75 / 84
リヨンス
38(2/2)
しおりを挟む厩ではポチが嬉しそうにおれを迎えてくれた。
隣ではリシャールの黒く大きな馬が眠りながら尻尾をパタパタと少し揺らした。
おれはポチの横のわらの束の上にまとった布を広げ、持ってきた衣服に着替えるとポチの鼻を撫でた。
しばらくそうしていると、後ろから足音が近づいてくるのが聞こえた。
「・・・悪かった。ジャン。」
リシャールの声だ。
振り向くと厩の外で佇むリシャールが月明かりに照らされていた。
「リシャールは、悪くないじゃん。お前は、悪くないじゃん!!ってか、なんでおれに謝るんだよ・・・。 」
「・・・それは・・・もう、お前が離れていくのが、嫌だから・・・。」
「おれだって!! おれだって、嫌だよ・・・。」
その言葉が口らか出たとき、覚悟を決めた。
「おれ、リシャールが好きだ。」
後ろからの月明かりでリシャールの表情は見えなかった。けれど、そのまま続ける。
「凶器みたいな顔も、笑ったらかわいい所も、自由な所も、そんで、やらかしちゃう所も、全部好きだ! でも・・・」
リシャールは「・・・でも? 」と先を促すように繰り返した。
「おれは、子どもは産めないから、リシャールを繋ぎ止める方法がない。好きだと言った所で、一緒になる事はルール上出来ないって言うのも知ってるから。そして、リシャールがいつか誰かと結婚しなければいけない立場なのも、知ってる。だから、こんな告白しても、意味が無いかもしれない。それでも、その、愛妾として飽きられたとしても、今度はトルバドールとして、ずっとリシャールの側に居たいって、思ってる。思ってるんだけど・・・」
リシャールは今度は黙ったまま次の言葉を待っている。
おれは少し怯む気持ちにムチを打ちながら、次の言葉をひねり出す。
「リシャールが、あの子どものことを認めることが出来ないというなら、リシャールから離れておれが育てようと思ってる。」
厩には数匹の馬が眠っていて、彼らの寝息が聞こえている。
隣でポチが小さく嘶く。
11月下旬の外は、虫の声もなくただ月明かりが優しい光を注いでいる。
しばらく無音だった厩に、リシャールの低い声が響く。
「・・・どうして? お前が? 」
「おれ、母親にいらないって、言われて育ったんだ。要るって言ってくれたおばあちゃんは、小さい頃にすぐに死んで。それからは、ずっといらないって言われ続けた。・・・だから、あの赤ん坊が、あの子が自分と同じ様にいらないって言われるのが、苦しいんだ。もしかしたらおれが生まれ変わった理由は、あの子の為なのかもしれないとも、思うんだ。」
たまらず抱きしめたポチの鼻面は暖かく、生きているぬくもりが感じられた。
前の世界で感じられなかった命を、この世界ではぬくもりと痛みとともに鮮烈に感じている。
ポチをひと撫でして、リシャールに振り返る。
「リシャールの事、好きだけど、この世界に来て沢山もらった愛情をおれも誰かにも返したい。それが、大好きなリシャールの血を分けた子どもだったら、むしろそれごと、愛したい。」
月を背に佇むリシャールは、まるで絵のように幻想的だ。
狩りから帰ってそのままの格好のリシャールは鎧こそ脱いではいるが、屈強な戦士そのもので、相変わらずどこから見てもかっこいい。
そう思っているとリシャールが近づいて来て、力強く抱きすくめられた。
横では繋がれた状態のポチが嘶いている。
「ジャン。」
リシャールの優しい声が耳元で囁く。
「もう二度と離れないでくれ。お前が居ないと、息も出来なくなりそうなんだ。」
強く強く、抱きしめられたかと思うと力が緩み、そっと体が離れるか離れないかの距離で、柔らかな唇が重ねられた。
軽く触れて離れると、今度は互いの視線が絡み合う。
そしてもう一度、今度は深く、互いに唇を重ねた。
ーーーあとがきーーー
馬は立って寝れるそうです。
もちろん横になっても眠るらしいです。
その場合の睡眠は3時間程度。
草食で狩られる側なので、日中にこまめに休息しているとか。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる