリアの使者5 2/2
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「ジョーンさまーーーー。ジョーーーーンさまーーーーー。いらっしゃいますかぁぁぁぁ!!」
この声は、エムレだ。
ジョーンは盛大な舌打ちをしている。
それがリシャールそっくりで笑える。
なんだかほっとする思いで「エムレここだよ。」と答えた。
開け放たれた入口からエムレの顔がひょっこりと覗き、ジョーンを確認すると部屋に入り大袈裟な身振りで謝罪を始める。
「ああ! ジョーン様! 申し訳ございません! 不覚にもこのエムレ、ジョーン様にお使えする身でありながら酔臥しておりました!」
「ああ。ずっと寝ていて良かったのに。」
「なんと! お心優しい我が君よ。 何かご不自由はございませんでしたか? 」
「君がいると不自由な事があるけどね。」
「は? そ、それは如何様な? このエムレ、何かいたしましたか? 」
「っち。 ウルサイよ。」
「ジ、ジョーン様?? も、申し訳ございません。 生まれつき声が大きなもので、気をつけているのですが、耳障りでしたか? 」
「ぁああ。もう。うるさいうるさい。 何だよ。なんか用なの? 」
「あ、いえ、用は特に・・・。お姿が見えなかったので・・・。」
「そんくらいで騒ぐなよ! ほんとお前はうるさい! 」
「も、申し訳ございません・・・。ですが、王にもしっかりお側でお守りするように仰せつかっておりますし、ジョーン様に何かあったらと、私いても立ってもいられず・・・。」
あまりの喧噪に驚いたが、大きなエムレが怒られてしょんぼりしている犬の様に見えてしまい、ベランジェールと一緒に吹き出してしまう。
ひとしきり笑ったあと、ベランジェールがコホンと咳払いをし、改めてニッコリと微笑んだ。
「エムレ殿。申し訳御座いませんでした。あなた様の我が君のお時間を少しお借りしておりました。ジョーン様、今からパンプローナを発つとすぐに夜になってしまいますわ。出発は明日になされては? 」
「ああ。そうするよ。エムレ。もう一晩お世話になろう。・・・今度は酔臥するなよ。」
「はい。もう飲みませんよ。」
そう言っていたエムルだったが、おれとダニエルの作戦により再び酔臥させらる事となる。
次の日の朝、エムルは頭を抑えながらフラフラとした足取りで、ジョーンに小突かれながら出発を迎えている。
「ジョーン様。これをお持ちになってください。」
サンチョと共に城門外へと見送りに出て来たベランジェールが手にしているのは綿のシャツ。
強い日差しの中で汚れねっとりと張り付くシャツを着替えるだけで疲れが飛ぶこともある。
旅の必需品だ。
そこにブルーのハンカチを忍ばせてあるのだと、ベランジェールからこっそり聞いていた。
ハンカチの生地には白と金色の刺繍を施したと言っていた。
彼女が丹精込めて縫った物だ。
ジェーンはシャツをしまい込むおり、その存在に気づき、素早くそのハンカチを手首に巻き付けた。
騎士に渡すハンカチは、「私の代わりに側に置いて」という思いが込められているという話を聞いたことがある。
そしてそれを手首や槍(ランス)に巻き付けお守りにする。
恋人がおらず、女性にされるがままにさせていたリシャールやルーだったが、本来は恋人同士の習わしだそうだ。
「では、サンチョ殿、ベランジェール。 お元気で。」
乗馬したジェーンがさっぱりとした顔で手を上げると、背景と同じ空色の手首の、金の刺繍がキラキラと太陽の光を反射する。
ほんの一時、視線を合わせるジェーンとベランジェールは微笑んでいる。
そして名残惜しさを振り切るようにジェーンは馬を走らせていった。
そのジェーンの後ろ姿が消えるまで見つめていたベランジェールが切なそうな、なんとも言えない顔だったので、そっと彼女の頭をなでてやる。
「また、会える日があるといいね。」
泣いてしまうかな、と思っていたら、予想外の笑顔が帰ってきた。
「ええ。・・・私の未来も、ジョーン様の未来も。この空の様にきっと、青空ですわ。」
明るく輝く太陽の下、眩しく笑うベランジェールは、とても美しくそして、強い生命力に満ちている。
そうでしか生きていけない現実に、胸が傷んで泣きそうになったが、なんとかこらえる。
「そうだね。」
その一言しか、口にはできなかったが、笑うことはできたので上出来だったのではないだろうか。
ーーーーーあとがきーーーー
エムレは犬で例えるとトルコの国宝犬、カンガール・ドックです。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%B0#
この声は、エムレだ。
ジョーンは盛大な舌打ちをしている。
それがリシャールそっくりで笑える。
なんだかほっとする思いで「エムレここだよ。」と答えた。
開け放たれた入口からエムレの顔がひょっこりと覗き、ジョーンを確認すると部屋に入り大袈裟な身振りで謝罪を始める。
「ああ! ジョーン様! 申し訳ございません! 不覚にもこのエムレ、ジョーン様にお使えする身でありながら酔臥しておりました!」
「ああ。ずっと寝ていて良かったのに。」
「なんと! お心優しい我が君よ。 何かご不自由はございませんでしたか? 」
「君がいると不自由な事があるけどね。」
「は? そ、それは如何様な? このエムレ、何かいたしましたか? 」
「っち。 ウルサイよ。」
「ジ、ジョーン様?? も、申し訳ございません。 生まれつき声が大きなもので、気をつけているのですが、耳障りでしたか? 」
「ぁああ。もう。うるさいうるさい。 何だよ。なんか用なの? 」
「あ、いえ、用は特に・・・。お姿が見えなかったので・・・。」
「そんくらいで騒ぐなよ! ほんとお前はうるさい! 」
「も、申し訳ございません・・・。ですが、王にもしっかりお側でお守りするように仰せつかっておりますし、ジョーン様に何かあったらと、私いても立ってもいられず・・・。」
あまりの喧噪に驚いたが、大きなエムレが怒られてしょんぼりしている犬の様に見えてしまい、ベランジェールと一緒に吹き出してしまう。
ひとしきり笑ったあと、ベランジェールがコホンと咳払いをし、改めてニッコリと微笑んだ。
「エムレ殿。申し訳御座いませんでした。あなた様の我が君のお時間を少しお借りしておりました。ジョーン様、今からパンプローナを発つとすぐに夜になってしまいますわ。出発は明日になされては? 」
「ああ。そうするよ。エムレ。もう一晩お世話になろう。・・・今度は酔臥するなよ。」
「はい。もう飲みませんよ。」
そう言っていたエムルだったが、おれとダニエルの作戦により再び酔臥させらる事となる。
次の日の朝、エムルは頭を抑えながらフラフラとした足取りで、ジョーンに小突かれながら出発を迎えている。
「ジョーン様。これをお持ちになってください。」
サンチョと共に城門外へと見送りに出て来たベランジェールが手にしているのは綿のシャツ。
強い日差しの中で汚れねっとりと張り付くシャツを着替えるだけで疲れが飛ぶこともある。
旅の必需品だ。
そこにブルーのハンカチを忍ばせてあるのだと、ベランジェールからこっそり聞いていた。
ハンカチの生地には白と金色の刺繍を施したと言っていた。
彼女が丹精込めて縫った物だ。
ジェーンはシャツをしまい込むおり、その存在に気づき、素早くそのハンカチを手首に巻き付けた。
騎士に渡すハンカチは、「私の代わりに側に置いて」という思いが込められているという話を聞いたことがある。
そしてそれを手首や槍(ランス)に巻き付けお守りにする。
恋人がおらず、女性にされるがままにさせていたリシャールやルーだったが、本来は恋人同士の習わしだそうだ。
「では、サンチョ殿、ベランジェール。 お元気で。」
乗馬したジェーンがさっぱりとした顔で手を上げると、背景と同じ空色の手首の、金の刺繍がキラキラと太陽の光を反射する。
ほんの一時、視線を合わせるジェーンとベランジェールは微笑んでいる。
そして名残惜しさを振り切るようにジェーンは馬を走らせていった。
そのジェーンの後ろ姿が消えるまで見つめていたベランジェールが切なそうな、なんとも言えない顔だったので、そっと彼女の頭をなでてやる。
「また、会える日があるといいね。」
泣いてしまうかな、と思っていたら、予想外の笑顔が帰ってきた。
「ええ。・・・私の未来も、ジョーン様の未来も。この空の様にきっと、青空ですわ。」
明るく輝く太陽の下、眩しく笑うベランジェールは、とても美しくそして、強い生命力に満ちている。
そうでしか生きていけない現実に、胸が傷んで泣きそうになったが、なんとかこらえる。
「そうだね。」
その一言しか、口にはできなかったが、笑うことはできたので上出来だったのではないだろうか。
ーーーーーあとがきーーーー
エムレは犬で例えるとトルコの国宝犬、カンガール・ドックです。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%B0#
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