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二ー1 プロローグ1 2/2
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「じゃーん! 」
大通りを疲れた体を引きずり、ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていると、後ろから声が聞こえる。
振り返ると同時に膝下に衝撃をくらい、カクンと膝が折れ、その場にへたり込んだ。
「じゃん! おかえり! 」
そう言いながら胸に飛び込んできたのは、小さな男の子。
「フィル、会わないうちに大きくなったな。」
「じゃんも、おおきくなった! 」
小さな手がわしゃわしゃと髪をかき回す。
この愛情表現も遺伝なのだろうか、と思うほど父親に良く似た幼い顔が頬ずりをしてくる。
2歳になるフィルことフィリップは、なんやかんやの謀略のせいで生まれ落ちたリシャールの非嫡出子、要は相続権利のない息子で。フィルは貴族になっても、1代限りで子どもたちは貴族にはなれない。という事らしい。
おれはこの子が可愛くてしょうがない。
最初は恋人が他人との間にもうけた生命に嫉妬し、受入れ難かったけれど、冷静さを取り戻し受容できるや、今や恋人であるリシャールが拗ねるほど、慈しんでいる。
このふくふくとした頬がたまらない上、見つめてくる瞳はリシャールと同じヘーゼル色だが、鋭さが除かれ大きくキラキラしている。
頬に当たる髪の毛もサラサラとした薄い金色で、まだ幼く柔らかい感触がくすぐったい。
まるで教会に描かれる天使そのものだ。
「ジャン。おかえり。おつかれさん。」
頭上からする声を見上げると、フィルの面倒を見てくれている宿屋のおかみさんがニコニコと手を差し伸べていた。
「ただいま! お腹空いたー。なんか食うものある? 」
「くうものあるー?」
オウムのように言葉を繰り返すフィルを抱きかかえながら手を借り起き上がると、おかみさんがホコリをパンパンとはたいてくれる。
「ああ。簡単なもんでいいなら、すぐに作るよ。フィルを頼むよ。」
「はーい。」
「あーい。」
数ヶ月ぶりのおかみさんの食事に心をときめかせながら、しっかりと抱きついて離れないフィルを肩車する。
旅で汚れた紋章の入った服と、ゴツゴツした鎧や腰に下げた剣が目立つのか、妙に視線を感じるし、人通りの多い道だが自然と歩きやすく人が避けるようにしてゆくので歩きやすい。
「フィル。おれ、臭い? 」
「うん。だいじょうぶ。みせにくるおじさんたちよりはクサくないよ。」
「・・・だいぶクセェってことだな。」
自分で自分を嗅いで見るがイマイチ分からない。
鼻には戦場での死臭がまだ残っているかのようで、花の匂いも嗅ぎ分けられるかどうか分かったものじゃない。
ボルドーの南に位置する温泉地ダクスへ休暇を利用してリシャールと共に行く事になっているが、一人で先に行ってしまおうかな。
ゆらゆらと頭上のフィルを支えながら歩いていると再び声を掛けられた。
「ジャン! 」
人をかき分けるようにしてこちらに走ってきている人物。
坊主頭に近いほど刈り上げられた頭に髭面、そして頬に傷のある男だ。
「ロベール。ただいまー。」
立ち止まると、にこやかな笑顔で走り寄るロベールに手を上げて挨拶をする。
ロベールの前の人垣が割れて、往来の真ん中とは思えないほどの空間が出来ていた。
「ああ。ご苦労だったな。門兵に聞いておそらくこっちにいるだろうと踏んで来たが、正解だったな。」
「あはは。行動読まれてるね。おれ。」
「まぁ、そうだが、・・・お前、いい雰囲気になったな。すぐ見つけられたよ。」
「 ? 」
「まぁ、気が付かない方がお前らしいな。飯か?」
「うん。近況は飯食いながらでもいい? 」
「もちろんだ。部屋を取らせてある。・・・おい。また背が伸びたな。オレよりデカくなりやがって。」
ロベールは肩車をしたフィリップと握手をすると、おれの頭をポンポンと叩いた。
それを合図に二人で並んで馴染みの宿屋へと歩き出した。
ーーーーーーあとがきーーーーーー
名無しのモブ扱いで(一幕、全裸編ダクス章10話)に登場していたロベール、晴れて舞台に登場です。
大通りを疲れた体を引きずり、ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていると、後ろから声が聞こえる。
振り返ると同時に膝下に衝撃をくらい、カクンと膝が折れ、その場にへたり込んだ。
「じゃん! おかえり! 」
そう言いながら胸に飛び込んできたのは、小さな男の子。
「フィル、会わないうちに大きくなったな。」
「じゃんも、おおきくなった! 」
小さな手がわしゃわしゃと髪をかき回す。
この愛情表現も遺伝なのだろうか、と思うほど父親に良く似た幼い顔が頬ずりをしてくる。
2歳になるフィルことフィリップは、なんやかんやの謀略のせいで生まれ落ちたリシャールの非嫡出子、要は相続権利のない息子で。フィルは貴族になっても、1代限りで子どもたちは貴族にはなれない。という事らしい。
おれはこの子が可愛くてしょうがない。
最初は恋人が他人との間にもうけた生命に嫉妬し、受入れ難かったけれど、冷静さを取り戻し受容できるや、今や恋人であるリシャールが拗ねるほど、慈しんでいる。
このふくふくとした頬がたまらない上、見つめてくる瞳はリシャールと同じヘーゼル色だが、鋭さが除かれ大きくキラキラしている。
頬に当たる髪の毛もサラサラとした薄い金色で、まだ幼く柔らかい感触がくすぐったい。
まるで教会に描かれる天使そのものだ。
「ジャン。おかえり。おつかれさん。」
頭上からする声を見上げると、フィルの面倒を見てくれている宿屋のおかみさんがニコニコと手を差し伸べていた。
「ただいま! お腹空いたー。なんか食うものある? 」
「くうものあるー?」
オウムのように言葉を繰り返すフィルを抱きかかえながら手を借り起き上がると、おかみさんがホコリをパンパンとはたいてくれる。
「ああ。簡単なもんでいいなら、すぐに作るよ。フィルを頼むよ。」
「はーい。」
「あーい。」
数ヶ月ぶりのおかみさんの食事に心をときめかせながら、しっかりと抱きついて離れないフィルを肩車する。
旅で汚れた紋章の入った服と、ゴツゴツした鎧や腰に下げた剣が目立つのか、妙に視線を感じるし、人通りの多い道だが自然と歩きやすく人が避けるようにしてゆくので歩きやすい。
「フィル。おれ、臭い? 」
「うん。だいじょうぶ。みせにくるおじさんたちよりはクサくないよ。」
「・・・だいぶクセェってことだな。」
自分で自分を嗅いで見るがイマイチ分からない。
鼻には戦場での死臭がまだ残っているかのようで、花の匂いも嗅ぎ分けられるかどうか分かったものじゃない。
ボルドーの南に位置する温泉地ダクスへ休暇を利用してリシャールと共に行く事になっているが、一人で先に行ってしまおうかな。
ゆらゆらと頭上のフィルを支えながら歩いていると再び声を掛けられた。
「ジャン! 」
人をかき分けるようにしてこちらに走ってきている人物。
坊主頭に近いほど刈り上げられた頭に髭面、そして頬に傷のある男だ。
「ロベール。ただいまー。」
立ち止まると、にこやかな笑顔で走り寄るロベールに手を上げて挨拶をする。
ロベールの前の人垣が割れて、往来の真ん中とは思えないほどの空間が出来ていた。
「ああ。ご苦労だったな。門兵に聞いておそらくこっちにいるだろうと踏んで来たが、正解だったな。」
「あはは。行動読まれてるね。おれ。」
「まぁ、そうだが、・・・お前、いい雰囲気になったな。すぐ見つけられたよ。」
「 ? 」
「まぁ、気が付かない方がお前らしいな。飯か?」
「うん。近況は飯食いながらでもいい? 」
「もちろんだ。部屋を取らせてある。・・・おい。また背が伸びたな。オレよりデカくなりやがって。」
ロベールは肩車をしたフィリップと握手をすると、おれの頭をポンポンと叩いた。
それを合図に二人で並んで馴染みの宿屋へと歩き出した。
ーーーーーーあとがきーーーーーー
名無しのモブ扱いで(一幕、全裸編ダクス章10話)に登場していたロベール、晴れて舞台に登場です。
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