69 / 84
回想
35(2/2)
しおりを挟む
両家は親交の深い間柄にある。
リシャールの母親であるエレノアは2度めの結婚でピュルテジュネ家に嫁いで来たのだが、1度目の結婚がこのカペー家の現在の王ルイ7世なのであった。
ルイとエレノアの間には女児しか恵まれず、信仰心熱く真面目なルイと社交的で明るく奔放な性格のエレノアとですれ違いが年々と大きくなり、協議の結果近親婚であったことが発覚した、という事になり離婚が成立し、エレノアは10歳年下の現在の夫のピュルテジュネ王へと嫁いでゆくのである。
その間、カペー家の娘たちは母親であるエレノアとの親交は続き、また、ルイと2度目の妻との間に出来た子女たちにはピュルテジュネ家と婚姻の約束が結ばれ、エレノアが彼女達を預かるという形をとり、2つの家は更に繋がりを強めていた。
ピュルテジュネ家としては、男子の居ないカペー家の領地を婚姻によってあわよくば手に入れようという虎視眈々とした思惑を隠す事もなく、カペー家はなし崩しに、強い勢力を持つピュルテジュネ家の言われるがままに子どもたちを手中に収められていった。
ルイの2度目の妻との間に出来た第3子女マグリットと第4子女アデル。
ピュルテジュネ王とエレノアの息子、アンリとリシャール。
こうして、二組の歪な関係がはじまったのである。
ルイの元には男子が恵まれていなかったが、2度目の妻がアデルを産むと同時に他界したため、3度目の妻を迎い入れたその時にやっと男子に恵まれた。
しかし、その時はすでにルイは高齢となっており、この度やっと出来た嗣子、フィリップが12歳になったこの年に王位を譲る事となった。
戴冠式に出席することがランスへ行く理由である。
ランスでは祝賀会が催され、戴冠式は一大イベントとして盛大に執り行われた。
もちろん、沢山の招待客の中には、フィリップの姉であり、リシャールの婚約者であるアデルの姿もあったのである。
贅を凝らした派手なドレスを美しく身にまとい、戴冠式の主役の「姉」であるアデルはにこやかに参加者たちと対話しているが、その環から離れると、彼女は噂の的であった。
リシャールは、もともと機嫌の悪い上に1番会いたくない人物であるアデルに、エスコートするどころか一瞥するのみで、彼女を近づける事もしなかった。
リシャールは本能的に、分かっていたのだ。
マグリットの後ろに彼女の存在がある事を。
そんな事は誰も知らない事ではあるのだが、この彼の態度に、その場の者たちは同情的だった。
それは彼女の醜聞のせいである。
リシャールの父であるピュルテジュネ王との良からぬ関係であるらしいという事が、彼女の生まれ故郷であるこの地にも囁かれていたのだ。
「面白くねぇなぁ。」
「おい。でかい声で言うなよ。」
「アイツらの顔見ると飯が不味くなんだよなぁ。」
「やめろ。」
ポールに殴られながら部屋の済の椅子に座り込んで酒を呑んでいるリシャールは、挨拶をして回る小さな少年の1団に目が止まる。
「フィリップ!!」
その呼びかけに手を上げた人物は大人びた笑顔でにこやかに微笑むと、話している人物に丁寧にお辞儀をしている。
戴冠式を控えた前夜祭である今宵の宴の主役フィリップだ。
こちら顔を向けると、少し癖のある黒い髪に灰簾石のような瞳を細くさせ、あどけない少年の顔を見せた。
忙しく動き回っているであろう彼は疲れも見せずに颯爽と歩み寄ってくる。
「やぁ。リシャール。こんな所でとぐろを巻いているのかい。」
「兄さん! 自分の家じゃ無いんだからね! 自重しろよ! 」
フィリップの横でみかん色の明るい髪を揺らしながら元気に注意してくるのは、リシャールの弟ジェフロア。
彼は今、カペー家でフィリップの学友として一緒に過ごしている。
ランスに到着後すぐに彼らには正式な挨拶は済ませているので堅苦しい態度はしなくても良いだろうと考えるリシャールに「他の客も居るのだ、きちっとしろよ。」と真面目に注意をしてくる。
「っち。ジェフ。なんかお前ポールに似てきたね。」
「おや。それは褒め言葉ですな。良かったですね、ジェフロア様。」
「リシャールに似てるって言われるとショックだけど、ポールだと俺も嬉しい! ってか、ほんとに俺たち似てるよね! ほら、髪の色とか、リシャールよりポールのほうが近いよね! 」
「いえいえ。ジェフロア様の髪はオレの硬い髪より柔らかくて、柔軟性があって貴方の性格を物語って美しいですよ。」
「ふぉーー。すっげぇ。聞いた今の! 騎士じゃん! かっけー。オレも騎士のトーク使える様になりたい! ポール教えてよ! 」
「ポール殿。僕にも教えて下さい。」
ジェフロアは子犬の様な様子でポールにじゃれ付き、フィリップもその環に参加し始め、リシャールは疎外感に口を尖らせた。
「あぁ・・・。どいつもこいつも。気に入らねぇなぁ・・・。」
酒を呷りながら少年達の1団を見ていると、1人目を引く少年に気がついた。
ーーーあとがきーーー
フィリップと仲間たち登場しました。
※年齢変更(2024.07.14)
リシャールの母親であるエレノアは2度めの結婚でピュルテジュネ家に嫁いで来たのだが、1度目の結婚がこのカペー家の現在の王ルイ7世なのであった。
ルイとエレノアの間には女児しか恵まれず、信仰心熱く真面目なルイと社交的で明るく奔放な性格のエレノアとですれ違いが年々と大きくなり、協議の結果近親婚であったことが発覚した、という事になり離婚が成立し、エレノアは10歳年下の現在の夫のピュルテジュネ王へと嫁いでゆくのである。
その間、カペー家の娘たちは母親であるエレノアとの親交は続き、また、ルイと2度目の妻との間に出来た子女たちにはピュルテジュネ家と婚姻の約束が結ばれ、エレノアが彼女達を預かるという形をとり、2つの家は更に繋がりを強めていた。
ピュルテジュネ家としては、男子の居ないカペー家の領地を婚姻によってあわよくば手に入れようという虎視眈々とした思惑を隠す事もなく、カペー家はなし崩しに、強い勢力を持つピュルテジュネ家の言われるがままに子どもたちを手中に収められていった。
ルイの2度目の妻との間に出来た第3子女マグリットと第4子女アデル。
ピュルテジュネ王とエレノアの息子、アンリとリシャール。
こうして、二組の歪な関係がはじまったのである。
ルイの元には男子が恵まれていなかったが、2度目の妻がアデルを産むと同時に他界したため、3度目の妻を迎い入れたその時にやっと男子に恵まれた。
しかし、その時はすでにルイは高齢となっており、この度やっと出来た嗣子、フィリップが12歳になったこの年に王位を譲る事となった。
戴冠式に出席することがランスへ行く理由である。
ランスでは祝賀会が催され、戴冠式は一大イベントとして盛大に執り行われた。
もちろん、沢山の招待客の中には、フィリップの姉であり、リシャールの婚約者であるアデルの姿もあったのである。
贅を凝らした派手なドレスを美しく身にまとい、戴冠式の主役の「姉」であるアデルはにこやかに参加者たちと対話しているが、その環から離れると、彼女は噂の的であった。
リシャールは、もともと機嫌の悪い上に1番会いたくない人物であるアデルに、エスコートするどころか一瞥するのみで、彼女を近づける事もしなかった。
リシャールは本能的に、分かっていたのだ。
マグリットの後ろに彼女の存在がある事を。
そんな事は誰も知らない事ではあるのだが、この彼の態度に、その場の者たちは同情的だった。
それは彼女の醜聞のせいである。
リシャールの父であるピュルテジュネ王との良からぬ関係であるらしいという事が、彼女の生まれ故郷であるこの地にも囁かれていたのだ。
「面白くねぇなぁ。」
「おい。でかい声で言うなよ。」
「アイツらの顔見ると飯が不味くなんだよなぁ。」
「やめろ。」
ポールに殴られながら部屋の済の椅子に座り込んで酒を呑んでいるリシャールは、挨拶をして回る小さな少年の1団に目が止まる。
「フィリップ!!」
その呼びかけに手を上げた人物は大人びた笑顔でにこやかに微笑むと、話している人物に丁寧にお辞儀をしている。
戴冠式を控えた前夜祭である今宵の宴の主役フィリップだ。
こちら顔を向けると、少し癖のある黒い髪に灰簾石のような瞳を細くさせ、あどけない少年の顔を見せた。
忙しく動き回っているであろう彼は疲れも見せずに颯爽と歩み寄ってくる。
「やぁ。リシャール。こんな所でとぐろを巻いているのかい。」
「兄さん! 自分の家じゃ無いんだからね! 自重しろよ! 」
フィリップの横でみかん色の明るい髪を揺らしながら元気に注意してくるのは、リシャールの弟ジェフロア。
彼は今、カペー家でフィリップの学友として一緒に過ごしている。
ランスに到着後すぐに彼らには正式な挨拶は済ませているので堅苦しい態度はしなくても良いだろうと考えるリシャールに「他の客も居るのだ、きちっとしろよ。」と真面目に注意をしてくる。
「っち。ジェフ。なんかお前ポールに似てきたね。」
「おや。それは褒め言葉ですな。良かったですね、ジェフロア様。」
「リシャールに似てるって言われるとショックだけど、ポールだと俺も嬉しい! ってか、ほんとに俺たち似てるよね! ほら、髪の色とか、リシャールよりポールのほうが近いよね! 」
「いえいえ。ジェフロア様の髪はオレの硬い髪より柔らかくて、柔軟性があって貴方の性格を物語って美しいですよ。」
「ふぉーー。すっげぇ。聞いた今の! 騎士じゃん! かっけー。オレも騎士のトーク使える様になりたい! ポール教えてよ! 」
「ポール殿。僕にも教えて下さい。」
ジェフロアは子犬の様な様子でポールにじゃれ付き、フィリップもその環に参加し始め、リシャールは疎外感に口を尖らせた。
「あぁ・・・。どいつもこいつも。気に入らねぇなぁ・・・。」
酒を呷りながら少年達の1団を見ていると、1人目を引く少年に気がついた。
ーーーあとがきーーー
フィリップと仲間たち登場しました。
※年齢変更(2024.07.14)
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる