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ポアチエ
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沈む太陽を背に、騎士の1団が見えた。
大きな馬にまたがったひときわ大きな影。
あれはリシャールの影だ。
馬を走らせ、彼の横に急ぐ。
ポールもペランも、その他の仲間たちも無事な様だ。
近づくにつれ、リシャールの表情も見えてくる。
安心したような、怒っている様な、あまり見ない顔をしていた。
疑問に思いながら近づくと、ふと、槍に目が行った。
リボンの様な布。
「・・・リシャール・・・」
「おう。無事で良かった。」
「・・・ちょっと、それ見せて。」
リシャールの槍をよこせと促すと、おもむろについている布を解く。
「あ。ああ、これは、妹のショーンがずっと前につけたやつで・・・」
弁解しているリシャールの言葉など耳を貸さずに、解いた布をおれはマジマジと見つめると、とっさに口に入れた。
「・・・ぅおい! おい! おい! 誰か! ジャンを止めろ! 」
リシャールが慌てて大声を出している。
が、おれは気にせず咀嚼に勤しむ。
もぐもぐ。
食えねぇな。
リシャールがおれの口から咀嚼しようとしているものを取り出そうとする。
「やめろ。おれはこれを食うんだ!」
と、主張しているのだが、口一杯に布が入っているのでフガフガ言っているだけだ。
「こいつ完全にハイになってやがるな! このままだと喉につまらせるぞ!」
ポールの声がいつになく真剣だ。
こういうときは一番にふざけるくせに。
そんな事を考えながら、口に入ってくる指を何回か噛んでやった。
ポチから引きずり降ろされると数人に取り押さえられ、食いしばる歯を顎を掴まれ開かされ、口から布をズルリと引き出された。
それと同時に何やら気力まで吸われた気分で全身の力が抜けていってその場にへたり込んだ。
「はぁ。お前・・・。馬鹿野郎。こんな初陣の奴、初めてだわ・・・。なぁ。ルー。」
リシャールがやれやれといった調子で振り向くと、後ろでルーの肩が小刻みに動いていた。
「あ。ルーが笑ってるぞ。」
リシャールの指摘にも我慢が限界らしいルーは思わず声を漏らす。
「くっくっくっ」
それを見ていたポールが嬉しそうに笑い始めると他のものにもそれが伝わり、笑いが起き始める。
「あっはっは!」
「ははは!ホントだ。珍しいな。」
「いや。ルーも珍しいけど、ジャンのあれ、何だよ。ぶはははっ」
「何食ってんだよ!あははははっ」
おれを除くすべての人間が大笑いを始めているが、おれはちっとも可笑しくない。
おれの唾液でベシャベシャになった布が地面に落ちているのを見つけると、ペイペイっと土をかけて存在を消してやった。
「埋めてるぞ、ジャンの奴。ぷくくく」
誰かが気がついたが知るか。
ダンダンっと埋めた場所の土を踏みしめると忌々しげに笑い転げる奴等を睨みつけるながらポチに再び乗る。
するとすでに馬に乗っていたリシャールが大声で笑いながら歩み始める。
「さあ、野郎ども。明日は城攻めだ。明日に備えて一杯やるぞ。」
明日に備えて休息ではないのが彼等らしい。
ポチにどっしりと体を預けながら、ぼんやりと眺めたリシャールは生き生きとしていた。
ーーーあとがきーーー
戦わねばならぬ理由とは。
正義の定義とは。
それが生活だったからなのだろうか。
などと、考えたりしました。
大きな馬にまたがったひときわ大きな影。
あれはリシャールの影だ。
馬を走らせ、彼の横に急ぐ。
ポールもペランも、その他の仲間たちも無事な様だ。
近づくにつれ、リシャールの表情も見えてくる。
安心したような、怒っている様な、あまり見ない顔をしていた。
疑問に思いながら近づくと、ふと、槍に目が行った。
リボンの様な布。
「・・・リシャール・・・」
「おう。無事で良かった。」
「・・・ちょっと、それ見せて。」
リシャールの槍をよこせと促すと、おもむろについている布を解く。
「あ。ああ、これは、妹のショーンがずっと前につけたやつで・・・」
弁解しているリシャールの言葉など耳を貸さずに、解いた布をおれはマジマジと見つめると、とっさに口に入れた。
「・・・ぅおい! おい! おい! 誰か! ジャンを止めろ! 」
リシャールが慌てて大声を出している。
が、おれは気にせず咀嚼に勤しむ。
もぐもぐ。
食えねぇな。
リシャールがおれの口から咀嚼しようとしているものを取り出そうとする。
「やめろ。おれはこれを食うんだ!」
と、主張しているのだが、口一杯に布が入っているのでフガフガ言っているだけだ。
「こいつ完全にハイになってやがるな! このままだと喉につまらせるぞ!」
ポールの声がいつになく真剣だ。
こういうときは一番にふざけるくせに。
そんな事を考えながら、口に入ってくる指を何回か噛んでやった。
ポチから引きずり降ろされると数人に取り押さえられ、食いしばる歯を顎を掴まれ開かされ、口から布をズルリと引き出された。
それと同時に何やら気力まで吸われた気分で全身の力が抜けていってその場にへたり込んだ。
「はぁ。お前・・・。馬鹿野郎。こんな初陣の奴、初めてだわ・・・。なぁ。ルー。」
リシャールがやれやれといった調子で振り向くと、後ろでルーの肩が小刻みに動いていた。
「あ。ルーが笑ってるぞ。」
リシャールの指摘にも我慢が限界らしいルーは思わず声を漏らす。
「くっくっくっ」
それを見ていたポールが嬉しそうに笑い始めると他のものにもそれが伝わり、笑いが起き始める。
「あっはっは!」
「ははは!ホントだ。珍しいな。」
「いや。ルーも珍しいけど、ジャンのあれ、何だよ。ぶはははっ」
「何食ってんだよ!あははははっ」
おれを除くすべての人間が大笑いを始めているが、おれはちっとも可笑しくない。
おれの唾液でベシャベシャになった布が地面に落ちているのを見つけると、ペイペイっと土をかけて存在を消してやった。
「埋めてるぞ、ジャンの奴。ぷくくく」
誰かが気がついたが知るか。
ダンダンっと埋めた場所の土を踏みしめると忌々しげに笑い転げる奴等を睨みつけるながらポチに再び乗る。
するとすでに馬に乗っていたリシャールが大声で笑いながら歩み始める。
「さあ、野郎ども。明日は城攻めだ。明日に備えて一杯やるぞ。」
明日に備えて休息ではないのが彼等らしい。
ポチにどっしりと体を預けながら、ぼんやりと眺めたリシャールは生き生きとしていた。
ーーーあとがきーーー
戦わねばならぬ理由とは。
正義の定義とは。
それが生活だったからなのだろうか。
などと、考えたりしました。
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