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ウィンザー
27(2/2)
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部屋に戻ると、丁度謁見の時間が決まった事を知らせに来た兵士と出会った。
「謁見は明日の午後でございます。新しいシャツとズボン、それに、身を清める沐浴道具をお持ちいたしましたので、活用ください。鎧はよろしければ清めますがいかがいたしますか?」
そう言えば長旅で全身随分汚れてしまっている。
このままでは確かに王妃の前に行くことは出来ないだろう。
「オレは自分で防具は磨く。」
ルーが素早く断る。
こういう判断がかっこいいんだよね。
孤高の騎士っぽくてちょと憧れる。
「おれも自分でやりたい。ルー。後で手入れ教えてよ。」
各自部屋に戻ると、長旅ですっかり汚れた体の泥を落とす。
そして桶にお湯を張り全裸になってその中に入る。
本来そういった使い方はしないものなのだろうが、おれはどうにもこの習慣が抜けない。
お湯を多めに持ってきてもらったので、腰半分くらいは湯に浸かれる。
体育座りのようにしてしばし湯を楽しむ。
汚れと共にもやもやも消えてしまえば良いのに、気分はちっとも晴れなかった。
「ジャン。」
ノック音がしたと同時にルーが扉を開けて入ってきた。
ポールもルーも、ノックの意味を知っているのだろうか。
「あぁ。す、すまない。も、沐浴中だったか・・・。」
「気にしないで。慣れてるから。適当に座っててよ。もう終わるから。」
布で体を拭きながら衣服を着ているとなんだか視線を感じる。
見上げるとルーと視線があった。
「いや。待って、って言ったけど、じっと見ないでよ。流石におれも恥ずかしいよ。」
「・・・すまん・・・」
「あ。そうだ、見てよ。おれ、言われた通りに鍛錬したからほら、だいぶ筋肉ついたと思わない?」
そういうものの、ルーはベットに腰掛けて窓の方を見たままこちらを見ない。
「・・・見るなと言っただろ? 」
「・・・今は見てよ。」
そう言うと「は?」っという顔をしたルーが振り返り、思わず吹き出して笑ってしまう。
「あはは。何かおれ今のリシャールみたいだったね。一緒にいた時間長かったから、移っちゃったかな。」
リシャールという名前が出ると同時に涙がポロリと溢れた。
「ホント。おれ。リシャールの話ばっかりだ。」
ルーが中途半端に着たままだったシャツをきちんと着せてくれると、肩をポンと叩く。
「ほんとに、前より筋力ついたな。大したもんだよ。頑張ったんだな。・・・ほら。スボンは自分で履けよ。鎧の手入れするぞ。 」
「うん。・・・ありがとう。」
没頭できる作業があって良かった。
急いで涙を拭き、ズボンと靴を履くとルーの側に道具を持って座る。
ルーの鎧は黒い。
これは本来の鎧を作成する中での最終工程の、磨きをしないことによって保たれているらしい。
肘当てや膝当て、盾も同様の仕様だ。
これに新たに黒くなるように特殊な何かを練り込んでいる様で、ルーは防具の手入れをこまめにしている。
このおかげで、ルーの鎧は黒く光り、黒い髪に黒い衣装と相まって黒い狼という異名を持つようになったのだ。
対してリシャールの鎧はしっかりと磨かれ、つやつやとした光沢を放つ。
少し赤みのある金髪に銀色に光る鎧、赤と黄色のコートが獅子の様に彼を見せるのだ。
獅子と黒狼。
それが戦場では味方には畏敬を敵には恐怖を与えている。
どちらもかっこいいけれど、どちらにもなれないオレは、とりあえず、汚れを落とし磨く事に専念する。
黒剣とかもかっこいいななどと思ったりもするが、手入れを考えると、少し躊躇してしまう。
しばらく作業をしていたはずが、ここ数日の旅の疲れ出たのか、いつの間にか眠ってしまったようで、気がついた時には体には布団がかけられ、ルーの姿は見えなかった。
ーーーあとがきーーー
獅子はリオン。
黒い狼はルーノエル。
でもよかったかなぁ。
「謁見は明日の午後でございます。新しいシャツとズボン、それに、身を清める沐浴道具をお持ちいたしましたので、活用ください。鎧はよろしければ清めますがいかがいたしますか?」
そう言えば長旅で全身随分汚れてしまっている。
このままでは確かに王妃の前に行くことは出来ないだろう。
「オレは自分で防具は磨く。」
ルーが素早く断る。
こういう判断がかっこいいんだよね。
孤高の騎士っぽくてちょと憧れる。
「おれも自分でやりたい。ルー。後で手入れ教えてよ。」
各自部屋に戻ると、長旅ですっかり汚れた体の泥を落とす。
そして桶にお湯を張り全裸になってその中に入る。
本来そういった使い方はしないものなのだろうが、おれはどうにもこの習慣が抜けない。
お湯を多めに持ってきてもらったので、腰半分くらいは湯に浸かれる。
体育座りのようにしてしばし湯を楽しむ。
汚れと共にもやもやも消えてしまえば良いのに、気分はちっとも晴れなかった。
「ジャン。」
ノック音がしたと同時にルーが扉を開けて入ってきた。
ポールもルーも、ノックの意味を知っているのだろうか。
「あぁ。す、すまない。も、沐浴中だったか・・・。」
「気にしないで。慣れてるから。適当に座っててよ。もう終わるから。」
布で体を拭きながら衣服を着ているとなんだか視線を感じる。
見上げるとルーと視線があった。
「いや。待って、って言ったけど、じっと見ないでよ。流石におれも恥ずかしいよ。」
「・・・すまん・・・」
「あ。そうだ、見てよ。おれ、言われた通りに鍛錬したからほら、だいぶ筋肉ついたと思わない?」
そういうものの、ルーはベットに腰掛けて窓の方を見たままこちらを見ない。
「・・・見るなと言っただろ? 」
「・・・今は見てよ。」
そう言うと「は?」っという顔をしたルーが振り返り、思わず吹き出して笑ってしまう。
「あはは。何かおれ今のリシャールみたいだったね。一緒にいた時間長かったから、移っちゃったかな。」
リシャールという名前が出ると同時に涙がポロリと溢れた。
「ホント。おれ。リシャールの話ばっかりだ。」
ルーが中途半端に着たままだったシャツをきちんと着せてくれると、肩をポンと叩く。
「ほんとに、前より筋力ついたな。大したもんだよ。頑張ったんだな。・・・ほら。スボンは自分で履けよ。鎧の手入れするぞ。 」
「うん。・・・ありがとう。」
没頭できる作業があって良かった。
急いで涙を拭き、ズボンと靴を履くとルーの側に道具を持って座る。
ルーの鎧は黒い。
これは本来の鎧を作成する中での最終工程の、磨きをしないことによって保たれているらしい。
肘当てや膝当て、盾も同様の仕様だ。
これに新たに黒くなるように特殊な何かを練り込んでいる様で、ルーは防具の手入れをこまめにしている。
このおかげで、ルーの鎧は黒く光り、黒い髪に黒い衣装と相まって黒い狼という異名を持つようになったのだ。
対してリシャールの鎧はしっかりと磨かれ、つやつやとした光沢を放つ。
少し赤みのある金髪に銀色に光る鎧、赤と黄色のコートが獅子の様に彼を見せるのだ。
獅子と黒狼。
それが戦場では味方には畏敬を敵には恐怖を与えている。
どちらもかっこいいけれど、どちらにもなれないオレは、とりあえず、汚れを落とし磨く事に専念する。
黒剣とかもかっこいいななどと思ったりもするが、手入れを考えると、少し躊躇してしまう。
しばらく作業をしていたはずが、ここ数日の旅の疲れ出たのか、いつの間にか眠ってしまったようで、気がついた時には体には布団がかけられ、ルーの姿は見えなかった。
ーーーあとがきーーー
獅子はリオン。
黒い狼はルーノエル。
でもよかったかなぁ。
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