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ウィンザー
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二人の会話が何処か遠くでされているのかと思うほど空虚に感じた。
心のどこかで、マグリット様が嘘をついていることに期待していた。
二人の子どもなど、存在しないといい。
そう願っていた。
けれど。
今ここで話されている内容は、そうする、という事だ。
じわじわと自分の中で熱い物が広がってゆく。
マグリット様とリシャールの子どもは確かに、ボルドーに来ていたのに、あの子は存在しない。
ならばあの子はどうなるのか?
望まれない子どもは存在すらしてはいけないのか。
命は奪われない。
王妃が言った。
では、ただ存在しないまま生きているだけの者に為れと。
まるで、私ではないか。
望まれずに生まれ、祖母のおかげで命や権利は奪われなかったものの、父親も知らず、母親からは疎まれ、無い者のように扱われ、生きているのに、存在を認められなかった現世の私と同じではないか。
「その子はリシャールが拒めば、どうなるのですか? 」
思わず、口にだしていた。
「とりあえず、真か嘘かを確かめてから、という事ではあったのだが・・・。認めるというのは、難しいのではないだろうか・・・。相手がマグリット様だし・・・。」
ルーが難しい顔をして答える。
「それなら、おれが引き取ります。」
二人が驚いた声を出してこちらを向いているが、こうなったら引くに引けない。
「リシャールの子どもなら尚更、おれが育てる。」
「はっ? お前、何言ってるか分かってるのか? 赤ん坊なんて、育てた事ないだろ?」
「育てた事ないけど! あんな小さな子に罪はないだろ! リシャールがいらないって言うなら、おれが育てるって言ってるんだよ! いらない子どもなんて、そんなのダメだろ! 」
「なんでお前がキレてんだよ! しかもリシャールもいらないなんて言ってねえだろ! 認められないかもなって言ってるだけだろ! 落ち着けよ! 」
「認められないって、何だよ! いらないって言ってるのと同じだろ! 」
「違うだろ! ・・・ん? 違うのか? 」
言い合いの途中でルーの頭に?が飛ぶ。
そのやり取りを見ていた王妃が声を上げて笑い始めた。
「ホホホ。良いでしょう。ジャン。その時は、貴方とその子で私の所に来なさい。私と一緒に面倒を見ましょう。リシャールの子どもです。きっと立派な騎士になるでしょう。」
そう言うとふふふと。再び笑う。
「子どもの件はリシャールの判断に任せるとしましょう。賢い子、ジャン。貴方にも聞いてもらいたいのだけど。」
そう言うと王妃は少し声のトーンが低くなる。
その声に、周りの空気がピンと張り詰めて緊張感が漂ってくる。
「今回の件だが。おそらく後ろに居るのはマグリットのしたたかな妹、リシャールの婚約者であり、仇なる者、アデルかと。あの子は王子の婚約者でありながら、恐ろしい事に、将来の義父に当たる私の夫ピュルテジュネ王の寵愛を受け、私の不在の王家で、王妃の様に振る舞っていると聞きく。」
王妃は言葉を吐き出すと、一度目を閉じすうっと息をひとつ付くと表情を隠すように微笑する。
ルーがうなずいているが、おれは内容が頭に入ってこず、とりあえず分かることを口に出す。
「え? えっと。つまり、リシャールには婚約者が居るって事ですよね。」
「そう。アデル。アレは姉であるマグリットを誑かし、己の婚約者の下に走らせた。」
「!? 王妃! おれ賢くないからわかんないよ! 」
情報量におれは頭を抱える。
今分かるのは、リシャールには子どもが居て、婚約者も居て、その婚約者がとんでもなく怖いという事だ。
リシャール、お前は一体どういう状況に置かれているんだ!?
そして、おれはものすごく大変な状況に頭を突っ込んでしまったと言うことだ!
ーーーあとがきーーー
アデル。
恐ろしい子・・・。
心のどこかで、マグリット様が嘘をついていることに期待していた。
二人の子どもなど、存在しないといい。
そう願っていた。
けれど。
今ここで話されている内容は、そうする、という事だ。
じわじわと自分の中で熱い物が広がってゆく。
マグリット様とリシャールの子どもは確かに、ボルドーに来ていたのに、あの子は存在しない。
ならばあの子はどうなるのか?
望まれない子どもは存在すらしてはいけないのか。
命は奪われない。
王妃が言った。
では、ただ存在しないまま生きているだけの者に為れと。
まるで、私ではないか。
望まれずに生まれ、祖母のおかげで命や権利は奪われなかったものの、父親も知らず、母親からは疎まれ、無い者のように扱われ、生きているのに、存在を認められなかった現世の私と同じではないか。
「その子はリシャールが拒めば、どうなるのですか? 」
思わず、口にだしていた。
「とりあえず、真か嘘かを確かめてから、という事ではあったのだが・・・。認めるというのは、難しいのではないだろうか・・・。相手がマグリット様だし・・・。」
ルーが難しい顔をして答える。
「それなら、おれが引き取ります。」
二人が驚いた声を出してこちらを向いているが、こうなったら引くに引けない。
「リシャールの子どもなら尚更、おれが育てる。」
「はっ? お前、何言ってるか分かってるのか? 赤ん坊なんて、育てた事ないだろ?」
「育てた事ないけど! あんな小さな子に罪はないだろ! リシャールがいらないって言うなら、おれが育てるって言ってるんだよ! いらない子どもなんて、そんなのダメだろ! 」
「なんでお前がキレてんだよ! しかもリシャールもいらないなんて言ってねえだろ! 認められないかもなって言ってるだけだろ! 落ち着けよ! 」
「認められないって、何だよ! いらないって言ってるのと同じだろ! 」
「違うだろ! ・・・ん? 違うのか? 」
言い合いの途中でルーの頭に?が飛ぶ。
そのやり取りを見ていた王妃が声を上げて笑い始めた。
「ホホホ。良いでしょう。ジャン。その時は、貴方とその子で私の所に来なさい。私と一緒に面倒を見ましょう。リシャールの子どもです。きっと立派な騎士になるでしょう。」
そう言うとふふふと。再び笑う。
「子どもの件はリシャールの判断に任せるとしましょう。賢い子、ジャン。貴方にも聞いてもらいたいのだけど。」
そう言うと王妃は少し声のトーンが低くなる。
その声に、周りの空気がピンと張り詰めて緊張感が漂ってくる。
「今回の件だが。おそらく後ろに居るのはマグリットのしたたかな妹、リシャールの婚約者であり、仇なる者、アデルかと。あの子は王子の婚約者でありながら、恐ろしい事に、将来の義父に当たる私の夫ピュルテジュネ王の寵愛を受け、私の不在の王家で、王妃の様に振る舞っていると聞きく。」
王妃は言葉を吐き出すと、一度目を閉じすうっと息をひとつ付くと表情を隠すように微笑する。
ルーがうなずいているが、おれは内容が頭に入ってこず、とりあえず分かることを口に出す。
「え? えっと。つまり、リシャールには婚約者が居るって事ですよね。」
「そう。アデル。アレは姉であるマグリットを誑かし、己の婚約者の下に走らせた。」
「!? 王妃! おれ賢くないからわかんないよ! 」
情報量におれは頭を抱える。
今分かるのは、リシャールには子どもが居て、婚約者も居て、その婚約者がとんでもなく怖いという事だ。
リシャール、お前は一体どういう状況に置かれているんだ!?
そして、おれはものすごく大変な状況に頭を突っ込んでしまったと言うことだ!
ーーーあとがきーーー
アデル。
恐ろしい子・・・。
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