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リヨンス

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外からにぎやかな声が聞こえてくる。
木戸の隙間から太陽の光が差し込み、ベットに線を描いている。
久しぶりのベットは寝心地がよく、寝すぎたようだ。
気だるい体を引きずるようにして広いベットを這い、端っこでクシャクシャになった服を取ると座ったままでモソモソと着替える。

昨夜、一緒に居たはずのリシャールはおれを置いてどこに行ったのだろうか。
部屋は外の賑やかさと相対して暗く寂しく感じられる。
せっかく久しぶりに再開して、一夜を共にしたのなら、朝目覚めるまで側に居てくれてらいいのに。
先に目覚めて、何処かに行かねばならぬなら、起こしてくれたらよかった。

今まで離れていた反動か、寂しさが込み上げ、潤む目をゴシゴシと手でこする。
駄目だ。こんな事で泣くなんて。
誰かを好きになるという事は、自分の弱さに気が付かされる事なのだろうか。
互いの気持ちが通じ会えた事への喜びから、一転してこんな些細な事で寂しさを感じるとは思わなかった。
前はどこかで自分を抑えていたのかもしれない。
自分は愛妾であって、恋人ではない。
そう言い聞かせていた。
恋人へと昇華した今、朝の挨拶を交わすという小さな事でも喜びに感じたかった。
恋人という形への幻想かもしれない。

・・・いや、そもそも恋人なのか?
そう言えば明確に言われた気がしない。
側に居れとは言われたけど・・・。
いや、でも、お前意外とはヤラないっていうのはそういう意味だよね?

昨日のリシャールの言葉を思い出し、いたたまれない気持ちで再びベットにダイブし、ゴロゴロと転がり回る。ニヤける顔を両手で抑えて見るが、どうやっても口角が上がってしまうし、終いには気持ちの悪い声で笑がこぼれだしてしまう。
そうして一通り喜びを噛み締め終わると、顔をペチンと叩き気持ちを入れ替える。
外にはきっとポール達が居るのだろう。
デレデレした顔をしているとすぐにからかわれてしまう。

外では相変わらず大きな笑い声や話し声が聞こえていて、窓に手をかけると木戸をゆっくりと開けた。
冷たいけれど気持ちの良い風が火照る顔に気持ちがいい。
見下ろす庭には、数人の大人が今しがた帰ってきた様子で何やら作業をしていた。
その陣頭指揮をしているのはポールだ。

「ポール。なにしてるのー? 」
「おぉ。ジャン! ホントに居たな。」
「うん。ただいま! 」

その声を聞いて他の数人がこちらを見上げると嬉しそうに手を振ってくる。

「うぉー。ジャン。 おかえり!  」
「心配かけやがって! どこに行ってたんだよ! 」
「1人で帰ってきたのかー? 」

屈強な男たちが嬉しそうに手を振る姿はなんともいえず微笑ましい。
嬉しくなって手を振り返していると、口々に叫ぶ彼らの1人の頭を殴りながら、ポールが怒鳴る。

「うるせぇな。お前ら。早く作業しろよ。おい! ジャン! 高みの見物してねぇで降りてこい! 」
「・・・はーぃ。」

庭に出ると早速仲間たちから手厚い歓迎を受け、もみくちゃにされながらやっとポールの所にたどり着く。

「おはよー。なんでここに居るの判ったの? 」
「おはようじゃねぇよ。もう昼だ。なんだお前、リシャールと話してないのか? 」
「え? あー。・・・まぁ、話したのは話したけど・・・。」

昨夜の事を聞かれ顔が熱くなるのを誤魔化しながら、モゴモゴと答えているとせっかちのポールが舌打ちをする。

「っち。野暮な事聞いちまったか。まぁいい。昨日の狩り中にな、リシャールが突然 ”ラトロアの様子がおかしい。ひょっとしたらジャンかもしれない” って言うんだよ。んで突然 ”俺は帰る。後は頼んだ。” っつって帰っちまうからまさかとは思ったが・・・。リシャール含め動物の勘はすげぇな。」
「そっか。ラトロアとポチ仲が良いもんね。ポチがおれと会って喜んで騒いでるのを感づいたのかな。」
「まぁ、距離的にもそんなに離れてはなかったからな。それにしても・・・。しばらく合わないうちに背が伸びたか? 」


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