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ウィンザー
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「父親が偉大すぎると反抗したくなるのかな。」
別れの食事会として宿屋の1階に併設されている食堂でルーと酒を酌み交わしながら聞いてみた。
「オレに聞くなよ。オレの親父は騎士も名ばかりで、軍役免除金を払って漁師をしてた変人だ。」
「え。なんで? 騎士嫌になっちゃったの? お父さん。」
「おふくろが従軍しないでくれって泣いてすがったらしい。おふくろにぞっこんだった親父は金を払うために剣術指導や漁師をしてた。」
「ひょっとして、ルーが美形なのはお母さん譲り? 」
「・・・お前らだけだからな。美形って言うの許すの。ちやほやされるの好きじゃねぇ。」
そう言いながら、長い脚を組みため息を付きながらノルマンディー名産のりんご酒、シードルを飲むルーの姿は人目を引く。
いつもルーと食事をする時は街道沿いの席に座らされる。
ルーに引き寄せられるように客が増えるからではないかと、おれは予想しているが、やはりそれは間違いではないらしい。
人の少なかった店がいつの間にか女性を中心に客が増えて満席になっている。
まぁ、こんなだったらちやほやされるの好きじゃないっていう気持ちも分かるな。
そんなことを考えながら道行く人達を眺めていると、ふっと見知った顔が見えた。
その人物はルーとおれの顔を見ると嬉しそうに顔をクシャックシャにして大きく手を振って近づいてくる。
「やっぱり! ルー! ジャン! 」
「ペラン! 」
旅疲れた様子のペランはドカリと椅子に座ると「良かったー! 」と脱力している。
「すごいね。こんな大きな街でよく会えたよね! 」
「あー。お前ら、目立つからな。探すのは心配してなかったけど、流石に見つけられると安心するぜ。」
「ルーが一緒だといつもこんな感じで店先で客寄せさせられるんだよ。でも、今回は逆にそれで会えたからよかったね! 」
「いや、ルーだけのせいじゃねぇと思うけどな。まぁ、それは良いとして。オレにも一杯くれよ。」
ペランが店員に話かけてエールを頼む。
「ペラン、シードルうまいよ。呑んだ? 」
「シードルは子どもの飲みもんだからな。ジャンにはお似合いだ。」
「ルーだって呑んでるじゃん! 」
そう言うと黙って食事を口に入れていたルーがちらりとこちらを見て答える。
「オレは故郷の味だからコレを飲まないとなんか落ち着かねぇんだよ。あと、お前に合わせてんだ。」
「なんだよ! 二人しておれを子ども扱いしやがって! 」
「あっはっは。良かったジャン。元気そうだな。一時はどうなるかと思ったけど、この様子なら大丈夫だな。」
そう言われてはっとする。
「・・・ごめん。黙って出ていって。怒ってる? ・・・リシャールも・・・。」
「オレは怒ってねぇよ。リシャールは、うーん。怒ってるっていうか・・・まぁ、自業自得だからな。オレとしては速くジャンを見つけられて良かったよ。あいつ荒れてるとめんどくせぇから。」
「荒れてる?」
「ああ。そりゃもう、今までに無いくらい荒れてるぜ。そんで、今すぐ動きたいのに予定に縛られて動けないと来て、イライラがもう面倒くさいのなんのって、早くジャンを見つけ出そうって、オレが単身で捜査してたって訳だ。大変だったんだぜ。」
そう言いながらペランはエールを受け取るついでに幾つか食べ物を注文する。
「おごりだろ? ジャン。」
「そう言われると断れないじゃん。」
「まぁまぁ。話も聞きたいだろ? リシャールがどんな様子だったか、気になってるんだろ? 」
「・・・まぁ。それは・・・、そうだけど・・・。どんな様子だったの? 」
そうこなくっちゃと言わんばかりの顔で笑顔を作るとペランは机の上に乗ったおれたちの食事に手を伸ばしながら話始めた。
ーーーあとがきーーー
シードルはワインと同じ位昔から作られている飲み物で、フランスではシードル、イギリスではサイダー、スペインではシードラ、サガルドと、各地方に寄って呼び名が違うようです。
別れの食事会として宿屋の1階に併設されている食堂でルーと酒を酌み交わしながら聞いてみた。
「オレに聞くなよ。オレの親父は騎士も名ばかりで、軍役免除金を払って漁師をしてた変人だ。」
「え。なんで? 騎士嫌になっちゃったの? お父さん。」
「おふくろが従軍しないでくれって泣いてすがったらしい。おふくろにぞっこんだった親父は金を払うために剣術指導や漁師をしてた。」
「ひょっとして、ルーが美形なのはお母さん譲り? 」
「・・・お前らだけだからな。美形って言うの許すの。ちやほやされるの好きじゃねぇ。」
そう言いながら、長い脚を組みため息を付きながらノルマンディー名産のりんご酒、シードルを飲むルーの姿は人目を引く。
いつもルーと食事をする時は街道沿いの席に座らされる。
ルーに引き寄せられるように客が増えるからではないかと、おれは予想しているが、やはりそれは間違いではないらしい。
人の少なかった店がいつの間にか女性を中心に客が増えて満席になっている。
まぁ、こんなだったらちやほやされるの好きじゃないっていう気持ちも分かるな。
そんなことを考えながら道行く人達を眺めていると、ふっと見知った顔が見えた。
その人物はルーとおれの顔を見ると嬉しそうに顔をクシャックシャにして大きく手を振って近づいてくる。
「やっぱり! ルー! ジャン! 」
「ペラン! 」
旅疲れた様子のペランはドカリと椅子に座ると「良かったー! 」と脱力している。
「すごいね。こんな大きな街でよく会えたよね! 」
「あー。お前ら、目立つからな。探すのは心配してなかったけど、流石に見つけられると安心するぜ。」
「ルーが一緒だといつもこんな感じで店先で客寄せさせられるんだよ。でも、今回は逆にそれで会えたからよかったね! 」
「いや、ルーだけのせいじゃねぇと思うけどな。まぁ、それは良いとして。オレにも一杯くれよ。」
ペランが店員に話かけてエールを頼む。
「ペラン、シードルうまいよ。呑んだ? 」
「シードルは子どもの飲みもんだからな。ジャンにはお似合いだ。」
「ルーだって呑んでるじゃん! 」
そう言うと黙って食事を口に入れていたルーがちらりとこちらを見て答える。
「オレは故郷の味だからコレを飲まないとなんか落ち着かねぇんだよ。あと、お前に合わせてんだ。」
「なんだよ! 二人しておれを子ども扱いしやがって! 」
「あっはっは。良かったジャン。元気そうだな。一時はどうなるかと思ったけど、この様子なら大丈夫だな。」
そう言われてはっとする。
「・・・ごめん。黙って出ていって。怒ってる? ・・・リシャールも・・・。」
「オレは怒ってねぇよ。リシャールは、うーん。怒ってるっていうか・・・まぁ、自業自得だからな。オレとしては速くジャンを見つけられて良かったよ。あいつ荒れてるとめんどくせぇから。」
「荒れてる?」
「ああ。そりゃもう、今までに無いくらい荒れてるぜ。そんで、今すぐ動きたいのに予定に縛られて動けないと来て、イライラがもう面倒くさいのなんのって、早くジャンを見つけ出そうって、オレが単身で捜査してたって訳だ。大変だったんだぜ。」
そう言いながらペランはエールを受け取るついでに幾つか食べ物を注文する。
「おごりだろ? ジャン。」
「そう言われると断れないじゃん。」
「まぁまぁ。話も聞きたいだろ? リシャールがどんな様子だったか、気になってるんだろ? 」
「・・・まぁ。それは・・・、そうだけど・・・。どんな様子だったの? 」
そうこなくっちゃと言わんばかりの顔で笑顔を作るとペランは机の上に乗ったおれたちの食事に手を伸ばしながら話始めた。
ーーーあとがきーーー
シードルはワインと同じ位昔から作られている飲み物で、フランスではシードル、イギリスではサイダー、スペインではシードラ、サガルドと、各地方に寄って呼び名が違うようです。
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