81 / 84
ルーアン
41(2/2)
しおりを挟む
「そう言えば、マグリットだが。」
思わずその名にビクリ、と、してしまった。
なんとなく反応してはいけない雰囲気を察したつもりだが、意識すればするほど鼓動が早くなる。
王は顎に手を当てながらさまようように視線を動かすと、リシャールをひたと見つめる。
「子を宿していたようだが、駄目だったらしいな。」
その視線を受けるリシャールは、そのまま王を射抜くような勢いで見つめ返す。
この時、父と子の視線が初めて合ったように感じられた。
「そう、でしたか。お子を授かったとは聞き及んでおりましたが、それは残念な事です。」
「ほう。知らぬのか。アンリが留守の間に産気付いて、アデルが急ぎ向かって出産に立ち会おうとしたらしいのだが・・・。わしは孫をこの手に抱くことが出来きなかった。」
「兄上も忙しく放浪しておいでだが、また機会も訪れましょう。」
「っふ。機会のぅ。アンリに子を授ける才能があるとは、思わなかったがなぁ。」
「私もまだまだ結婚は先延ばしにしたいゆえ、兄上に父上の望みは託しましょう。」
王はリシャールが口にした結婚という言葉にややびっくりした顔をすると、直ぐに豪快な笑い声を立てると椅子から立ち上がった。
「まぁ、若いうちに楽しんでおけ。結婚なんて、ろくなもんじゃない。お前は自由にしておれば良い。」
「はい。」
「明日の宴をぜひ楽しんで参れ。」
そう言い残すと王は、短めのコートを揺らしながら部屋から出ていった。
扉が静かに閉まるまで礼を取っていたリシャールは佇まいを正すと、鋭い眼光をそのまま宰相に視線を向ける。
宰相はそんな視線にも気後れせずに、作り笑いのまま話しかける。
「では、本日は客間でお過ごしください。案内いたします。」
「いや、案内はいらぬ。第二寝室だろう? 」
「はい。恐れ入ります。」
リシャールは勝手知ったる城という様子で、謁見の間から出ようと扉近くま大股で歩くと、見送る宰相を振り返り問うた。
「お前も結婚はろくなもんじゃないと、思うか? 」
「そうですね、一概に言い切れるものでもございませんが。幸せな暮らしをしている方もいらっしゃいますから。まぁ、人それぞれかと。」
「そうか。俺も結婚をしたほうが良いと思うか? 父上も暗に孫が欲しいとおっしゃっている様だが。」
「ほっほっほ。リシャール殿もその様な事をお考えになるようになられましたか。いやいや。成長されましたなぁ。」
「婚約者はいるのだがなぁ。」
「・・・左様でございますなぁ。まぁ、リシャール殿はまだお若い。お父上の言う通り、妻に囚われず楽しめると思えば、それはそれで宜しいのではないでしょうか。」
リシャールは宰相の言葉に顔を歪めると吐き捨てるようにして話す。
「ふん。まあよい。アデルはここには? 」
「・・・マグリット様のお傍に居たいという事で、この度のクリスマスの宮廷には出席されません。」
「今後もアレを俺に近づけるな。」
「はい。心得ました。」
宰相の答えも聞く気が無いのだろう、リシャールは開け放たれた扉からすでに出てしまい、おれは急いでリシャールを追いかける。
こんないたたまれない空気の中、明日の宮廷に出席しなければいけないと思うと少し気が滅入った。
前を大股で歩くリシャールの背中を見つめると、なにやら寂しい気持ちに襲われる。
自分が思い描いていた父と子の関係という物とは全く無縁な世界なのだろう。
この時代では、血すら信頼する所以の無い存在なのか。
むしろ血族のほうが関係を歪に捻じ曲げ、難解にしてしまうのだろうか。
自分たち庶民とは一線を画す存在である王家とは、こうも安寧と言う場所が無い環境だとは思わなかった。
ならば、自分がリシャールの安寧の地とならねばならない。
ーお前が居ないと、息も出来なくなりそうなんだ。
そう言ったリシャールの言葉を思い出し、もう一度心に刻んだ。
ーーーあとがきーーー
ピュルテジュネ王、出ました。
この人は本当に統治力的にもすごい人ですが、女関係がゲスでクズです。【作者の捏造】
アデルの前【1年くらい被る】に居た愛人は森の中に迷路みたいな城作って妻にバレない様に囲っておきながら、26歳で死なしています。病死らしいのですが、そんな場所に囲っておいて、若い女に現を抜かしているらしいなんて噂を聞けばおそらく病むでしょうよ。
酷い男です。【ほぼ私の勝手な想像ですが。】
思わずその名にビクリ、と、してしまった。
なんとなく反応してはいけない雰囲気を察したつもりだが、意識すればするほど鼓動が早くなる。
王は顎に手を当てながらさまようように視線を動かすと、リシャールをひたと見つめる。
「子を宿していたようだが、駄目だったらしいな。」
その視線を受けるリシャールは、そのまま王を射抜くような勢いで見つめ返す。
この時、父と子の視線が初めて合ったように感じられた。
「そう、でしたか。お子を授かったとは聞き及んでおりましたが、それは残念な事です。」
「ほう。知らぬのか。アンリが留守の間に産気付いて、アデルが急ぎ向かって出産に立ち会おうとしたらしいのだが・・・。わしは孫をこの手に抱くことが出来きなかった。」
「兄上も忙しく放浪しておいでだが、また機会も訪れましょう。」
「っふ。機会のぅ。アンリに子を授ける才能があるとは、思わなかったがなぁ。」
「私もまだまだ結婚は先延ばしにしたいゆえ、兄上に父上の望みは託しましょう。」
王はリシャールが口にした結婚という言葉にややびっくりした顔をすると、直ぐに豪快な笑い声を立てると椅子から立ち上がった。
「まぁ、若いうちに楽しんでおけ。結婚なんて、ろくなもんじゃない。お前は自由にしておれば良い。」
「はい。」
「明日の宴をぜひ楽しんで参れ。」
そう言い残すと王は、短めのコートを揺らしながら部屋から出ていった。
扉が静かに閉まるまで礼を取っていたリシャールは佇まいを正すと、鋭い眼光をそのまま宰相に視線を向ける。
宰相はそんな視線にも気後れせずに、作り笑いのまま話しかける。
「では、本日は客間でお過ごしください。案内いたします。」
「いや、案内はいらぬ。第二寝室だろう? 」
「はい。恐れ入ります。」
リシャールは勝手知ったる城という様子で、謁見の間から出ようと扉近くま大股で歩くと、見送る宰相を振り返り問うた。
「お前も結婚はろくなもんじゃないと、思うか? 」
「そうですね、一概に言い切れるものでもございませんが。幸せな暮らしをしている方もいらっしゃいますから。まぁ、人それぞれかと。」
「そうか。俺も結婚をしたほうが良いと思うか? 父上も暗に孫が欲しいとおっしゃっている様だが。」
「ほっほっほ。リシャール殿もその様な事をお考えになるようになられましたか。いやいや。成長されましたなぁ。」
「婚約者はいるのだがなぁ。」
「・・・左様でございますなぁ。まぁ、リシャール殿はまだお若い。お父上の言う通り、妻に囚われず楽しめると思えば、それはそれで宜しいのではないでしょうか。」
リシャールは宰相の言葉に顔を歪めると吐き捨てるようにして話す。
「ふん。まあよい。アデルはここには? 」
「・・・マグリット様のお傍に居たいという事で、この度のクリスマスの宮廷には出席されません。」
「今後もアレを俺に近づけるな。」
「はい。心得ました。」
宰相の答えも聞く気が無いのだろう、リシャールは開け放たれた扉からすでに出てしまい、おれは急いでリシャールを追いかける。
こんないたたまれない空気の中、明日の宮廷に出席しなければいけないと思うと少し気が滅入った。
前を大股で歩くリシャールの背中を見つめると、なにやら寂しい気持ちに襲われる。
自分が思い描いていた父と子の関係という物とは全く無縁な世界なのだろう。
この時代では、血すら信頼する所以の無い存在なのか。
むしろ血族のほうが関係を歪に捻じ曲げ、難解にしてしまうのだろうか。
自分たち庶民とは一線を画す存在である王家とは、こうも安寧と言う場所が無い環境だとは思わなかった。
ならば、自分がリシャールの安寧の地とならねばならない。
ーお前が居ないと、息も出来なくなりそうなんだ。
そう言ったリシャールの言葉を思い出し、もう一度心に刻んだ。
ーーーあとがきーーー
ピュルテジュネ王、出ました。
この人は本当に統治力的にもすごい人ですが、女関係がゲスでクズです。【作者の捏造】
アデルの前【1年くらい被る】に居た愛人は森の中に迷路みたいな城作って妻にバレない様に囲っておきながら、26歳で死なしています。病死らしいのですが、そんな場所に囲っておいて、若い女に現を抜かしているらしいなんて噂を聞けばおそらく病むでしょうよ。
酷い男です。【ほぼ私の勝手な想像ですが。】
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる