30 / 71
パンプローナ
二ー15 レホネオ2 1/2
しおりを挟む
「またアイツに見せ場、取られたな。」
リシャールがそうつぶやきながら、広場の幾つかある出入り口の柵の前でポツリと言った。
その言葉を聞いたポールがあっはっはと声を上げて笑っている。
「見せ場? え? 何の話? いつもリシャールはかっこいいぞ? 」
そう言いながらリシャールを見上げる。
セリフの割には不満げな顔では無く、どちらかと言うと嬉しそうだ。
「ふっ。そうだろうとも。」
リシャールは微笑んでおれの肩を抱くと頭をガシガシとかき回した。
良かった。
安堵と共に、自分の足がわずかに震えているのに気がついた。
戦は何度も経験したが、リシャールがピンチになる姿をほとんど見たことがない。
だからだろうか。
いや。
予期せぬ形でリシャールが命を落とす、そんな恐怖を感じたからだ。
誰かがリシャールの死を願っている。
戦場では腹をくくっているところがあるが、日常の中では、何処か他人事の様に感じていたのだ。
どんなにルーやペランが警戒していても、根本的な所で、やはり、平和慣れしていた、ということに気付かさる。
例えば、こうして群衆の中にあっても、矢で射られるということもあり得るのだ。
頭を撫でられながら、リシャールを見つめていると、「ん? 」と首をかしげていたが、歓声に引っ張られるように、リシャールの視線が背後へと動いていく。
そして、いつもより少し威厳のあるトーンで言葉を発する。
「ルー! 良くやった! 」
拍手喝采を浴びながらルーが馬を降りてこちらに歩いて来ていたのだ。
その称賛の対象はムッスとしながらリシャールの胸をドンっと殴る。
「無事かよ。雄牛の角でケツ掘られなくてよかったな。」
「悪かったな。俺は掘る専門だからな。掘られてたまるかよ。」
リシャールは笑いながら、おれの肩を抱いたまま、空いたほうの腕で眼の前のルーの肩を抱き寄せる。
そのせいでおれはバランスを崩し、同じ様にバランスを崩したルーの頭とリシャールが近づけた頭とで、三人仲良く頭突きをするような形だ。
見せ場を取られたと言っていた割には上機嫌なリシャールは、ルーの頭に自らの頭でグリグリと押し付けている。
「痛てぇって! おい。リシャール辞めろ! 」
ルーが珍しく大きな声で主張する。
恥ずかし紛れに嫌がる素振りをしているのがすぐわかっておかしい。
なんだかんだ言ってこの二人は兄弟の様に仲が良いのだ。
じゃれ合う二人を見て、気持ちが少しずつ落ち着いてゆくのが分かる。
ルーが居れば心配などしなくても大丈夫だと、思えてくる。
今度ルーに警護のしかたでも教わろう。
そんな事を考えていると、落ち着きを取り戻していた会場が、再び湧いている。
ちょうど対角の向かい側にある柵が開き、大きな馬に乗ったサンチョが会場に入ったのだ。
灰色がかったの大きな馬は黒いたてがみをきれいに編み込まれ、梳かれた尻尾をフサフサと揺らしている。
その馬に乗馬するサンチョは先程まで着ていたゆったりした服から、ピッタリと体にフィットした鎧を大きな筋肉質な体に装着して、如何にも戦士という凛々しい風貌だ。
「ははは。いつもあんな感じの格好してれば良いんだよ。そうしてればジャンにクマって呼ばれなくて済むのに。」
いつの間にか側に来ていたらしいダニエルが近くの柵の向こうで笑っている。
「言ったろ。だから。アイツもったいねぇんだよ。」
ダニエルの側で、リシャールが柵にもたれ掛かりながらサンチョを眺めている。
おれたちはその側で同じ様にサンチョに視線を注ぐ。
「え。サンチョ王子、独りだよ。まさか一対一でやるの? 」
「ルーが派手に見せつけたからな。ナバラ名物の闘牛で引けを取ったなんてベランジェールが許さないだろう。」
「・・・ベランジェール様って、大人しそうに見えて、結構激しいよね。」
「まあ、ベランジェールって言うより、サンチョ自身も珍しく血をたぎらせてるみたいだけどな。」
サンチョはリシャールのような民衆に対して何か発言をする様子はない。
淡々と広場の中央に行くと、剣を高々と天に突き出す。
すると馬が強く嘶く。
上体を上げ、まるで空に向かって駆け出すかの様に、前足で空中を蹴った。
その馬に乗るサンチョは剣を天に掲げたままで、器用に馬の背に乗っている。
それは、演説などよりよほど説得力があり、それを見る馬を愛する民達は会場全体で波立つかの様に歓声をあげた。
リシャールがそうつぶやきながら、広場の幾つかある出入り口の柵の前でポツリと言った。
その言葉を聞いたポールがあっはっはと声を上げて笑っている。
「見せ場? え? 何の話? いつもリシャールはかっこいいぞ? 」
そう言いながらリシャールを見上げる。
セリフの割には不満げな顔では無く、どちらかと言うと嬉しそうだ。
「ふっ。そうだろうとも。」
リシャールは微笑んでおれの肩を抱くと頭をガシガシとかき回した。
良かった。
安堵と共に、自分の足がわずかに震えているのに気がついた。
戦は何度も経験したが、リシャールがピンチになる姿をほとんど見たことがない。
だからだろうか。
いや。
予期せぬ形でリシャールが命を落とす、そんな恐怖を感じたからだ。
誰かがリシャールの死を願っている。
戦場では腹をくくっているところがあるが、日常の中では、何処か他人事の様に感じていたのだ。
どんなにルーやペランが警戒していても、根本的な所で、やはり、平和慣れしていた、ということに気付かさる。
例えば、こうして群衆の中にあっても、矢で射られるということもあり得るのだ。
頭を撫でられながら、リシャールを見つめていると、「ん? 」と首をかしげていたが、歓声に引っ張られるように、リシャールの視線が背後へと動いていく。
そして、いつもより少し威厳のあるトーンで言葉を発する。
「ルー! 良くやった! 」
拍手喝采を浴びながらルーが馬を降りてこちらに歩いて来ていたのだ。
その称賛の対象はムッスとしながらリシャールの胸をドンっと殴る。
「無事かよ。雄牛の角でケツ掘られなくてよかったな。」
「悪かったな。俺は掘る専門だからな。掘られてたまるかよ。」
リシャールは笑いながら、おれの肩を抱いたまま、空いたほうの腕で眼の前のルーの肩を抱き寄せる。
そのせいでおれはバランスを崩し、同じ様にバランスを崩したルーの頭とリシャールが近づけた頭とで、三人仲良く頭突きをするような形だ。
見せ場を取られたと言っていた割には上機嫌なリシャールは、ルーの頭に自らの頭でグリグリと押し付けている。
「痛てぇって! おい。リシャール辞めろ! 」
ルーが珍しく大きな声で主張する。
恥ずかし紛れに嫌がる素振りをしているのがすぐわかっておかしい。
なんだかんだ言ってこの二人は兄弟の様に仲が良いのだ。
じゃれ合う二人を見て、気持ちが少しずつ落ち着いてゆくのが分かる。
ルーが居れば心配などしなくても大丈夫だと、思えてくる。
今度ルーに警護のしかたでも教わろう。
そんな事を考えていると、落ち着きを取り戻していた会場が、再び湧いている。
ちょうど対角の向かい側にある柵が開き、大きな馬に乗ったサンチョが会場に入ったのだ。
灰色がかったの大きな馬は黒いたてがみをきれいに編み込まれ、梳かれた尻尾をフサフサと揺らしている。
その馬に乗馬するサンチョは先程まで着ていたゆったりした服から、ピッタリと体にフィットした鎧を大きな筋肉質な体に装着して、如何にも戦士という凛々しい風貌だ。
「ははは。いつもあんな感じの格好してれば良いんだよ。そうしてればジャンにクマって呼ばれなくて済むのに。」
いつの間にか側に来ていたらしいダニエルが近くの柵の向こうで笑っている。
「言ったろ。だから。アイツもったいねぇんだよ。」
ダニエルの側で、リシャールが柵にもたれ掛かりながらサンチョを眺めている。
おれたちはその側で同じ様にサンチョに視線を注ぐ。
「え。サンチョ王子、独りだよ。まさか一対一でやるの? 」
「ルーが派手に見せつけたからな。ナバラ名物の闘牛で引けを取ったなんてベランジェールが許さないだろう。」
「・・・ベランジェール様って、大人しそうに見えて、結構激しいよね。」
「まあ、ベランジェールって言うより、サンチョ自身も珍しく血をたぎらせてるみたいだけどな。」
サンチョはリシャールのような民衆に対して何か発言をする様子はない。
淡々と広場の中央に行くと、剣を高々と天に突き出す。
すると馬が強く嘶く。
上体を上げ、まるで空に向かって駆け出すかの様に、前足で空中を蹴った。
その馬に乗るサンチョは剣を天に掲げたままで、器用に馬の背に乗っている。
それは、演説などよりよほど説得力があり、それを見る馬を愛する民達は会場全体で波立つかの様に歓声をあげた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
珈琲のお代わりはいかがですか?
古紫汐桜
BL
身長183cm 体重73kg
マッチョで顔立ちが野性的だと、女子からもてはやされる熊谷一(はじめ)。
実は男性しか興味が無く、しかも抱かれたい側。そんな一には、密かに思う相手が居る。
毎週土曜日の15時~16時。
窓際の1番奥の席に座る高杉に、1年越しの片想いをしている。
自分より細身で華奢な高杉が、振り向いてくれる筈も無く……。
ただ、拗れた感情を募らせるだけだった。
そんなある日、高杉に近付けるチャンスがあり……。


過食症の僕なんかが異世界に行ったって……
おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?!
ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。
凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる