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ウィンザー
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「王妃様がいらっしゃいます。」
その予告通りに、部屋に王妃が入ってくると、室内は自然と明るく感じた。
本当に、リシャールとよく似ている。
そばにその人がいるだけで、周りが自然と明るくなるような、そんな雰囲気を二人共持っているのだ。
「おまたせしてしまいましたね。あんまりヒューバードが博学なものですから、ついついたくさん質問してしまったわ。」
ルーと共に片膝をついて頭を下げていると、椅子に腰掛けた王妃に気さくに話しかけられた。
「楽にしてちょうだい。さぁ、座って。エールは足りたかしら? ワインのほうが良いかしら? 」
この後も宴だというのに、今から飲んでしまったら酒の弱いおれは宴に参加できなくなるので断った。
ルーは酒は強いのだが、断っていた。もしかしたら、社交辞令ってやつだったのかもしれない。
断って正解だったのか。
確かにこの後大事な話をするのにワインは飲まないか。
上流社会の作法に椅子に座りながらドキドキしていると、王妃の視線を感じ、顔を上げる。
王妃は少し憂いを帯びた顔を見せていた。
「ジャン。よく来てくれましたね。あなたの事は聞いていますよ。リシャールの側でよく支えてくれていると。」
そう言われて、血の気が引いていくのが自分でもよく分かった。
王妃の顔はすべて見透かしているかのように見え、リシャールと主従関係以外の、体の関係であることも、知られている。
咄嗟にそう思った。
王子が、世継ぎを産む責任から程遠い男と、そういう関係でいる、そう伝わっているのではないだろうか。
何も知らないだろうと、高を括っていた自分の浅はかさに嫌悪し、吐き気を催しながら、椅子から崩れ落ちるように床に膝をつくと、深々と頭を下げる。
「も、申し訳ございません。」
冷や汗が滝のように流れ、目の前がチカチカとしながら、それだけしか言えず、ただただ、頭を下げた。
耳鳴りのように鼓動が大きく体で鳴り響き、もっと申し開きをせねばと思えば思うほど、目の前がぐるぐると回るように感じる。
床についた震える拳に、そっと冷たいモノが触れた。
膝に当てた手にも同じように。
触れた冷たい王妃の手は包み込むようにして両手を握ると、体を上に引き上げるように動いてゆき、自然と顔が上がる。
目の前には穏やかな顔の王妃が微笑んでいる。
「ごめんなさい。少し試させてもらいました。」
そういうと、優しく抱きしめてくれる。
「こんなに震えて。酷い母ですね。どうか許してちょうだい。」
状況が飲み込めずに、硬直して目を見開いていると、王妃の体がそっと離れ、頬に冷たい手をあてがわれた。
「ジャン。あなたがリシャールの事をどう思っているのか、知りたかっただけなの。あんまりに無計画に見えたものですから。」
そう言われ、今度は打って変わって顔に血液がすべて集まるかのように熱くなる。
「かわいい子。こんな純粋な子を傷つけてしまうなんて、リシャールは悪い子だわ。」
そう言いながら頭を撫でる手の動きが、まるでリシャールそのもので、視界の先の王妃がどんどんぼやけていった。
「ゆ、許して、いただけるのですか? 」
嗚咽と共に口からやっと吐きでたものは、やはり許しを乞う言葉しかなかった。
「許すも何も。あなたと出会ってからのリシャールは目を見張るように変わったと、聞いています。ただ一人との出会いで、その者の行動と人生が大きく変わるということは、そうあることではありません。リシャールにとってあなたが、かけがえのない存在という事なのでしょう。そして、あなたにとってもね。」
「だ、だけどおれには、リシャールの側にいる事のできる理由が・・・ないのです。むしろ、側にいないほうがいい存在なのです。」
そう言うと、王妃の顔を見ることができなくなって、再びうつむく。
「そうね。あなたは男だから。」
分かっていたのだが、リシャールの母親から告げられると、切り裂かれる様に言葉が胸を苦しめる。
「でも、それだけでしょう? 子どもが生まれても、生まれなくても、どうせ権力に奪われてしまうのよ。だったら、私は好きに生きたら良いと、思うの。」
「・・・好きに? 」
「そう。好きに生きたほうが、あの子らしくて良いと思うの。」
ーーーあとがきーーー
エレノアという人は、少し変わった考えの持ち主だったのではないかしらと思って書きました。
現代まで通じる色々な文化を構築していった一人であろうと思います。
※明日は調整で本編30話(1/2)12:00と
30話(2/2)18:30投稿予定です。
相関図を22:00に投稿予定として本編進行30話のみとなります。
あと、本編に影響のない寸話で成人の方のみ観覧可能な(R18)0.5話
が実はpixivにあったりします。よろしければ覗いてみてください
近況ボードにURL貼ってます。
プロフからも飛べるみたい。
その予告通りに、部屋に王妃が入ってくると、室内は自然と明るく感じた。
本当に、リシャールとよく似ている。
そばにその人がいるだけで、周りが自然と明るくなるような、そんな雰囲気を二人共持っているのだ。
「おまたせしてしまいましたね。あんまりヒューバードが博学なものですから、ついついたくさん質問してしまったわ。」
ルーと共に片膝をついて頭を下げていると、椅子に腰掛けた王妃に気さくに話しかけられた。
「楽にしてちょうだい。さぁ、座って。エールは足りたかしら? ワインのほうが良いかしら? 」
この後も宴だというのに、今から飲んでしまったら酒の弱いおれは宴に参加できなくなるので断った。
ルーは酒は強いのだが、断っていた。もしかしたら、社交辞令ってやつだったのかもしれない。
断って正解だったのか。
確かにこの後大事な話をするのにワインは飲まないか。
上流社会の作法に椅子に座りながらドキドキしていると、王妃の視線を感じ、顔を上げる。
王妃は少し憂いを帯びた顔を見せていた。
「ジャン。よく来てくれましたね。あなたの事は聞いていますよ。リシャールの側でよく支えてくれていると。」
そう言われて、血の気が引いていくのが自分でもよく分かった。
王妃の顔はすべて見透かしているかのように見え、リシャールと主従関係以外の、体の関係であることも、知られている。
咄嗟にそう思った。
王子が、世継ぎを産む責任から程遠い男と、そういう関係でいる、そう伝わっているのではないだろうか。
何も知らないだろうと、高を括っていた自分の浅はかさに嫌悪し、吐き気を催しながら、椅子から崩れ落ちるように床に膝をつくと、深々と頭を下げる。
「も、申し訳ございません。」
冷や汗が滝のように流れ、目の前がチカチカとしながら、それだけしか言えず、ただただ、頭を下げた。
耳鳴りのように鼓動が大きく体で鳴り響き、もっと申し開きをせねばと思えば思うほど、目の前がぐるぐると回るように感じる。
床についた震える拳に、そっと冷たいモノが触れた。
膝に当てた手にも同じように。
触れた冷たい王妃の手は包み込むようにして両手を握ると、体を上に引き上げるように動いてゆき、自然と顔が上がる。
目の前には穏やかな顔の王妃が微笑んでいる。
「ごめんなさい。少し試させてもらいました。」
そういうと、優しく抱きしめてくれる。
「こんなに震えて。酷い母ですね。どうか許してちょうだい。」
状況が飲み込めずに、硬直して目を見開いていると、王妃の体がそっと離れ、頬に冷たい手をあてがわれた。
「ジャン。あなたがリシャールの事をどう思っているのか、知りたかっただけなの。あんまりに無計画に見えたものですから。」
そう言われ、今度は打って変わって顔に血液がすべて集まるかのように熱くなる。
「かわいい子。こんな純粋な子を傷つけてしまうなんて、リシャールは悪い子だわ。」
そう言いながら頭を撫でる手の動きが、まるでリシャールそのもので、視界の先の王妃がどんどんぼやけていった。
「ゆ、許して、いただけるのですか? 」
嗚咽と共に口からやっと吐きでたものは、やはり許しを乞う言葉しかなかった。
「許すも何も。あなたと出会ってからのリシャールは目を見張るように変わったと、聞いています。ただ一人との出会いで、その者の行動と人生が大きく変わるということは、そうあることではありません。リシャールにとってあなたが、かけがえのない存在という事なのでしょう。そして、あなたにとってもね。」
「だ、だけどおれには、リシャールの側にいる事のできる理由が・・・ないのです。むしろ、側にいないほうがいい存在なのです。」
そう言うと、王妃の顔を見ることができなくなって、再びうつむく。
「そうね。あなたは男だから。」
分かっていたのだが、リシャールの母親から告げられると、切り裂かれる様に言葉が胸を苦しめる。
「でも、それだけでしょう? 子どもが生まれても、生まれなくても、どうせ権力に奪われてしまうのよ。だったら、私は好きに生きたら良いと、思うの。」
「・・・好きに? 」
「そう。好きに生きたほうが、あの子らしくて良いと思うの。」
ーーーあとがきーーー
エレノアという人は、少し変わった考えの持ち主だったのではないかしらと思って書きました。
現代まで通じる色々な文化を構築していった一人であろうと思います。
※明日は調整で本編30話(1/2)12:00と
30話(2/2)18:30投稿予定です。
相関図を22:00に投稿予定として本編進行30話のみとなります。
あと、本編に影響のない寸話で成人の方のみ観覧可能な(R18)0.5話
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