20 / 84
ダクスへ
12(1/2)
しおりを挟む
宿屋に帰ったころにはもうすっかり夜になっていた。
食堂にはポールが食事を終えワインを飲んでいる。
「おう。どうだった?」
「ポール聞いてよ!すごかったんだよ。温泉。」
出だしは変な男のせいで悪かったのだが、建物の中に入ってからはすこぶる楽しかったのだ。
建物の中に入ると天井の高くいくつかの部屋に別れ、蒸し風呂の様な状態で冷水のプールの部屋や、温水のプールの部屋、オイルの部屋など多岐にわたっているのだ。中には本を読んだり、ゲームに興じたり各々自由に過ごしており、ちょっとしたレジャー施設の様な場所だった。
むろん風呂場なので、みな裸。
裸の呪いなど気にせず過ごせることが何より気が楽だ。
「パンも売ってたんだよ。はい。土産!」
そう言うとポールに温泉で買ったパンを渡す。
興奮して鼻息の荒い私の話を黙って聞いていたポールは、くっくっと笑うとオデコをびしっと人差し指でついてきた。
「お前、楽しみすぎだろ。」
「もう、はしゃいじゃって、はしゃいじゃって。ジャンはまだまだお子様だな。」
くすくすと笑うリシャールは、ワインを飲みながら相変わらず私の頭をわしゃわしゃとかき乱す。
だって、しょうがないじゃないか。
前の世界でもレジャー施設なんて行った経験ないんだし。
なんだか、二人でデートしてるみたいで、少し嬉しかったんだ。
少しむくれながら、髪を整え、テーブルに置かれる食事に手を付ける。
「明日はどうする? 」
「ああ。明日はアドゥール川付近にでも行くか。」
「市の立つ日ではないけどいいか?」
「しかたあるまい。」
2人の会話を聞いていると、どう見ても観光している様にしか見えない。
何か根拠があっての行動なのだろうとは思うが、こんな食堂で込み入った話をするわけにいかないのだろう。
明日は川かぁ。視察楽しいな。
こうして、観光という名の視察をしつつ、3日目の朝となった。
目の前には黒い馬、茶色い馬。まだらな馬が狭い柵の中を歩いたり、草を食んだりしている。
リシャールの怪我は本当に回復が早く、まだ2週間たってないのに、もう馬にも乗れるらしく、彼を乗せた馬は手綱を引かれるままにゆったりと柵の中で歩みを進めている。
順調に馬を乗りこなしているが、走らせるとまだ怪我に響くらしく、とりあえず一匹の馬を調達し、それをリシャールと二人で乗って帰ることになっていた。
ポールはもちろん朝起きると早々に食事を済ませ、先に馬を走らせて帰ってしまっている。
リシャールと遅ればせながらも簡単に食事を済ませると、二人で乗る馬を買いに来たのだ。
柵の外から見ていると、リシャールが乗馬したまま近づいてくる。
「お前の馬になるんだ。気の合うやつを選べよ。こいつはどうだ?」
「え?リシャールはいらないの?」
「俺には相棒がすでにいるからな。お前が使う馬になる。」
馬はトーナメントで手に入れろと、ペトロスに教わっていたが、お金で解決できるならそれに越したことはない。
リシャールの仕えている人は裕福なのか、よほど急いでいるのか。しかしどちらにしても、お金にそんなに困っていないのは確かなのだろう。
私は馬には乗ったことがないのだが、リシャールと帰りがてら教えてもらうという事になっていたのだ。
気が合うも何も、見るのも触るのも初めてで、どうしろというのだろう。
オロオロしているとリシャールが馬から降りると手招きをする。
「来いよ。ほら。撫でてやるんだ。怖がってるとダメだ。嘗(な)められるからな。」
食堂にはポールが食事を終えワインを飲んでいる。
「おう。どうだった?」
「ポール聞いてよ!すごかったんだよ。温泉。」
出だしは変な男のせいで悪かったのだが、建物の中に入ってからはすこぶる楽しかったのだ。
建物の中に入ると天井の高くいくつかの部屋に別れ、蒸し風呂の様な状態で冷水のプールの部屋や、温水のプールの部屋、オイルの部屋など多岐にわたっているのだ。中には本を読んだり、ゲームに興じたり各々自由に過ごしており、ちょっとしたレジャー施設の様な場所だった。
むろん風呂場なので、みな裸。
裸の呪いなど気にせず過ごせることが何より気が楽だ。
「パンも売ってたんだよ。はい。土産!」
そう言うとポールに温泉で買ったパンを渡す。
興奮して鼻息の荒い私の話を黙って聞いていたポールは、くっくっと笑うとオデコをびしっと人差し指でついてきた。
「お前、楽しみすぎだろ。」
「もう、はしゃいじゃって、はしゃいじゃって。ジャンはまだまだお子様だな。」
くすくすと笑うリシャールは、ワインを飲みながら相変わらず私の頭をわしゃわしゃとかき乱す。
だって、しょうがないじゃないか。
前の世界でもレジャー施設なんて行った経験ないんだし。
なんだか、二人でデートしてるみたいで、少し嬉しかったんだ。
少しむくれながら、髪を整え、テーブルに置かれる食事に手を付ける。
「明日はどうする? 」
「ああ。明日はアドゥール川付近にでも行くか。」
「市の立つ日ではないけどいいか?」
「しかたあるまい。」
2人の会話を聞いていると、どう見ても観光している様にしか見えない。
何か根拠があっての行動なのだろうとは思うが、こんな食堂で込み入った話をするわけにいかないのだろう。
明日は川かぁ。視察楽しいな。
こうして、観光という名の視察をしつつ、3日目の朝となった。
目の前には黒い馬、茶色い馬。まだらな馬が狭い柵の中を歩いたり、草を食んだりしている。
リシャールの怪我は本当に回復が早く、まだ2週間たってないのに、もう馬にも乗れるらしく、彼を乗せた馬は手綱を引かれるままにゆったりと柵の中で歩みを進めている。
順調に馬を乗りこなしているが、走らせるとまだ怪我に響くらしく、とりあえず一匹の馬を調達し、それをリシャールと二人で乗って帰ることになっていた。
ポールはもちろん朝起きると早々に食事を済ませ、先に馬を走らせて帰ってしまっている。
リシャールと遅ればせながらも簡単に食事を済ませると、二人で乗る馬を買いに来たのだ。
柵の外から見ていると、リシャールが乗馬したまま近づいてくる。
「お前の馬になるんだ。気の合うやつを選べよ。こいつはどうだ?」
「え?リシャールはいらないの?」
「俺には相棒がすでにいるからな。お前が使う馬になる。」
馬はトーナメントで手に入れろと、ペトロスに教わっていたが、お金で解決できるならそれに越したことはない。
リシャールの仕えている人は裕福なのか、よほど急いでいるのか。しかしどちらにしても、お金にそんなに困っていないのは確かなのだろう。
私は馬には乗ったことがないのだが、リシャールと帰りがてら教えてもらうという事になっていたのだ。
気が合うも何も、見るのも触るのも初めてで、どうしろというのだろう。
オロオロしているとリシャールが馬から降りると手招きをする。
「来いよ。ほら。撫でてやるんだ。怖がってるとダメだ。嘗(な)められるからな。」
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる