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ウィンザー
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ベルナルトがキラキラした顔で拍手をしている。
「素晴らしい! ジャン殿!」
その声を皮切に、一斉に拍手がなり始める。
その拍手の間から、エレノア王妃が姿みえた。
人々の拍手を割りながら王妃が近づいてくるので、おれは騎士の礼をする為に跪く。
「ここにまた新たなるトルバドールが誕生しました。彼の名はジャン。皆様、どうぞその名を覚えて帰ってちょうだい。今のは貴方の詩でしょう? 素晴らしいわ。」
彼女の声でより一層大きな拍手が生まれる。
その様子に満足したように頷くと、王妃は手を上げて、拍手を静止するとにこやかに微笑み、上げた手をそのまま前に差し出した。
「ベルナルト、貴方の詩も聞かせてちょうだい。」
バルナルトは、王妃の手を取り軽くキスをすると、おれに近づいてくる。
そういえば、今手に抱え持ったリュートはべルナルトのものだ。
おれはいつも以上に声を出してお礼を言いながら、リュートを差し出すと、笑顔でベルナルトが答える。
「そのリュートは若い君の手が気に入った様だ。年老いた私が鳴らすより心地良いらしい。ジャン殿。それは君に差し上げよう。」
すると再びその場から拍手と歓声が生まれる。
そうか。
これはパフォーマンスだ。
こうして王達は、人の心を掴んでいくのだ。
おれは今、どんな顔をしているのだろう。
高揚する気持ちと妙に冷静な気持ちとが混濁している。
ここに本当にリシャールがいれば・・・。
ベルナルト・ヴェンタドルン
偉大なる王妃、エレノア付きのトルバドールの彼が、歌い上げる。
彼がリュートを奏でれば、周りの空気は一変した。
誰もが期待した顔をしている。
円熟した美しい声がその期待を裏切らず、空気を振動させて耳に優しく伝わっていく。
*1
なんの不思議があろう 歌にかけてはこのわたしが
どんな歌うたいにもまさることに
愛する人に いやさらに心ひかれ
いよいよその意に従順になりゆくからには。
身も魂も 知も情も
力も能も かの人に捧げつくして
わたしは手綱で 愛する人のほうへ
引かれて行き
他の方へ行きつくことは決してない。
(中略)
かの人をうち見るときは
風にさからう木の葉のように
怖れのためにうちふるえれば
わたしの恋は 目に顔に色にあらわれ
わたしは愛にとらえられて
子供のように分別をなくす。
かくまでに征服されてしまった男に
恋人よ、大いなる慈悲をかけてくだだい。
美しい恋人よ わたしの望みは
ただただあなたのそもべとなり
美しい主君のあなたに侍することです
よし 報酬がいくばくのものであろうとも
ご覧ください あなたの御意のままに従うわたしを
邪心なく慎ましく嬉々として礼をつくすこのわたしを!
あなたは熊でも獅子でもない
だから たとえわたしを征服しても殺しはしない。
シャラリ、とリュートがかき鳴らされると、大広間に喝采が起きる。
頬にはいつの間にか涙が伝い、皆に声を合わせながらも目の前の奏者ではなく、海を隔てたかの人へと叫ぶ。
おれの心を征服してしまった王に。獅子の様にたくましく、気高いおれの主君に。
その後は誰彼構わず音がなりはじめ、皆、歌や踊りに興じ始めた。
そんな喧騒の中、いつの間にかおれの周りには人の輪ができもてはやされた。
視線を流すと、少し離れた場所では相変わらずルーも囲まれている。
パチリと合った目でお互い苦笑する。
しばらくこの会場からは抜け出せそうもないな。
ーーーあとがきーーー
*1 「ベルナルト・ヴェンタドルン」 wikipedia 参照
「素晴らしい! ジャン殿!」
その声を皮切に、一斉に拍手がなり始める。
その拍手の間から、エレノア王妃が姿みえた。
人々の拍手を割りながら王妃が近づいてくるので、おれは騎士の礼をする為に跪く。
「ここにまた新たなるトルバドールが誕生しました。彼の名はジャン。皆様、どうぞその名を覚えて帰ってちょうだい。今のは貴方の詩でしょう? 素晴らしいわ。」
彼女の声でより一層大きな拍手が生まれる。
その様子に満足したように頷くと、王妃は手を上げて、拍手を静止するとにこやかに微笑み、上げた手をそのまま前に差し出した。
「ベルナルト、貴方の詩も聞かせてちょうだい。」
バルナルトは、王妃の手を取り軽くキスをすると、おれに近づいてくる。
そういえば、今手に抱え持ったリュートはべルナルトのものだ。
おれはいつも以上に声を出してお礼を言いながら、リュートを差し出すと、笑顔でベルナルトが答える。
「そのリュートは若い君の手が気に入った様だ。年老いた私が鳴らすより心地良いらしい。ジャン殿。それは君に差し上げよう。」
すると再びその場から拍手と歓声が生まれる。
そうか。
これはパフォーマンスだ。
こうして王達は、人の心を掴んでいくのだ。
おれは今、どんな顔をしているのだろう。
高揚する気持ちと妙に冷静な気持ちとが混濁している。
ここに本当にリシャールがいれば・・・。
ベルナルト・ヴェンタドルン
偉大なる王妃、エレノア付きのトルバドールの彼が、歌い上げる。
彼がリュートを奏でれば、周りの空気は一変した。
誰もが期待した顔をしている。
円熟した美しい声がその期待を裏切らず、空気を振動させて耳に優しく伝わっていく。
*1
なんの不思議があろう 歌にかけてはこのわたしが
どんな歌うたいにもまさることに
愛する人に いやさらに心ひかれ
いよいよその意に従順になりゆくからには。
身も魂も 知も情も
力も能も かの人に捧げつくして
わたしは手綱で 愛する人のほうへ
引かれて行き
他の方へ行きつくことは決してない。
(中略)
かの人をうち見るときは
風にさからう木の葉のように
怖れのためにうちふるえれば
わたしの恋は 目に顔に色にあらわれ
わたしは愛にとらえられて
子供のように分別をなくす。
かくまでに征服されてしまった男に
恋人よ、大いなる慈悲をかけてくだだい。
美しい恋人よ わたしの望みは
ただただあなたのそもべとなり
美しい主君のあなたに侍することです
よし 報酬がいくばくのものであろうとも
ご覧ください あなたの御意のままに従うわたしを
邪心なく慎ましく嬉々として礼をつくすこのわたしを!
あなたは熊でも獅子でもない
だから たとえわたしを征服しても殺しはしない。
シャラリ、とリュートがかき鳴らされると、大広間に喝采が起きる。
頬にはいつの間にか涙が伝い、皆に声を合わせながらも目の前の奏者ではなく、海を隔てたかの人へと叫ぶ。
おれの心を征服してしまった王に。獅子の様にたくましく、気高いおれの主君に。
その後は誰彼構わず音がなりはじめ、皆、歌や踊りに興じ始めた。
そんな喧騒の中、いつの間にかおれの周りには人の輪ができもてはやされた。
視線を流すと、少し離れた場所では相変わらずルーも囲まれている。
パチリと合った目でお互い苦笑する。
しばらくこの会場からは抜け出せそうもないな。
ーーーあとがきーーー
*1 「ベルナルト・ヴェンタドルン」 wikipedia 参照
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