《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ

ぽむぽむ

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晴天の霹靂

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 ルーとポールは旧知の仲のようで、話をよく聞いているらしく、無口な彼だが、洞察力と観察眼が良いせいもあって、情勢をよく心得ている節がある。

 しばらく歩くと港が見えてきた。
ボルドーの港は月の港との異名を持ち、三日月形に湾曲したガロンヌ川の南岸に発達した港は歴史ある貿易港として有名だ。
そこから一路ピルテジュネ家に向かう船に乗る。

ボルドーからワインなどを運ぶ船が頻繁に行き交うため、乗船するのにも手間はかからなかった。
ましてや、謁見というとこもあり、扱いは良かった。
おれはルーの追従騎士という名目だ。

乗り込んだ船は簡素な作りで船室などはない。
甲板の下は荷物が並び、雨風凌ぐには荷物同様そこに潜り込む。
それ以外は甲板で過ごすらしく、船首と船尾にある物見台の下が主に居場所となる。
船は頻繁に港に寄るのでまだマシだが、海上で優雅なひと時など、とても望めない船旅だった。

リシャールは船旅の楽しさを熱弁していたが、ソレは同じ船なのだろうか。
花嫁を運ぶ専用の船とか?

と思い、出航から2日ほどたって乗組員に聞いてみた。
答えは否。
もしかしたら甲板の下か上に箱のような部屋を作ったのかもしれないが、基本的にはそんな手間はかけないらしい。
そんなこんなで今のところ良さはわからないし、またリシャールのことを考えてしまった事に若干へこみつつぼんやりと海を見る。

船は風を頼りに進むので凪の今は穏やかに海上にたゆたっていた。

「ルー。」

隣で眠っているルーに話しかける。

「リシャールの事。聞いていいかな。」

ルーはそのまま動かないでいるので寝ているのかなと思い顔を覗き込むと「ああ。」と短い返事の後に、ゆっくりと起き上がり、船の側面に背中を寄せて座リながら話を始めた。

「あれはリシャールの妹のショーン姫の婚姻でブルテンからアンリ王子に連れられて姫がボルドーにいらしたときだ。」
「妹さんをシチリアに送った話は聞いたよ。リシャール、船旅が楽しいんだって言ってたよ。おれは何が楽しいのか判んないけど。」
「ああ。オレも同意は然ねるな。アイツ変態だからな。まぁいい。その旅の前の出来事。」
「うん・・・。」
「ボルドーで久々に兄妹三人揃って事で、宴が催されたんだが、調子に乗ったリシャールがアンリ殿の共のウィリアム殿と飲み比べを始めたんだ。ウィリアム殿は剣技も強いが酒も強い。早々にリシャールは潰された。」
「相変わらずウィリアム殿を崇拝してるね。」
「あたりまえだ。今度はトーナメントじゃなくて個人的に手合わせしてもらいたいと思っている。・・・ジャン。お前、聞きたいのか、聞きたくないのか。どっちだ。」
「ごめん・・・。ちょっと落ち着かなくって・・・。聞きたいです・・・。」
「・・・分かった。それで、オレが潰れたリシャールをヤツの部屋に転がしに行った。その後も宴は続いていたんだが、同行していたアンリ殿の妻のマグリット様がお下がりになった。」
「・・・マグリット様・・・」

華奢な躰に可愛らしい容貌の姿を思い出すと胸が張り裂けそうなほど苦しくなる。
ルーはおれのつぶやきに気づいてはいる様だが、そのまま話を続ける。

「マグリット様はどうやら自分が割り当てられた部屋ではなく、リシャールの寝所に行ったようだ。お付きの侍女の静止も振り切って、部屋に入っていったらしい。そこの話は、聞きたければ本人から聞いてくれ。まぁ想像はつくだろうが。」

想像はつく。
でも、想像と違い、事実を確認するという作業はとても忍耐が伴う。
そして、その出来事と、そこにいた人たちがどういった心情だったのか、そこまでも理解しないと、真実は見えてこないのだ。
そして、その真実が示すこととは。
そして、自分は何が知りたいのだろう。

風がにわかに吹き始め、船内では水夫たちが慌ただしく動き始めていた。











ーーーあとがきーーー

貿易船に乗り込みました。
調べたらnefというみたいです。
はるか昔からの交易らしく、イタリーの足のスネあたりから船で運び南仏のナルポンヌに渡り、そっから陸路でボルドーを経て、また船で大西洋岸、ブリテン諸島などに向かったそうです(現実?小説?逃避中)



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