8 / 84
旅立ち
6(1/2)
しおりを挟む
「まぁ座れよ。」
そう言うと男は、店主が持ってきた食事を奪うように掴むと食べ始めた。
随分と飢えていたようで、しばらくもくもくと食事をしている。
その食いっぷりに唖然としながら店主に勧められるままにエールを飲んでいると、腹がひと落ち着きしたのだろうか、男がリュートが入った皮の袋を指さした。
「お前、これはリュートだろ? 演奏するのか? ジョングルールでは、ないようだな。佩刀しているな。では、トルパドールか?」
ジョングルール。神父に聞いたことがある。演奏や歌を生業とする旅芸人の事だ。
「はい。村を出たばかりですが。トルパドールになりたいと思っています。」
「かせ。」
男は鋭い目でそう言うと顎で催促する。
もうやだ。マジで怖いこの人。
人のお金で飲み食いしてるのに、なんでこんなに威圧的なんだろう。
リュートの値踏みでもするのかな。
取られて売られたらどうしよう。
いや。それは断じてさせられない。
神父様の大事な楽器だ。
隙を見て、逃げるのがいいかもしれない。
今は取り合えず言う事を聞いて、機嫌を取りつつ酔いつぶして逃げる。
泣きたい気持ちでおずおずと袋を掴み、中からリュートを取り出す。
「ッチ。早くかせ。」
舌打ちと共に大きな手で肩を思い切り掴まれる。驚いて見上げると男の顔が甘い香りと共に近づいていた。
薄暗い店の中ではあまり見えなかったが、改めて近くで見ると切れ長の目にきれいな鼻筋に妙に色っぽい口。
それら一つ一つのパーツが美しく配置され、思わず見とれてしまう。
その間にリュートをひっつかんで奪われてしまった。
「あ。あの、それは私の大事な・・・」
それがいかに大事かを説明して取り戻そうと思っていたのだが、男はこちらの話など聞く耳を持たぬ様で、リュートをつま弾いた。
シャラリ
美しい音色が広がる。
そしてその音に合わせて歌いだす。
こうして陽気で *¹
素敵な旋律に
そぎ落とし磨きをかけた言葉を乗せる
あとは仕上げに
やすり
すると言葉は確かな真実に
それは愛の仕業またたく間に滑らかにきらびやかにする
私の歌を
歌の源はあの方
その人は神の導きによって導かれ生き続ける
その場の喧騒はいつの間にか静まり、みな歌声に耳を傾けていたようで、彼が歌うのを辞めると一斉に歓声が起きた。
それに照れながら手を挙げる彼の笑顔は眩しく、美しい。
興奮して立ち上がったり、思わず彼の上げた手を握りしめていた。
「すっごくいい曲ですね!! あなたが作ったのですか? 」
「だろ!? いい曲だろ!? オレも凄く気に入ってるんだよ。これな? 友達のダニエルの曲なんだよ。アイツはまだ途中だと言っていたんだけど、あまりに美しいから歌わせてもらってい
るんだよ。すっごくいいよなぁ?」
「韻の踏み方とか、最高ですね!」
「だろ??」
ひょんな所で意気投合した男は、リシャールと名乗った。
話してみると気のいい男で、目つきは悪いが笑顔が人懐っこく、周りにはいつの間にか人が集まる、そんな人物の様だ。
音楽の話で意外と盛り上がり、それと共に進められるがままにお酒も進みいつの間にかしたたかに酔い、ふら付く体を支えられ、宿として使われている2階に上がりベットの上に転がされた。
「今回は酔いちゅぶれ(つぶれ)なかったぞー。」
「あー。すごいすごい。お前が酒が弱いのはよく分ったよ。まったく、飲めないなら最初から言えよ。めんどくせぇな。」
「弱くありましぇん。」
「へーへー。オレはもう少し飲んでくるな。」
「ふぁーい。いってらっひゃーい。」
扉が閉まるのを確認して、薄明りの灯る部屋でおもむろに着替えを始める。
「あしぇ(汗)だらけらよー。くせぇー。」
トマの服は丈は短いが幅が大きい。
こちらの服は紐で結ぶタイプでゴムやボタンなどではないので、サイズが少々違っても着れるのだが、かなりダボついた状態で、布の面積が多く暑い。
土埃や汗まみれの服を着て寝るのはまだ慣れない。
裸で寝る者も居ると聞いたことはあるが、そんな事したら全裸の呪いのせいできっと事件が起こる。
「そんなのヤバイな。ヤラレちゃうよ。」
*1 フランシス ギース『中世ヨーロッパの騎士』より
そう言うと男は、店主が持ってきた食事を奪うように掴むと食べ始めた。
随分と飢えていたようで、しばらくもくもくと食事をしている。
その食いっぷりに唖然としながら店主に勧められるままにエールを飲んでいると、腹がひと落ち着きしたのだろうか、男がリュートが入った皮の袋を指さした。
「お前、これはリュートだろ? 演奏するのか? ジョングルールでは、ないようだな。佩刀しているな。では、トルパドールか?」
ジョングルール。神父に聞いたことがある。演奏や歌を生業とする旅芸人の事だ。
「はい。村を出たばかりですが。トルパドールになりたいと思っています。」
「かせ。」
男は鋭い目でそう言うと顎で催促する。
もうやだ。マジで怖いこの人。
人のお金で飲み食いしてるのに、なんでこんなに威圧的なんだろう。
リュートの値踏みでもするのかな。
取られて売られたらどうしよう。
いや。それは断じてさせられない。
神父様の大事な楽器だ。
隙を見て、逃げるのがいいかもしれない。
今は取り合えず言う事を聞いて、機嫌を取りつつ酔いつぶして逃げる。
泣きたい気持ちでおずおずと袋を掴み、中からリュートを取り出す。
「ッチ。早くかせ。」
舌打ちと共に大きな手で肩を思い切り掴まれる。驚いて見上げると男の顔が甘い香りと共に近づいていた。
薄暗い店の中ではあまり見えなかったが、改めて近くで見ると切れ長の目にきれいな鼻筋に妙に色っぽい口。
それら一つ一つのパーツが美しく配置され、思わず見とれてしまう。
その間にリュートをひっつかんで奪われてしまった。
「あ。あの、それは私の大事な・・・」
それがいかに大事かを説明して取り戻そうと思っていたのだが、男はこちらの話など聞く耳を持たぬ様で、リュートをつま弾いた。
シャラリ
美しい音色が広がる。
そしてその音に合わせて歌いだす。
こうして陽気で *¹
素敵な旋律に
そぎ落とし磨きをかけた言葉を乗せる
あとは仕上げに
やすり
すると言葉は確かな真実に
それは愛の仕業またたく間に滑らかにきらびやかにする
私の歌を
歌の源はあの方
その人は神の導きによって導かれ生き続ける
その場の喧騒はいつの間にか静まり、みな歌声に耳を傾けていたようで、彼が歌うのを辞めると一斉に歓声が起きた。
それに照れながら手を挙げる彼の笑顔は眩しく、美しい。
興奮して立ち上がったり、思わず彼の上げた手を握りしめていた。
「すっごくいい曲ですね!! あなたが作ったのですか? 」
「だろ!? いい曲だろ!? オレも凄く気に入ってるんだよ。これな? 友達のダニエルの曲なんだよ。アイツはまだ途中だと言っていたんだけど、あまりに美しいから歌わせてもらってい
るんだよ。すっごくいいよなぁ?」
「韻の踏み方とか、最高ですね!」
「だろ??」
ひょんな所で意気投合した男は、リシャールと名乗った。
話してみると気のいい男で、目つきは悪いが笑顔が人懐っこく、周りにはいつの間にか人が集まる、そんな人物の様だ。
音楽の話で意外と盛り上がり、それと共に進められるがままにお酒も進みいつの間にかしたたかに酔い、ふら付く体を支えられ、宿として使われている2階に上がりベットの上に転がされた。
「今回は酔いちゅぶれ(つぶれ)なかったぞー。」
「あー。すごいすごい。お前が酒が弱いのはよく分ったよ。まったく、飲めないなら最初から言えよ。めんどくせぇな。」
「弱くありましぇん。」
「へーへー。オレはもう少し飲んでくるな。」
「ふぁーい。いってらっひゃーい。」
扉が閉まるのを確認して、薄明りの灯る部屋でおもむろに着替えを始める。
「あしぇ(汗)だらけらよー。くせぇー。」
トマの服は丈は短いが幅が大きい。
こちらの服は紐で結ぶタイプでゴムやボタンなどではないので、サイズが少々違っても着れるのだが、かなりダボついた状態で、布の面積が多く暑い。
土埃や汗まみれの服を着て寝るのはまだ慣れない。
裸で寝る者も居ると聞いたことはあるが、そんな事したら全裸の呪いのせいできっと事件が起こる。
「そんなのヤバイな。ヤラレちゃうよ。」
*1 フランシス ギース『中世ヨーロッパの騎士』より
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる