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ウィンザー
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「好きに? 」
「そう。好きに生きたほうが、あの子らしくて良いと思うの。」
この王妃は、何を言っているのだろうか。
いつの間にか涙は止まって、想像だにしない王妃の言葉にキョトンとして顔を見上げていたのだろう。
くすりと笑いながら王妃が頬を濡らしていた涙を拭き取ってくれた。
「王妃。その子どもの件でお聞きしたいことが幾つかございます。マグリット様のお子様のことは、どこまでご存知ですか?」
ルーの静かな声に、ボルドーで見た赤ん坊の顔が浮かんだ。
王妃はおれの手をとって再び椅子に腰掛けさせると、ルーの問に微笑みながら答える。
「ルー。あなたポールに引けを取らないくらいせっかちね。」
「お褒めの言葉ととっておきます。」
王妃は小さな子どもをあやすようにおれの頬に軽くキスをすると、自らの椅子に再び座り膝の上で指を絡める。
「どこまで、と言う事はある程度のあなた達の中で想定がされているという事かしら。それを先に伺いましょう。ここには誰にも近づかせないようにしてあります。秘密が漏れることはありません。」
ルーは心得ましたと居住まいを正す。
「ではまず。先日、ボルドーヘマグリット様が赤ん坊を抱えた侍女とお忍びで来られました。この赤ん坊は自身が産み、そして父親はリシャール様だと仰られました。
我々はこのマグリット様の主張は大筋、正しいと、判断しています。時期的に考えると、赤ん坊の父親がおそらくリシャール様と推測出来る事件がございましたから。
コレが外に漏れると一大事ですが、マグリット様の言によれば、アンリ様含めピュルテジュネ本家にはこの件は上手く誤魔化せたと聞いております。
予定通り6月末に出産したが、腹のあまり目立たなかった事も幸いし、早産という事にして、生まれて3日後に崩御という事にできた、との話しでした。
ブリテンでの行動を中心にをアンリ殿から質問されたとの事でしたので、アンリ殿側には、リシャール様が父親ではないかという疑いは排除されるものとみています。
しかし、ボルドーでのマグリット様の突発的な暴挙から鑑みても、余りにも上手くまとまり過ぎていて・・・。
もしやこれは、王妃様のご享受ではありませんか?」
ルーはまっすぐに王妃を見つめる。
王妃をその視線を受け止め、静かに瞳を閉じると小さく頷いた。
「・・・ええ。そうです。」
王妃はいたたまれない事です。と小さく呟くと、悲痛な表情で視線を上げた。
「去年の9月の終わり頃、私がウィンチェスターに居たときですわ。ボルドーからの帰りに私の元に来たマグリットから懺悔されましたの。
あの子は真面目だから、黙っていられなかったのでしょう。その時はもうすでにつわりが始まっていて、船酔いが酷いのだと、ごまかしていた様です。」
「やはり、そうですか。我々も真面目なマグリット様があのような暴挙をされたことに驚きました。
もしかしたら、父親は誰か他の男の可能性も、とは期待薄ながらも思っていたのですが、王妃様に懺悔されたとなれば、父親はリシャールで間違いないと言う事になりますね。・・・これは、厄介な事になりました。」
ルーは1つため息をつくと、背もたれに背を任せ天井を見上げる。
それにつられるように、王妃もため息を深くついた。
「本当に厄介だわ。・・・私も問いただしたのよ? 本当にリシャールなのかと、他の男の可能性はないのかと。
そうすると、マグリットの侍女に咽び泣いて訴えられたの。マグリットはそんなはしたない女ではない。ましてや他の男がマグリットに近づくことなど侍女たちが許すわけがないと。私も彼女を小さな時から見て居ます。あの子がそんな事しないと知っているから。
・・・マグリットは賢い子です。私の提案通り、母親の性を曲げて子を手放す判断を下したのね。・・・よく耐えました。・・・赤ん坊は男の子でしたか? それとも女の子? 」
「男児です。生後約4ヶ月の赤ん坊は健やかにお育ちでした。」
「・・・そう。良かったわ。むやみに命を奪われると事がないことを願っています。」
「は。心得ております。」
「そう。好きに生きたほうが、あの子らしくて良いと思うの。」
この王妃は、何を言っているのだろうか。
いつの間にか涙は止まって、想像だにしない王妃の言葉にキョトンとして顔を見上げていたのだろう。
くすりと笑いながら王妃が頬を濡らしていた涙を拭き取ってくれた。
「王妃。その子どもの件でお聞きしたいことが幾つかございます。マグリット様のお子様のことは、どこまでご存知ですか?」
ルーの静かな声に、ボルドーで見た赤ん坊の顔が浮かんだ。
王妃はおれの手をとって再び椅子に腰掛けさせると、ルーの問に微笑みながら答える。
「ルー。あなたポールに引けを取らないくらいせっかちね。」
「お褒めの言葉ととっておきます。」
王妃は小さな子どもをあやすようにおれの頬に軽くキスをすると、自らの椅子に再び座り膝の上で指を絡める。
「どこまで、と言う事はある程度のあなた達の中で想定がされているという事かしら。それを先に伺いましょう。ここには誰にも近づかせないようにしてあります。秘密が漏れることはありません。」
ルーは心得ましたと居住まいを正す。
「ではまず。先日、ボルドーヘマグリット様が赤ん坊を抱えた侍女とお忍びで来られました。この赤ん坊は自身が産み、そして父親はリシャール様だと仰られました。
我々はこのマグリット様の主張は大筋、正しいと、判断しています。時期的に考えると、赤ん坊の父親がおそらくリシャール様と推測出来る事件がございましたから。
コレが外に漏れると一大事ですが、マグリット様の言によれば、アンリ様含めピュルテジュネ本家にはこの件は上手く誤魔化せたと聞いております。
予定通り6月末に出産したが、腹のあまり目立たなかった事も幸いし、早産という事にして、生まれて3日後に崩御という事にできた、との話しでした。
ブリテンでの行動を中心にをアンリ殿から質問されたとの事でしたので、アンリ殿側には、リシャール様が父親ではないかという疑いは排除されるものとみています。
しかし、ボルドーでのマグリット様の突発的な暴挙から鑑みても、余りにも上手くまとまり過ぎていて・・・。
もしやこれは、王妃様のご享受ではありませんか?」
ルーはまっすぐに王妃を見つめる。
王妃をその視線を受け止め、静かに瞳を閉じると小さく頷いた。
「・・・ええ。そうです。」
王妃はいたたまれない事です。と小さく呟くと、悲痛な表情で視線を上げた。
「去年の9月の終わり頃、私がウィンチェスターに居たときですわ。ボルドーからの帰りに私の元に来たマグリットから懺悔されましたの。
あの子は真面目だから、黙っていられなかったのでしょう。その時はもうすでにつわりが始まっていて、船酔いが酷いのだと、ごまかしていた様です。」
「やはり、そうですか。我々も真面目なマグリット様があのような暴挙をされたことに驚きました。
もしかしたら、父親は誰か他の男の可能性も、とは期待薄ながらも思っていたのですが、王妃様に懺悔されたとなれば、父親はリシャールで間違いないと言う事になりますね。・・・これは、厄介な事になりました。」
ルーは1つため息をつくと、背もたれに背を任せ天井を見上げる。
それにつられるように、王妃もため息を深くついた。
「本当に厄介だわ。・・・私も問いただしたのよ? 本当にリシャールなのかと、他の男の可能性はないのかと。
そうすると、マグリットの侍女に咽び泣いて訴えられたの。マグリットはそんなはしたない女ではない。ましてや他の男がマグリットに近づくことなど侍女たちが許すわけがないと。私も彼女を小さな時から見て居ます。あの子がそんな事しないと知っているから。
・・・マグリットは賢い子です。私の提案通り、母親の性を曲げて子を手放す判断を下したのね。・・・よく耐えました。・・・赤ん坊は男の子でしたか? それとも女の子? 」
「男児です。生後約4ヶ月の赤ん坊は健やかにお育ちでした。」
「・・・そう。良かったわ。むやみに命を奪われると事がないことを願っています。」
「は。心得ております。」
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