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旅立ち

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外にある水貯めで軽く体を拭き、部屋に戻るとまだリシャールは眠っている。
何だかほっとしてしまった自分に驚く。
別にリシャールは待っていた訳でもなく、ただ寝息を立てているだけだ。
誰かの寝ている家に帰る事など沢山あった。
でも、何か違う。
神父と一緒に居た時とも、まったく違う感情に胸が少しざわざわする。
分からない感情に恐怖を感じ、リシャールの肩をゆすり、とりあえず起こす事にした。

「リシャール。起きて。今日はもう此処から出るから。」
「あー。」
「ねぇねぇ。ほら。お腹減ってない? おかみさんになんか作ってもらう?」
「あー。」
「・・・ねぇ! リシャール! 起きてってば! 」

穏やかな寝顔から眉間に深いしわが入ったかと思うと、鋭い光を放ちながら剣呑な目が開き、地を這うような低い声が響く。

「・・・うるせぇ。」

こ、こわー。
何、この人怖い。
起こしただけなのに命取られそうだわ。 

ドン引きしながら眠るリシャールを眺めていると、背後の扉がノック音と共に開き男が入ってくる。
彼は昨日の朝からリシャールの傍にずっとついている男で、名前はポールといった。

「よう。起きねぇだろ。こいつ。」

そう言うとポールはおもむろにリシャールの上に馬乗りになり、ぺちぺちと頬を叩く。

「おい。リシャール。起きろ。」

そう言いながら次第に力が強くなる。
平手殴りが拳になってもまだ起きない。

こんな恐ろしい状況を見させられて恐怖しない人間がいるなら、お目にかかりたい。
どんな状況なの。これ。
こんなまでされてなぜ寝ていられる?
もしや、死んだのでは??
そして、ポールもポールでなぜそこまでして起こす??
もはやあきらめていいのでは?

そろそろ止めた方がいいなと思い始めた時、

「起きろって!!」

とポールが半ばキレ気味の顔をしながら腹に蹴りを入れた。
流石にコレは効いたらしく、

「ぐふぅ」

っとリシャールのうめき声が聞こえたと思ったその瞬間。
ベットの上でリシャールの体に足をかけていたポールの体が私の横の壁に吹っ飛んできた。

ドン!!

っと鈍い音のあとにズルルとポールが壁をずり落ちる。
恐る恐る視線を壁からベットに戻すと、ゆっくりと目の座った地獄の悪魔が起き上がる。

「おぅ。・・・良い目覚めじゃねぇか。ポールこの野郎。」
「・・・おぅ。良い朝だ、寝ぼけ野郎。」

美しく筋肉質な一糸まとわぬ裸体を晒しながらゆらりと立ち上がる長身の悪魔は、のっしとベットから降りるとポールの胸ぐらを掴んで起こすとそのまま抱きしめた。

「わりぃ。寝てたわ。」
「あぁ。オレもやり過ぎた。」
「おぅ。そうだな。やべーぐらい痛てぇや。これ。」
「・・・あぁ。腹、蹴りすぎたな。マジですまねぇ。ちょっと腫れてんな。肋骨折れてっかもな。」
「はっは!! マジで?? って、はっ。いてぇー。笑うとやべぇ。あはっは! いってぇ。」

ポールに支えられながらツボに入ったように痛がりながら笑うリシャール。

こいつら異常だ。

そんな二人を見ていると、視線に気が付いたリシャールが思い切り笑顔で報告してきた。

「おぃジャン、見ろよ。骨折れてんのに、ち〇こ勃ってんだけど。」
「おう。ジャン、鎮めてやれよ。」

ぎゃっはっはっと怪我人の肩を支えながら泣き笑いしているポールと、痛みをこらえるのか何をこらえるのか分からなくなって笑いながら苦しむリシャール。

「付き合いきれないよ! お前ら一緒に地獄に帰れ! バカ! もう、下て待ってるからな! 」

とんでもない人間と知り合ってしまったようだ。

よくわからないが赤らむ顔を冷ましながら、階段を下りていると、おかみさんが階段の下から顔を出した。

「随分大きな音がしたけど。大丈夫かい?」
「おかみさーーん!」
「あぁ。坊は大丈夫そうだね。それならいい。」

そう言うと笑顔で「スープ食べるかい?」と言ってくれる。

おかみさんが天使、いや。女神に見える。
全身全霊で甘える事にした。








ーーーあとがきーーー

甘える相手が出来ましたね。よかった。








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