《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ

ぽむぽむ

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「なに?」
「いや、すっかり親子なんだと思っていたんだ。まさか、お前たちまさか、初対面同士なのか?」
「お兄さんまで・・・。おれ、そんなに童顔なのかなぁ。そりゃまだ背はみんなより低いけどさぁ・・・。」
「あっはっは。まぁ、息子と呼んでやってもいいがなぁ。ああ。そうだ、兄ちゃん。お前さん剣の腕は確かと見た。こいつに少し稽古つけてやってくれよ。まだ剣も選べねぇひよっこだからよぉ。」
「おやじぃ!! 余計なこと言うなって!! 」
「剣? 選べないのか? 」
「え? あ、いや、まぁ・・・。その・・・。」

そう口ごもっていると、店主が店から適当な剣を2本取ると、投げてよこす。

「ほら、一汗かかせてもらってこい! 息子ぉ! 」
「うるせぇよ。息子って呼ぶな! 」

店主から2本の剣を受け取りながら軽口を叩くが、内心ドキドキが止まらない。
忙しいクリスマスが終わり穏やかな日常に戻ったのに、目の前にたくさんの騎士たちがいるなか、なんだか気後れしてしまって、手合わせをしてもらったことがなかったのだった。
騎士ウィリアムがいてみんな夢中だったせいで、素人を相手にしてもらう空気がなかったのもあるが、実は最初の手合わせはリシャールが良いと思っていたのもある。
城内の浮ついた空気で忘れていたが、戦が目の前にあるのだ。
そんな甘っちょろいこと言っている場合じゃなかったのに。
どんな機会でも、誰とでも、手合わせすべきだったのだ。
そして、今目の前にいる、必要以上に殺気の出せる男など、願ってもないチャンスなのだ。
剣を男に渡しながら、しっかりと目を見てこのチャンスを逃さないように頼みこむ。

「お願いします!!」

男は意外そうな顔を一瞬するが、すぐに表情を崩すと少し笑った。

「わかった。」




おれは少し後悔していた。
突っ伏して倒れ込んでいた体をどうにか動かしてみる。
目の前には四角く切り抜かれた星空が見えた。
冷たい1月の風が泥まみれの顔を撫でていくのが気持ちがいい。
ゆるゆると腕を上げてみるが、手は震えていて、何も掴めそうにない。
そしてもう、一歩も動けそうもない。
素人がいきなりチャンピオンに手合わせをお願いしてしまったようだ。
しかもチャンピオンは手を抜かない主義ときた。

「・・・チャンピオン、強ぇー。」

どうにか絞り出した声に、反応がある。

「はは。チャンピオンか。・・・お前、素質は悪くないと思うぜ。まぁ、頑張れよ。オレはそろそろ帰るぞ? 」

笑い声と共にコツンと腰のあたりを足でこづかれ、慌てて体力を振り絞って上体を起こす。

「ありがとうございました! あの、おれアクテヌ公付の騎士、ジャンって言います。」

起き上がるまで待ってくれていた男は少し目を見開くと、くるりと背を向けて歩き出した。

「あ、あの、また良かったら手合わせしてもらえますか? 」

背中に話しかけると、腕が上がり、手がひらひらと動いた。

「ああ、また、会えたらなぁ。」

そう言うと、店の中に入って行った。
店では店主が大きな声で挨拶をしてくれているようだった。

「ホントの親父かよ。」

乾いた笑いが溢れたが、それが最後の気力だったらしい。
疲れ果ててそのままゴロリと寝転がると四角い星空を眺める。

そういえば、名前も素性も知らないのに、また会えたりするのだろうか。
ひょっとして常連さんとかなのかな。
親父に聞いてみないといけないな。

そうして、そこから重いまぶたを開ける努力を放棄して落ちるように眠りについた。






ーーーあとがきーーー

ジャンがワンコすぎる。リシャールが心配するのわかるわー。




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